本日も新刊紹介です。

物語のカギ 「読む」が10倍楽しくなる38のヒント

2022年8月5日 渡辺祐真/スケザネ著 笠間書院 定価1,800円+税

本の魅力をわかりやすく伝える書評動画で人気のYouTubeチャンネル「スケザネ図書館」。その配信者である著者が、文学だけでなくマンガや映画まで幅広い「物語」へのあふれる愛を語りながら、より深く味わうための目のつけどころ=「カギ」をわかりやすく解説します。

小説・詩歌・マンガ・映画など幅広いジャンルを対象に、『走れメロス』、『アンナ・カレーニナ』といった名作文学から『呪術廻戦』(マンガ)、『ドライブ・マイ・カー』(映画)など近年の人気作まで、多種多様な作品をピックアップ。それら具体例を紹介しながら紹介する「カギ」は、「語り手を信頼するな!(『日の名残り』)」、「比較・変遷をたどれ!(歌人・俵万智の作風の変化)」、「元ネタを探ろう(『ピーターパン』と『約束のネバーランド』)」など。著者自身が物語の面白さに目覚めた経験談を交えながら、様々な角度から「物語」の楽しみ方を案内します。

ふだんあまり本を読まない人や、まだ読書に慣れていない中高生にこそ読んでもらいたい1冊です。
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目次
 はじめに
 序章 なんで物語を読むのか? 物語を味わうってどんなこと?
 第一章 物語の基本的な仕組み
  多義性を知ろう!
  多義性から「物語文 」を作れ!
  内容と語りに分けよう-物語内容と物語言説
  時間の進行を計れ!-時間はジャンルを変える
  人称ってなに?-語り手は作者ではない
  焦点化ってなに?-なぜ右京さんはミステリアスなのか?
  語り手の種類を知ろう!-語り手で物語はこんなに変わる
  語り手を信頼するな!-信頼できない語り手
  ジャンルを意識してみよう-芥川賞と直木賞ってどう違うの?
  作者の死-勝手に作品を解釈してもいいの?
 第二章 虫の視線で読んでみる
  メタファーを使いこなせ!-『呪術廻戦』で呪術師たちは何を祓うのか?
  書き出しを楽しもう-書き出しには三種類あります!
  小道具に着目してみよう!-なぜメルヴィルは鯨まみれの小説を書いたのか
  自然描写の想起するイメージを掴め!-ただの状況説明と無視するなかれ
  五感をフルに稼働させよう!-「マドレーヌ効果」ってなに?
  書かれたことをそのまま受け取るべからず!-押すなよと言われたら押せ
  結末を味わい尽くせ-結末の種類と特徴を知ろう!
  言葉を味わおう!-○○詞に注目!
 第三章 鳥の視点で読んでみる
  自分の人生を賭して読んでみよう!-なぜファウストは昇天できたのか
  キーワードを設定してみよう!-「星の王子さま」という訳が隠してしまったメッセージ
  二項対立を設定してみよう!-対立するキーワードたち
  二項対立を打ち破れ!-『白い巨塔』の財前と里見は対照ではない
  隠されたものを復元せよ!-対位法的読解
  他ジャンルを使ってみよう!-なぜ宇宙をバックに「ツァラストラ」が流れるのか?
  作家の伝記を調べてみよう!-「ひかり野へ君なら蝶に乗れるだろう」は明るい?
  比較・変遷をたどれ!-一人の作家を通時的に読んでみる
  元ネタを探ろう-『約ネバ』と『ピーター・パン』は対称の関係!?
 第四章 理論を駆使してみる
  理論の使い方や歴史を知ろう-批評理論ってなに?
  ケアに気を配ろう-弱いからこそ見えるもの
  自然の視点に立ってみよう-エコクリティシズム
  ジェンダーについて考えよう-フェミニズム
  時代背景を考えよう-『グレートギャッツビー』が取り戻そうとしたものは何か?
  舞台を意識しよう-『ブルーピリオド』の合格は場の力にあり
 第五章 能動的な読みの工夫
  暗記してみよう-素読せよ
  書き込みをしてみよう-マルジナリアを作り出せ
  注釈を活用してみよう-ダンテ『神曲』を読む楽しみ
  再読をしてみよう-二度以上読む意味
  翻訳を読み比べてみよう!-「世界文学」とは何か
 おわりに

様々な文学作品等から例文を引きつつ、「こういうところはここに注目して読む」「こんな感じで作者の意図が見え隠れする」「こうした落とし穴に注意」など、時に(というかかなりの部分(笑))ユーモラスに、しかし深い考察も伴って、「読む」という行為のあり方を分析しています。

われらが光太郎に関しては「第二章 虫の視線で読んでみる」中の「メタファーを使いこなせ!-『呪術廻戦』で呪術師たちは何を祓うのか?」で、詩「道程」(大正3年=1914)を引いて下さいました。吹きました(笑)。

曰く

 この詩を読んで、道路工事の詩かな?と思う人はいないはずです。
 ここでの「道」は「人生」を指しており、他者とは異なる、しかし引き返すことのできない過酷な人生の選択をしようとしている、そんな気迫が作品には漲っています。つまり、「道」は「人生」のメタファーとして機能している、というわけです。


ただ、「道路工事の詩かな?と思う人」もいるかも知れません。大まじめ(なのでしょう)に「「ほんとの空」って何ですか?」と問うてくる頓珍漢もいますから(笑)。

このメタファーの項だけでも、チャップリンの「モダン・タイムス」、三島由紀夫の『金閣寺』、吉本隆明の評論、そして『呪術廻戦』まで、さまざまな例が挙げられています。「道程」は、この項最初の枕でした。

版元による紹介文に「ふだんあまり本を読まない人や、まだ読書に慣れていない中高生にこそ読んでもらいたい1冊です。」とありますが、本をよく読む人も改めて「読む」ということについて考え直すきっかけとなりそうですし、中高生、特に大学の文学部をめざそうという若者、また、現に文学部で学んでいる学生さんなどにもお薦めです。さらにはご自分で小説なりを書こうとしている方、実際に書いている方にも。読むためのノウハウは書くためにも転用できますから。

というわけで、ぜひお買い求め下さい。

【折々のことば・光太郎】

車で休屋まで、酸湯で中食、休屋一泊、 夜皆とビール、 夕方現場にて谷口氏藤島氏伊藤氏にあふ、 〈(七尺像立つてゐる、)〉


昭和28年(1953)10月20日の日記より 光太郎71歳

七尺像」は、翌日に除幕される生涯最後の大作「十和田湖畔の裸婦群像(通称・乙女の像)」。会心の出来、というわけではなかったにせよ、一年間、精魂傾けて制作に打ち込み、そして自分自身「生涯最後の大作」になるだろうと予感していた像が十和田湖畔に「立つてゐる」姿は、やはり感無量だったのではないでしょうか。