鎌倉から映画の上映情報です。

「智恵子抄」を上映

  映画「智恵子抄」(中村登監督・1967年)の上映会が6月20日(金)、鎌倉生涯学習センターホールで行われる。「鎌倉で映画と共に歩む会」が主催。午前9時15分開場、9時30分開映。入場料は前売900円、当日1千円。
 同作品は松竹大船撮影所でメガホンをとっていた中村監督の手によるもの。詩人で彫刻家の高村光太郎が妻・智恵子との30年に及ぶ愛を綴った詩集「智恵子抄」と佐藤春夫の「小説 智恵子抄」が原作となっている。第40回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。チケットは たらば書房などで販売中。予約や問合わせは【電話】0467・23・3237同会・木口さんへ。
(『タウンニュース』)
 
昭和42年(1967)公開の松竹映画「智恵子抄」です。主演は岩下志麻さん、故・丹波哲郎さん。
 
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以下、昭和63年(1988)刊行の雑誌『彷書月刊』第4巻第10号「特集 高村智恵子」に載った岩下さんの回想です。
 
 私が、高村光太郎さんの『智恵子抄』の智恵子を演じさせて戴いたのは昭和四二年ですから、もう随分昔になります。
 中村登監督のもとで、光太郎役は丹波哲郎さんでした。
 その時、はじめて智恵子の切り絵を見せて戴きましたが、優れた色彩感覚、繊細で巧妙な技術、その切り絵から智恵子の純粋な魂の叫びが聞こえてくるような感動で、長い間見とれていたのを今も鮮明に覚えています。又、精神に異常をきたしてしまった智恵子をうたった光太郎の詩の何篇かに心から涙しました。
 『智恵子抄』は、夫婦の愛のあり方、愛についてを改めて考えさせられた作品でもあります。今も、私は“智恵子”と聞くと、病弱で非社交的でやさしいが勝ち気で、単純で真摯で、愛と信頼に全身を投げだしているような智恵子が目の前にいる様で、なつかしさでいっぱいになります。
 それ程、『智恵子抄』は、私にとって心に残っている映画の一つです。
 
販売用のDVD等になっていない作品ですが、このようにポツリポツリとではありますが、上映され続け、ありがたいかぎりです。販売用DVDにしていただけるとありがたいのですが、かえってそうなっていないからこうして上映され続けているのかもしれません。

 
【今日は何の日・光太郎 補遺】 6月11日
 
昭和16年(1941)の今日、詩「荒涼たる帰宅」を書きました。
 

  荒涼たる帰宅
 006
あんなに帰りたがつてゐた自分の内へ
智恵子は死んでかへつて来た。
十月の深夜のがらんどうなアトリエの
小さな隅の埃を払つてきれいに浄め、
私は智恵子をそつと置く。
この一個の動かない人体の前に
私はいつまでも立ちつくす。
人は屏風をさかさにする。
人は燭をともし香をたく。
人は智恵子に化粧する。
さうして事がひとりでに運ぶ。
夜が明けたり日がくれたりして
そこら中がにぎやかになり、
家の中は花にうづまり、
何処かの葬式のやうになり、
いつのまにか智恵子が居なくなる。
私は誰も居ない暗いアトリエにただ立つてゐる。
外は名月といふ月夜らしい。
 
この年8月に刊行された龍星閣版オリジナル『智恵子抄』のために書き下ろされたと推定されています。
 
右上はありし日の智恵子と光太郎。昭和3年(1928)、箱根での一コマです。