『朝日新聞』さんの岩手版に以下の記事が出ました。

光太郎の手紙見つかる

 詩人で彫刻家の故高村光太郎の手紙が、縁者の家から見つかった。実弟で鋳金家の故高村豊周(とよちか)の元妻に宛てた手紙で、悲しみを慰めるプライベートな内容となっている。近く花巻市の高村記念会に寄贈される予定で、同会は「第一級の資料」と喜んでいる。
 
 手紙は、豊周と離婚した故和田美和さんに宛てたもので、親類の神奈川県大磯町の進(しん)慶子さん(66)が、和田さんから預かっていた荷物の中から見つけた。高村記念会に連絡をとり、光太郎全集や豊周全集などにも載っていない新資料で、直筆だと確認された。
 
 内容は「ただあなたの未来の御幸福御健康を祈ります。あなたがどうかして此(こ)の悲(かなし)みから早く脱却される事をのみひたすら祈ります」などと記され、離婚に関連していると推測される。
 
 手紙の冒頭に「おてがみ再読しました」とあり、和田さんの手紙を受けての返信とみられる。
 
 手紙の末尾に「八月二十四日」と書かれ、封筒の消印は翌日の昭和8(1933)年8月25日。光太郎は23日に、精神が不安定になった妻智恵子との離婚届を出し、24日夜には2人で旅行に出かけており、手紙はその直前に書かれ、投函(とうかん)されたことになる。
 
 忙しい中で書簡をしたためたとみられ、記念会では、光太郎の誠実さが読み取れるとしている。
 
 進さんは、子どもがなかった和田さんの世話をしており、没後約20年たった数年前、預かった荷物を捨てようと整理をしていて、手紙の差出人に「高村光太郎」という文字を見つけた。和田さんから生前、高村家との関係を聞いており、「自分で持っていてももったいないので活用できるならしてもらいたい」と寄贈を決めたという。
 
 光太郎は、「道程」「智恵子抄」などの詩集や、十和田湖畔のブロンズ像「乙女の像」などの作品で知られているが、見つかった手紙には、これらの制作過程にかかわる記載はなく、プライベートなものだけ。
 
 だが、新たな人となりが見えてくる可能性もあり、同会は「研究者の手で解明してもらいたい」とし、公開については「遺族などと協議をして決めたい」としている。
 
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この書簡の存在については、昨秋、花巻の高村光太郎記念会さんから情報を得ていましたが、予定では明日、記念会さんに寄贈されるとのことで、記事になったようです。
 
傷心の元義妹に宛てたもので、慈愛に溢れたいい文章です。ただ、公序良俗に反することが書いてあるわけでもないのですが、やはり家庭内のゴタゴタにからむ内容なので、記念会さんとしてもあまり大っぴらに公開はしない方向とのこと。それでいいと思います。
 
離婚の経緯などについては、豊周自身が自著『自画像』(昭和43年=1968 中央公論美術出版)の中で、かなり具体的に語っており、特に極秘事項というわけでもないのですが、ことさらに取り上げるべき事柄ではないと思います。
 
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売れば売ったでかなりの金額になるものです。ところが、現所有者の方は、全くの善意で寄贈してくださるとのこと。すばらしいと思います。
 
ところで記事の中で「光太郎は23日に、精神が不安定になった妻智恵子との離婚届を出し、」とあるのは大間違いで、正しくは婚姻届です。何をどう間違えたのか、全く逆になってしまっています。
 
昭和8年(1933)というと、智恵子の統合失調症がかなり進んでいた時期です。光太郎は智恵子の故郷近辺の温泉巡りでもすれば少しは病状が好転するかと考え、智恵子を連れて旅に出ました。昨年焼失してしまった福島の不動湯や栃木の塩原温泉などを巡っています。8月24日のことです。その前日に、本郷区役所に婚姻届を提出しています。永らく事実婚だったのを、光太郎は自分に万一のことがあった時の智恵子の身分保障のため、そうしたのです。
 
その同じ日にこの書簡が書かれているということで、忙しい中に手間を厭わなかった光太郎の慈愛の念が感じられます。
 
ちなみに盛岡てがみ館さんでは、来週月曜まで、企画展「高村光太郎と岩手の人」を開催しています。まだまだ各地に眠っている光太郎書簡はかなりあると思われます(もしかすると智恵子書簡も)。こうした書簡類、死蔵されたままにならないことを祈ります。
 
【今日は何の日・光太郎 補遺】 6月3日

昭和26年(1951)の今日、花巻郊外旧太田村の山小屋に、二間×三間の別棟が増築されました。
 
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右が昭和20年(1945)からの元々の小屋、左が増築された別棟です。ちなみによく見ると二つの小屋の間で光太郎が手を振っています。

現在、増築部分は少し離れた場所に移築、倉庫的に活用されています。
 
費用は詩集『智恵子抄』版元の龍星閣が持ちました。同社は明瞭な印税制をとらず、こういう形で光太郎に還元したそうです。