昨日は、茨城は笠間に行って参りました。笠間といえば茨城県の中央部、笠間稲荷神社と陶芸の笠間焼で有名な街です。
一番の目的は映画鑑賞でした。他にも日動美術館というところに行って参りましたが、そちらは明日書きます。
当方が観てきた映画は、昨年、岡倉天心を主人公として製作され、全国各地で順次公開されている「天心」という映画です。ただ、大手配給会社によるものではないので、どこでも観られるわけではなく、当方生活圏内では公開されていません。昨年のうちに都内か横浜あたりで観ようと思っていたのですが、なかなか日程が合わず、昨日になってしまいました。


岡倉天心といえば、明治新政府の文明開化政策の一環としての廃仏毀釈、西洋化による日本伝統文化の衰退を憂い、アーネスト・フェノロサともども仏教美術の保存に尽力した人物です。また、東京美術学校開設に奔走し、光雲を美校に招聘したほか、光太郎在学中には校長も務めていました。
昨年、福島二本松「智恵子のまち夢くらぶ」さん主催の「智恵子講座’13」で講師を務めさせていただき、その辺りに関して講義をいたしましたので、ぜひ観たいと思っておりました。
天心は美校辞職(罷免)後、日本美術院を創立、日本伝統美術の保護とさらなる進化に取り組みます。しかし、天心とその薫陶を受けた画家たち―横山大観ら―の新しい試みは「朦朧体」と揶揄されなかなか受け入れられず、現在の北茨城市五浦(いづら)に「都落ち」し、苦闘の日々を送りました。
その天心を主人公とした映画、というわけです。公式サイトはこちら。
キャストは天心役が竹中直人さん、横山大観に中村獅童さん、菱田春草の平山浩行さん、下村観山で木下ほうかさん、木村武山を橋本一郎さん、狩野芳崖には温水洋一さんなど。
美術学校時代のシーンで、光太郎や光雲が登場するかと期待していたのですが、残念ながらそれはありませんでした。美校時代のエピソードは少なく、五浦に移ってからの苦闘の日々がメインだったので、いたしかたありません。
ところでこの映画、「復興支援映画」と謳っています。東日本大震災では、天心が建てた五浦の六角堂が津波に呑まれてしまうなど、茨城県にもかなりの被害がありました。同作品公式サイト内には以下の記述があります。
本作品は、明治にあって日本の美を「再発見」し、新しい美を生み出そうと苦闘する天心と 若き画家たち - 横山大観・菱田春草・下村観山・木村武山 - らとの葛藤と師弟愛をテーマとして描くべく、今から3年ほど前に企画がスタートいたしました。
そして忘れもしない 2011年3月11日14時46分18秒「東日本大震災」が発生。千年に一度とされる大地震と津波は、多くの方々の「家」や「命」を奪い去りました。
茨城県でも沿岸部を中心に甚大な被害を受け、天心が思索に耽った北茨城市・五浦海岸の景勝地にある貴重な文化遺産の「六角堂」も流出、海中に消失しました。
主なロケ地である茨城県の被災に、本作品も一時は映画化を危ぶまれましたが、一日も早い 復興を願う県内の行政・大学・企業・美術界・市民団体などで構成される「天心」映画実行委員会 が発足し、本作品映画化のプロジェクトが再始動いたしました。
2013年には生誕150年・没後100年を迎える岡倉天心が終生愛した茨城の美しい自然を織り込んだ 映画「天心」は、茨城を日本をそして世界を「元気」にすることをめざします。
そんなわけで、渡辺裕之さん(九鬼隆一)、本田博太郎さん(船頭)、キタキマユさん(菱田春草の妻)など、茨城出身の俳優さんが多く出演なさっています。他には神楽坂恵さん、石黒賢さんなどなど。
当方が観に行ったのは、笠間市のショッピングセンター内の「ポレポレホール」。笠間は木村武山の故郷です。現在、関東で公開されているのはここだけのようで、ロビーには映画で実際に使われた小道具類が並んでいました。


忘れ去られつつある伝統を継承しつつ、さらに新しい美を生み出そうと苦闘する登場人物たちの描写には感銘を受けました。特に肺を病んでの病床で「仁王捉鬼図」「悲母観音」を描き続けた狩野芳崖、失明の不安を抱え、さらに生活の困窮にさらされながら「賢首菩薩」の制作に取り組んだ菱田春草のエピソード。それぞれを演じた温水洋一さん、平山浩行さんの鬼気迫る演技は白眉でした。
そういう意味では光雲や光太郎も苦闘の時代が長く、相通じるものがあるように思いました。
少し不満だったのは、春草の「黒き猫」や「落葉」といった当方の大好きな作品が扱われなかったこと、それからなぜか天心の盟友として日本美術院創設に関わり、春草や大観の直接の師だった橋本雅邦がまったく登場しなかったこと。まぁ、いろいろ権利の問題等も絡むのかも知れませんが。
映画「天心」、大規模ではありませんが、全国で公開が続きます。ぜひご覧下さい。
明日は同じ笠間の日動美術館をレポートします。
【今日は何の日・光太郎 補遺】 1月27日
昭和27年(1952)の今日、『毎日新聞』で評論「日本詩歌の特質」の連載が始まりました。