埼玉県飯能市にある駿河台大学発の情報です。
オープンキャンパス模擬授業 詩という形のラブレター ―高村光太郎『智恵子抄』入門
講師 現代文化学部 長尾建准教授
「いやなんです
あなたのいつてしまふのが―」
あなたのいつてしまふのが―」
この場合「いつてしまふ」というのは、恋愛相手が誰かよその人間と結婚することを表しています。つまり、詩人は恋愛相手がよその人間と結婚することに、詩という形で全力で反対しているのです。
これは一種のラブレターと言えるでしょう。この行間からは、よその人間ではない、私とあなたが結婚するべきだ、という思いがにじみ出ています。これを読んだ一女性は、何と幸福な思いを抱いたでしょう。
ところが、このラブレターは雑誌に公開されたのです。高村は実直な青年であったので、または恥じらいの気持ちから、この詩を公開したのでしょう。そもそも、ラブレターというものは、非公開性と言うか相手以外見ることがない、そのような状況で書かれるものです。これを公開された智恵子はどのようにこれを受け取ったのでしょうか。
一般にこの詩を読んだ女性は、この話はフィクションであり、作られたものと考えるでしょう。その上で、このような発言をする男性が私のまわりに現れたならな~と、あたかも自分自身にあてられたラブレターとして読むでしょう。まさにそれが『智恵子抄』が現代まで読み継がれる要因なのですが、一方で、「あなた」と呼ばれた智恵子はどのようにこの詩を受け止めたでしょうか?
他の読者は知らない、まさに長沼智恵子にあてられたラブレター。二人だけに共有される私秘性、そこには強烈なロマンティシズムがあるのではないでしょうか。
講師の長尾さんは高村光太郎研究会の会員。おもしろい模擬授業が受けられるのではないでしょうか。
【今日は何の日・光太郎 補遺】 3月18日
大正6年(1917)の今日、福島磐城から、親友で作家の水野葉舟に宛てて絵葉書を書きました。
曰く、
大理石購入の為めこんな所迄来ました。二三日で帰るでせう 帰つたら行きます 光 1917
大理石は石灰岩の一種。日本でも産出されています。絵葉書は「磐城炭鑛株式会社小野田坑」。一帯はかつて炭坑が数多く掘られ、石炭は「黒ダイヤ」と言われていました。
現在は採炭はほとんど行われておらず、温泉を活用し、炭坑跡に「フラガール」で有名な現在の「スパリゾートハワイアンズ」が作られています。東日本大震災直後のフラガールたちの活躍は記憶に新しいところですね。