昭和40年(1965)封切りの日本映画「こころの山脈」(吉村公三郎監督、山岡久乃さん主演)。智恵子の故郷・福島県二本松市に隣接する本宮町(現・本宮市)を舞台にしています。東宝系で上映されましたが、製作は東宝さんではなく、「本宮方式映画製作の会」。当時としては画期的なシステムでした。現代のクラウドファンディングのように基金を募り、地域密着型の映画を作る、と、それが「本宮方式」。現代ではよくあるスタイルですが、その手のものの嚆矢として映画史に残る作品です。
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元々、本宮町では映画を教育に活用することが盛んで、町内の「本宮映画劇場」に小中学生が授業の一環として移動し、良質な映画を観るということをやっていたそうです。ところがそうした機会に子供たちに見せるに相応しいソフトが少ない→それなら自分たちで作ってしまおう、という流れでした。そこでキャストも地元の皆さんが大挙して動員されています。エキストラ的な出演だけでなく、準主役の少年も地元の素人でした。それだけに演技演技していなくて自然です。
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もちろん本職の俳優さんも。山岡さん以外には宇野重吉さん、吉行和子さん、殿山泰司さん、奈良岡朋子さん、大方斐紗子さんなどが脇を固めていました。
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さすがに皆さんお若いですね(笑)。

ただ、そういうコンセプトですから、ど派手なアクションシーンもなく、当時流行のエログロナンセンスなどももってのほか、もちろん怪獣も宇宙人も登場しません。したがって、その地味さのあまり、全国規模ではヒットしたとは言い難い結果でした。今で言う「親ガチャ」やネグレクトなども扱われ、内容的には心打たれるものですが……。

そうした「映画の街」としての歴史を語り継いでいこうと、本宮市ではNPO「本宮の映画文化を継承する会」が立ち上げられ、「こころの山脈」を含む内外の映画(意外と新しい話題作も)の上映を行う(しかも無料!)「カナリヤ映画祭」が行われています。当方、平成27年(2015)の第3回の際にお邪魔し、「こころの山脈」を拝見しました。

その後、「こころの山脈」が上映される年とそうでない年があり、また、ここ数年はコロナ禍。昨年は「こころの山脈」上映で9月に予定されていたのが中止となり、「やっぱりな」と思っていたところ、実は12月に延期で実施されていましたが、そちらには気づきませんでした。

さて、今年。

第10回カナリヤ映画祭

期 日 : 2022年10月2日(日)
会 場 : サンライズもとみや 本宮市矢来39-1
時 間 : 9:40~18:10
料 金 : 無料

上映作品
 10:10~ 「映画大好きポンポさん」(アニメーション) 日本/2021年 90分
 12:40~ 「Infection PiLia ~悩まされる現代~」
 本宮高等学校チームNEXUX/2022年 10分
 13:10~ 「夢」 本宮高等学校チーム叶える/2022年 10分
 14:20~ 「こころの山脈」 日本/1965年 104分
 16:20~ 「杜人」 日本/2022 101分

講演 『こころの山脈』を生んだ本宮の映画文化 新潟大学教授 柳沼宏寿氏 13:20~

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ところで書き忘れていましたが、「こころの山脈」、単に本宮町が舞台というだけでなく、光太郎の「智恵子抄」もモチーフとして使われています(そこでこのブログサイトでご紹介しているわけですが)。

阿武隈川にかかる昭代橋(下の橋)で、安達太良山を望みながら、産休補充教師の本間秀代(山岡久乃さん)が、教え子の清(当時の本宮小学校五年生)に「智恵子抄」の一節を語って聴かせるという場面。第10回カナリヤ映画祭のプロモーション動画に、ちょうどそのシーンが使われていました(2:07頃から)。

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上記はそのシーンのスチール写真です。

さらに、今年は第10回記念ということで、「こころの山脈」DVDの販売も為されるそうです。

というわけで、第10回カナリヤ映画祭、お近くの方(遠くの方も)、コロナ感染には十分お気を付けつつ足をお運び下さい。

【折々のことば・光太郎】

午后三井銀行にゆき、納税等用をすませる、浅草にまはり映画を一館みる、大黒屋にて天丼、十一時かへる、


昭和29年(1954)3月11日の日記より 光太郎72歳

生涯最後の大作「十和田湖畔の裸婦群像(通称・乙女の像)」制作のため、昭和27年(1952)に再上京する前、花巻郊外旧太田村蟄居時代も、折に触れて花巻町中心街で賢治実弟の清六らと一緒に、映画をよく観ていました。再上京後はさらにその頻度が増えています。この日観た作品は不明ですが、前月にはフランスのコメディー映画「Les Belles de Nuit」(夜ごとの美女)を鑑賞。ただし「あまりよしと思はず」と日記に書きましたが。

「こころの山脈」、光太郎にも観せたかったものです。