近刊です。

『日本美術全集 17 前衛とモダン』003

小学館刊行
北澤憲昭著 
定価 :本体15,000円+税 
発売日 2014/06/25
 
判型/頁 B4判/320頁
 
 
美術「誕生」を経て、美術「変容」へ
明治末から大正にかけて、日本の近代美術は内面性と社会性に目覚めてゆきます。高村光太郎が芸術の絶対自由を叫び、荻原守衛は内的生命を高らかに歌い上げ、岸田劉生が内なる美を唱えます。
伝統派の絵画に、装飾性に満ちた清新な地平が切り開かれたのもこの時代でした。
そして、アヴァンギャルドたちは絵画や彫刻の枠から美術を解き放ち、民芸運動は美術と生活につながりを見出してゆきます。
関東大震災に見舞われたこの時代は、明治がつくりあげた美術が激しく揺さぶりをかけられた時代でもあったのです。
黒田清輝、青木繁から始まるこの巻では、明治が創り上げた美術が大いに変容していく時代に登場した作品を、「自己表現の自覚」と「社会性への目覚め」という新しい視点と数多くの作品で俯瞰します。

目次
 はじめに  北澤憲昭
 テクノロジーからアートへ ―― 制度史的なスケッチ  北澤憲昭
 「表現」の絵画  北澤憲昭
  (コラム)日本近代美術史にみるユートピア思想  足立 元
  (コラム)震災の記録画  ジェニファー・ワイゼンフェルド 
 図案と写真  森仁史
  (コラム)書の近代 ―― 「型」から造型へ  天野一夫
 偶景『狂った一頁』 ――日本映画と表現主義の邂逅  藤井素彦
 都市空間のなかの造型 ―― 建築・彫刻・工芸  藤井素彦
 いけばなの近代化と未遂の前衛  三頭谷鷹史
 前衛――越境する美術  滝沢恭司
 図版解説
 関連年表
 序文英訳・英文作品リスト
 
『日本美術全集』。小学館さんの創業90周年記念ということで、一昨年から全20巻の予定で刊行中です。刊行開始時、この手の全集ものの刊行は時代の流れに逆行しているという批判、「大丈夫か?」と危ぶむ声などがありました。そのあたりは、編集委員でもある美術史家の辻惟雄氏による「日本美術全集の刊行にあたって」に詳しく書かれています。
 
世界あるいは日本の美術史上の作品を網羅して、パブリック(一般読者層)に提供する大型の「美術全集」が日本で初めて刊行されたのは、昭和初期の平凡社版『世界美術全集』(1927〜30)が最初とされる。
第二次大戦後、平凡社から再び『世界美術全集』が出された。そのとき高校3年だった私は、父にねだって、黄色い布の表紙に皮の背表紙をつけた第1回配本を手に入れた。そのときの喜びは忘れられない。
以後、角川書店版『世界美術全集』を経て、小学館の『原色日本美術』(1966‐1972)が空前の美術出版ブームを巻き起こし、その余熱のなかで、学研版『日本美術全集』(1977-80)、講談社版『日本美術全集』(1990‐94)、小学館版『世界美術大全集(西洋編・東洋編。日本美術は含まず)』(1992‐2001)と続いた。しかし、このあたりで、美術全集の刊行は途切れてしまう。編集費の増加が定価を釣りあげた。テレビの美術番組や展覧会カタログが充実してきた。執筆内容がアカデミックで難解になった。大型本を置く場所がない、などの理由に加えて、コンピュータによるデジタル画像の普及が、紙に印刷する美術図書の存続を脅かしている、という見方もある。
だが、そのような状況にあっても、従来の大型版『美術全集』は引き続き必要だ。
美術作品の観賞には、大型の図版が必須である。将来それは、家庭に備えられた大型の液晶パネルに表示された画像に取って代わるかもしれない。だが決して簡単には実現しないだろう。版権など、ややこしい問題が控えているからだ。場所塞ぎとはいえ、大型本『美術全集』の役割はまだまだ続くだろう。ただ、古びた内容だけは御免だ。
今回の企画は、アカデミズムの世界からスタートしながら、あえて日本美術の広報担当者を目指す山下裕二氏の案に基づいて発足した。気鋭の若手美術史家の登場を促すと同時に、難解な論文をチェックする。最近の研究成果を反映させ、若者の美意識にも添った新たな作品の価値づけをする。新鮮で魅力ある図版を載せる。「東アジアの中の日本美術」(第6巻)、「若冲・応挙、みやこの奇想」(第14巻)「激動期の美術」(第16巻)、「戦争と美術」(第18巻)など、巻立てにも新しさを盛り込む――こうした様々の工夫がなされている。
20年ぶりの『日本美術全集』に、ご期待いただければ幸いである。
 
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あえてこの時代にこうした豪華全集を世に問う小学館さんの英断、出版社としての良心に敬意を表さざるを得ません。
 
ぜひお買い求めを。
 
【今日は何の日・光太郎 補遺】 6月23日
 
平成7年(1995)の今日、テレビ朝日系「驚きももの木20世紀」で「愛の詩集「智恵子抄」の悲劇―高村光太郎と妻・智恵子―」が放映されました。
 
司会は三宅裕司さん、麻木久仁子さ005ん。スタジオゲストは斎藤慶子さん、故・池田満寿夫さん。ナレーションは伊東由美子さん、間宮啓行さん。
 
Vには北川太一先生、高村規氏、さらには、光太郎の親友・水野葉舟のお嬢さんで、やはり光太郎と交流のあった詩人・尾崎喜八と結婚した故・尾崎実子さん・栄子さん母娘、智恵子の姪・斎藤美智子さん、岩手時代の光太郎を知る宮森祐昭さんがご出演。犬吠埼、九十九里、二本松、花巻、そして今はなき不動湯温泉などでのロケ、その他資料の静止画像も豊富でしたし、俳優座の皆さんによる再現Vも素晴らしい作りでした。
 
翌年にはブックマン社から関連書籍『驚きももの木20世紀 作家、その愛と死の秘密』が刊行され、この回の内容も約30ページでまとめられています。