昨夜、1/31のブログで御紹介しましたNHK総合のテレビ番組「探検バクモン「男と女 愛の戦略」」を観ました。
 
「相手の心をつかむ秘策を、文豪の恋文を手がかりに大解剖!」ということで、夏目漱石、光太郎、斎藤茂吉、谷崎潤一郎、柳原白蓮、芥川龍之介の書いた手紙が扱われるとのことで、30分番組で6人は多いな、と思っていましたら、前後編2回に分け、茂吉以下の4人は来週だそうで、昨夜は漱石と光太郎が扱われました。
 
光太郎に関しては、大正2年(1913)の1月28日に智恵子に宛てて書かれた手紙でした。この時智恵子は早く亡くなった日本女子大学校時代の友人・旗野八重の妹・澄子を訪ね、その実家、新潟に滞在していました。この8ヶ月後に、上高地での婚約となるわけです。ちなみに旗野家は一族に歴史地理学者・吉田東伍や政治家の市島春城を輩出した名門です。智恵子は大正5年(1916)にも旗野家を訪れています。
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大正5年(1916)、旗野家別荘での智恵子(前列左端)
後列中央、旗野澄子
 
かなり長いのですが、手紙の全文を紹介しましょう。昨夜のオンエアをご覧になった方、こういう手紙だったんだな、と参考になさってください。『高村光太郎全集』第21巻に掲載されています。
 
 今、廿六日の御葉書を見ました さつき手紙を書きましたが又書きます
 どうかそんなに私の事を心配せずに居て下さいまし
 早くお帰りになつて下さつた方が 其はうれしいに極つてますけれども 御都合があるのをもかまはず 無理にお帰りになつては却て私が すまない気がします 私はほんとに安らかな心持ちであなたを遠くおもひ抱いて居りますから あなたは なさるだけの事を静かになさつて 本当に帰つても残り惜しくなくなつたらお帰りなさい あなたの御都合といふのは多分絵の事だと考へて居ます
 今度こそは絵が拝見出来る訳ですね。大きなのをやつて居るのですか。寒い国では乾く事も遅いんでせうね。
 ゆふべは それはそれは大変な夢をみました。書いてもいゝでせうか。いゝとしませう。それは あなたが殺人犯になつたんですよ。そしてあなたを多くの人が高い台の上へ載せて 青空の下で焼き殺さうといてるんですけれど 火がないので水で殺すといつて あなたを其の台の上へのせたまま あなたの衣服を残らず取つちまつたんですよ 其でもあなたは 何だか少し笑つてゐた様です
 私は其の姿が美しくて美しくて堪らないで見つめてゐました。其のうち 何処からか血が出て来て あなたの乳の処を流れるんです 私は驚いて見てゐるうちに あなたは手をのばして木の枝によりかかつたまま 石像のやうになつて死んでしまつたんです 其れからあとは何だか活劇があつた様ですが覚えてません。これであなたの死んだ夢を二度見たんです。
 三四日前の晩には 私があなたであなたが私だつた夢をみました そして私は女の心理を始めて本当に理解した様におもつた事があります。私のこれまで経験しなかつた心持ちを 私のあなたが感じてゐたんです。其の夢は大変長いんですが 衣服の模様まで明瞭に記憶してゐます。これは今に お話して上げませう。
 其の時、女でゐた私が、男のあなたに 帽子(洋服でゐたんですよ。西洋の事なのです)を、其も駝鳥の羽毛の大きな黒いののついてゐる非常にいい形の帽子を買つて貰つた時の嬉しかつた事といつたら何にも譬へられない程なのです。私はあんな種類のうれしさも女でなくては感じられないんだらうと思ひます あんまり嬉しいので、いきなりあなた(あなたは背広の洋服へ変な外套をきてたんです)に抱きついて接吻したんです、そしたらあなたが怒つたんです。だけど直き葉巻をくはへながら笑つてました。
 随分まだ面白いんです。此のつづきが。それはお楽しみにして置きませう。
 東京は大変な寒さです。
 私は三十日に一寸小田原へ行つて来ようかとおもつてます。みかん畠を画きに。若し私の不在中にあなたが帰京なされたら、まあゆつくり休んでゐらつしやい。おからだ大切に、
   二十八日夕
   光
   ちゑ子様

 
番組では、この中の智恵子が「殺人犯になった」というくだりにスポットを当てていました。「智恵子は当時、女性としては珍しい洋画家で進歩的な女性」で「常識にとらわれない感性を持つ智恵子への手紙」だから、あえてこういう内容を書き送り、智恵子の気を惹こうとしたのかもしれない、としていました。
 
司会の爆笑問題のお二人やゲストの光浦靖子さんは「この夢は本当に見たのか」とコメントし、同じくゲストの美輪明宏さんは「智恵子も「平凡の凡」な男はつまらない」と感じていたはず、とおっしゃっていました。このあたりはうなずけますね。
 
ただ、智恵子の新潟行きを「姿をくらました」とか、それを光太郎が必死で探した、としていたのには疑問が残ります。
 
まあ、総じて面白い作りになっていました。
 
見逃した方、2月11日(月) 25時45分~26時17分=2月12日(火) 1時45分~2時17分再放送があります。また、先程も書きましたが来週は斎藤茂吉、谷崎潤一郎、柳原白蓮、芥川龍之介の書いた手紙が扱われるとのこと。ぜひご覧下さい。
 
【今日は何の日・光太郎】2月7日

昭和3年(1928)の今日、詩「ぼろぼろな駝鳥」が書かれました。