日本最大の古書市、「七夕古書大入札会」。都内の古書籍商の皆さんで作る明治古典会さんが主催で、我々一般人は加盟店さんに依頼、入札するシステムとなっています。一昨年はコロナ禍のため、中止。昨年は規模を大幅に縮小しての開催でした。

出品された品の基本的に全品を手にとって見ることが出来る一般下見展観が行われます。ただ、どうも昨年同様、かつての規模ではないような感じです。

七夕古書大入札会2022 一般下見展観

期 日 : 2022年7月8日(金)・7月9日(土)
会 場 : 東京古書会館 東京都千代田区神田小川町3-22
時 間 : 7/8 10:00~18:00  7/9 10:00~16:00
料 金 : 無料
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一昨日でしたか、ネット上に出品目録が出、拝見。驚きました。今年は光太郎の肉筆等が出品されていません。当方、昭和の終わり頃からの、冊子になった目録をほぼすべて入手していますが、毎年、光太郎の書幅やら書簡やら署名本やら、何かかんかは必ず光太郎の肉筆物が出品されていました。時には『高村光太郎全集』未掲載の書簡等が出ている年も。逆に、以前から古書店さんが在庫として持っていたものだけで、目新しい物はなかったという年もあれば、とんでもないニセモノが掲載されていた年もありましたが、それにしても光太郎の名がないという年はありませんでした。当方が冊子目録を入手していない年もありますので、その中で掲載がなかった年もあったかもしれませんが。

規模が大幅に縮小された昨年ですら、複数の出品があったのですが、まぁ、光太郎の名が忘れられてしまって……というわけではなく、たまたまだと信じたいところです。

その中でも、一応、光太郎に関わるものをご紹介します。

まず、光太郎が題字を揮毫した中原中也の詩集『山羊の歌』。やはり光太郎と交流のあった堀口大学宛ての献呈署名が入っています。ビッグネームからビッグネーム宛てということで、そこそこの価格になっていますね。
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それから、昨年亡くなった篠田桃紅さんの書。
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過日、BS松竹東急さんでテレビ放映して下さった、昭和42年(1967)公開の松竹映画「智恵子抄」(岩下志麻さん丹波哲郎さん主演)の題字です。
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上記画像は公式パンフから。
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こちらは映画の冒頭。ところが、よく見ると一致しません。篠田さん、横書きのバージョンと、縦書きのそれと、二種類書かれたようです。今回の出品物はパンフレットなどに使われた横書きのもの、映画冒頭のものは、他にポスターなどにも使われたもので、縦書き、というわけです。
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今回の出品物には光太郎詩「あどけない話」(昭和3年=1928)の一節を書かれたものも。こちらの筆跡は初めて拝見しました。

篠田さんの回顧展的な展覧会、すでに複数回開催され(現在も虎ノ門の菊池寛実記念 智美術館さんで開催されています)が、この「智恵子抄」題字は出品されないなぁ、と思っていたら、まさか売りに出されるとは、という感じでした。

ところで、七夕古書大入札会。存命の人物に関わるものはほとんど出品されません。かつて吉本隆明氏が亡くなった後、草稿やらが結構出るようになり、改めて「ああ、吉本氏も亡くなったんだなぁ」と思いましたが、今回もそんな感じでした。いずれ瀬戸内寂聴さん、高良留美子さん、半藤一利さん、西村賢太さんあたりのものが出て来るようになるのでは、と思っております。

当方、9日(土)に観て参ります。目録に載っていない追加出品で光太郎関連が出ることも有り得ますし、他の文豪のものすごいものの出品はありまして、それが手にとって見られる機会です。皆様もぜひどうぞ。

【折々のことば・光太郎】

春子さんより速達にて稔氏胃潰瘍の由、夜十時電報、今日午后八時半死去の由、

昭和28年(1953)4月27日の日記より 光太郎71歳

春子さん」は、看護師の資格を持つ智恵子の姪で、南品川ゼームス坂病院で智恵子の最期を看取った宮崎(旧姓・長沼)春子です。「稔氏」は詩人の宮崎稔。光太郎が取り持って春子と結婚しました。その後、光太郎生前最後の詩集『典型』の編集などに当たっています。深酒がたたっての胃潰瘍、そして死でした。