昨日紹介した小説、下八十五著「盗作か? 森鴎外の『花子』」を読んで、改めて花子のことが気になり、手持ちの資料の中から花子関連をもう一度読んでみました。
 
つくづく不思議な女性です。きら星の如くそれぞれ違った光彩を放つ光太郎人脈の中でも、ひときわ異彩を放っている一人だと思います。
 
昨日書いた通り、花子は明治末から大正にかけ、欧州各地で日本人一座を率いて公演を続け、各地で絶賛されました。しかし、現在の日本で彼女の名を知っている人がどれだけいるか、このギャップ。それは花子が欧州で活躍していた頃からそうでした。
 
一つには、芝居の内容の問題があると思います。仮に花子一座が日本で公演したら、嘲笑と怒号に包まれたことでしょう。女性が切腹をしたり、剣豪と柔術家が闘ったりという荒唐無稽な内容なのです。これは何も花子の責任ではなく、外国人興行主の意向です。当時の欧州では正しい日本文化など理解されていませんから、過度に日本情調を演出した内容が受けていたのです。したがって当時の日本ではキワモノ扱い。どんなに花子が名声を勝ち得ても、本国日本では無視され続けていました。その流れが現代まで続いているのです。
 
そんな中で、花子に着目した鷗外や光太郎は、矢張り炯眼の持ち主と言えるでしょう。そして彼女を彫刻のモデルにしたロダンも。
 
驚いたことに花子一座の芝居は、全て日本語で演じていたそうです。プログラムやパンフレットの類には、あらすじ等が細かく書かれていたと言うことですが、一つ一つの台詞など、観客にはわかりません。それでも観客がこぞって花子を絶賛したのは、言葉を超えて伝えられた彼女の表現力のせいだと思います。ちょうど我々が、言葉の意味はわからなくとも外国のオペラやミュージカルに感動するのと同じでしょう。ロダンも、クライマックスに切腹して果てる断末魔の花子の表情に惹かれ、彫刻にすることを思い立ったそうです。荒唐無稽な内容がどうあれ、そうした表現力で観客を虜にした花子、立派な女優だと思います。
 
さて、下氏の調査等のおかげもあり、花子の故郷・岐阜県では、花子を見直そうという動きが巻き起こりました。花子の妹の孫に当たる澤田助太郎氏(連翹忌にご参加いただいたこともあります)は、詳細な評伝を書かれました。 

ロダンと花子

澤田助太郎著 中日出版社 平成8年(1996)10月 定価1,456円+税

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また、岐阜県としてもこんな本を出しています。 

マンガで見る日本真ん中面白人物史シリーズ3 花子 ロダンに愛された国際女優

澤田助太郎原案 里中満智子構成 大石エリー作画 岐阜県 平成12年(2000)3月 定価記載なし

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この漫画、昭和2年(1927)に光太郎が岐阜の花子を訪れる所から始まりますが、光太郎、随分とイケメンに描かれています。風采のあがらぬおっさんに描かれなくてよかったと思いますが(笑)。

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さらにこちらは4年前にお隣愛知で開かれた企画展のパンフレットです。 

特別展花子とロダン-知られざる日本人女優と彫刻の巨匠との出会い-

一宮市尾西歴史民俗資料館 平成20年10月

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それぞれ光太郎にも言及されています。
 
最後にもう一つ。花子が持ち帰ったロダンの彫刻二点は、現在は新潟市美術館さんに収められているそうです。今度新潟方面に行く時には、見に行ってみようと思っています。