仙台レポートの3回目、最終回です。
 
宮城県美術館を後にし、一旦仙台駅まで戻りました。土産物を買い、地下鉄に乗って長町へ。ピアニスト齋藤卓子さん、朗読の荒井真澄さんによるコンサート「楽園の月」を聴きに行きました。会場は昨年5月にやはりお二人で「シューマンと智恵子抄」の公演をなさった古民家カフェ「びすた~り」さんです。「シューマンと智恵子抄」の時と同じく一関恵美さんの墨画の展示もあります。
 
少し早めに着いてしまったので、周辺を散策しました。かの広瀬川では白鳥がいました(それにしても仙台は雪深かったな、と思っていたら、昨日は当方の住む千葉県北東部でも8㌢の積雪となりました)。
 
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さて、会場に着きました。やはり眼鏡が曇って何も見えません。受付で出迎えてくださった一関さんが一関さんだと気づきませんでした(笑)すみません。
 
荒井さんのMCで始まった「楽園の月」、まずは一関さんのスピーチ。会場内に並ぶご自身の作品や、講師として教えた福祉施設の皆さんの作品などについてのご説明や、昨年、斎藤さん共々訪れたパリでのエピソードなどを披露されました。
 
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また、どの時点で作品の「完成」とするか、といったお話もされました。福祉施設の皆さんはそのあたりの見極めが非常に上手いそうです。このあたり、彫刻にも関わる話だな、と思いながら聴いていました。光雲に代表される伝統的な木彫では「こなし」といって、作品の最後の仕上げに物凄くこだわります。そうした立場に立つと、ロダンの様な荒々しいタッチは「こなれていない」と見え、未完成のものにしか見えないそうです。一昨日、昨日と書いた佐藤忠良の彫刻などは、仕上げまでかなり丁寧に為されており、柔らかさにつながっているような気もしました。この点についてはまた、折を見て書きたいと思います。
 
さて、いよいよ斎藤さんのピアノ。今回はショパンとドビュッシーです。前回(昨年5月の『シューマンと智恵子抄』)は、どうしても荒井さんの朗読を中心に聴いたため、正直、ピアノの方にはあまり意識が向きませんでした。しかし今回は、荒井さんの朗読は曲間にされることが多く、ピアノにも集中できました。個人的にフランス近代物は大好きで、しかも名手・斎藤さんが目の前で弾かれているわけで、至福のひと時でした。ピアノもオーストリアのベーゼンドルファー。昨年11月にモンデンモモさんのコンサート「モモの智恵子抄2012」があった原宿のアコスタディオさんもベーゼンドルファーでした。その時に伴奏を務めた砂原嘉博さんに「べードルには88鍵より多い鍵盤のタイプがあるんですよ」と教わりました。びすた~りさんのべードルがまさにそれで、88鍵プラス低音に4鍵、全て真っ黒な鍵が足されているタイプでした。
 
光太郎はショパンに関してはほとんど言及していませんが、ドビュッシーについては同時代の人間ということもあったのでしょう、高く評価していました。ロマン・ロランの書いた「クロオド デユビユツシイの歌劇-ペレアス、メリザンド-」の翻訳(明治44年=1911『高村光太郎全集』第17巻)も手がけていますし、親友だった陶芸家バーナード・リーチのデッサンやエッチングを褒めるのにドビュッシーを引き合いに「其の優雅な美しさを持つ或作品にはドビユツシイの「アラベスク」の美を思はせるものもある」(「リーチを送る」大正9年=1920『全集』第七巻)と書いています。また、昭和8年(1933)に岩波書店から刊行された『岩波講座世界文学7 現代の彫刻』(『全集』第五巻)の中では、ロダンの出現にからめ、19世紀後半のフランスの芸術界を評して「フランスそのものが自分の声を出しはじめたのである」とし、「音楽に於けるドビユツシイ、詩に於けるマラルメ、皆その意味に於いてフランス再発見の声である」と書いています。
 
荒井さんの朗読は、曲の合間にヴェルレーヌやボードレール、島崎藤村など。これまた美声に聞き惚れました。ドビュッシーとヴェルレーヌ、ボードレールも因縁浅からぬものがあり、光太郎もちゃんとその点を押さえています。
 
「ペレアス エ メリザンド」で近代音楽界の大家となつたクロオド ドビユツシイは、其の以前既に近代詩人の詩に作曲してゐた。(中略)マラルメ、ヹルレエヌ、ボオドレエルに次いでは、ピエル ルイ等がドビユツシイに最も多く作曲された詩人である。
(「詩歌と音楽」明治43年=1910『全集』第8巻)
 
ふと、外を見るとまた雪。「雪見酒」ならぬ「雪見ピアノ」もいいものだな、と思いました。そして終演。
 
次は「雪見風呂」です。当初の予定では仙台郊外の秋保温泉に行くつもりでしたが、時間の都合もあり、市内の温泉入浴施設に行きました。それでも凄い雪のため、あちこちで立ち往生したり事故を起こしたりしている車があり、仙台駅に戻ったのはぎりぎりの時間でした。しかし、やはり雪のため新幹線も遅れており、結局は余裕でしたが。仙台名物牛タンの駅弁を食べながら、帰途に就きました。
 
というわけで、有意義な仙台行でした。今後ともお三方のご活躍を祈念致します。

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お三方が活動されている「アクテデュース」さんのHPから。
左から齋藤卓子さん 一関恵美さん 荒井真澄さん。
 
【今日は何の日・光太郎】1月29日

大正15年(1926)の今日、ロマン・ロラン友の会結成。光太郎も参加しています。