昨日、渋谷のNHK放送センターに行って参りました。10/6(日)放送の「日曜美術館 智恵子に捧げた彫刻 ~詩人・高村光太郎の実像~」のスタジオ収録を観るためです。
司会は伊東敏恵アナと俳優のARATA改め井浦新たさん、ゲストは美術にも造詣の深い作家の平野啓一郎氏でした。
驚いたのは、ほとんどぶっつけ本番だということ。収録本番前に軽くリハーサルもあったのですが、それも「カメラ戻し」―VTRが終わってスタジオの映像に戻ること―のタイミングの確認ぐらいで、実際のトークは撮り直しを一切せず、一発収録でした。
お三方とも、光太郎・智恵子についてよくお調べになっていたようで、話ははずみ、結局カメラが回っていたのは1時間近くだったでしょうか。45分の番組中、VTRが約30分、逆算するとスタジオでの部分は約15分ということになります。お三方のお話の部分もこれから編集し、それくらいの時間にまとめるとのこと。つまり放映されるのはスタジオでのお話の約3分の1というわけです。いろいろいいお話だっただけに、残念な気もします。逆に言うと、当方は全部のお話が聴けてラッキーでした。
約30分のVTRもよくできていました。8月からの短期間でよくぞこれだけ作ったという感じです。ネタバレになるのであまり細かくご紹介できませんが、千駄木や品川、花巻や十和田など光太郎ゆかりの地の映像、「生誕130年 彫刻家高村光太郎展」が次に巡回される愛知県碧南市藤井達吉現代美術館木本館長、高村光太郎記念会事務局長北川太一先生の的確な談話、そして花巻時代の光太郎の思い出ということで、花巻高村記念会理事の浅沼隆さんのお話がありました。その他、当時の写真や動画(昭和29年=1954、ブリヂストン美術館作成の美術映画『高村光太郎』から抜粋)、そして井原市立田中美術館で実際にいろいろな角度から撮影された光太郎彫刻の数々……十分ネタバレになっていしまいました、すみません(笑)。
伊東敏恵アナのナレーション、バックに流れる音楽も素晴らしく、これぞテレビの持つ威力、という気がしました。Vを観終わる頃にはなぜか涙が出そうになりました。
ただ、番組全体の方向性が、どちらかというと彫刻の技法やら美術史上における位置づけといったことよりも、人間・光太郎に突っ込んだ作りになっており、特にサブタイトルにもあるとおり、智恵子との関わりがかなり深く追求されています。その意味では「日曜美術館」といいながら、彫刻や美術史の専門家の方々には不満の残る内容かも知れません。
しかし、これは一般向けのテレビ放送であって、学会での研究発表等ではありません。スタジオでのお話も、出演者の方々それぞれの個人としてのご発言ということで、お考え下さい。当方のような立場の人間がああいう発言をすると問題があるかな、という部分もあります。ですが、一般向けに光太郎智恵子の世界を紹介するには、十分すぎる内容だと思います。
惜しむらくは45分という時間の枠ですね。また別の機会に「日曜美術館 高村智恵子」または「高村光雲」、さらには他の番組でも取り上げられることを期待します。
さて、昨日発売のNHKさんのPR誌『NHKウィークリーステラ』で、今回の放送について1ページ、紹介が載っています。一般書店でも販売されています。前田敦子さんの表紙が目印です。ぜひお買い求め下さい。
【今日は何の日・光太郎】 10月3日
昭和6年(1931)の今日、新聞『時事新報』で、光太郎の紀行文「三陸廻り」の連載がスタートしました。
実際に旅したのは8月から9月ですが、その旅の間に留守を預かる智恵子に統合失調症の症状が顕在化したそうです。日本という国時代も泥沼の戦争に向かう時期。光太郎にとって大きな転機の時期の始まりです。