合唱曲楽譜の新刊です。
全音楽譜出版社 定価2,700円+税
愛のうた―光太郎・智恵子―男声合唱とフルート、クラリネット、弦楽オーケストラのために[ピアノ・リダクション(四手連弾)版]
2022年1月15日 高村光太郎作詞 新実徳英作曲全音楽譜出版社 定価2,700円+税
高村 光太郎の詩集「智恵子抄」より5篇を選び作曲。
委嘱:慶應義塾ワグネル・ソサィエティー
初演:2022年1月10日 東京藝術劇場
指揮:佐藤正浩 管弦楽:ザ・オペラ・バンド
合唱:慶應義塾ワグネル・ソサィエティー
初演:2022年1月10日 東京藝術劇場
指揮:佐藤正浩 管弦楽:ザ・オペラ・バンド
合唱:慶應義塾ワグネル・ソサィエティー
I. 山麓の二人 7’10”
II. 千鳥と遊ぶ智恵子 7’20”
III. 値(あ)ひがたき智恵子 2’30”
間奏曲 ー哀しみの淵へー 5’30”
IV. レモン哀歌 7’40”
V. 元素智恵子 4’50”
トータル 35’00”
商品説明にあるとおり、慶應義塾ワグネル・ソサィエティーさんの委嘱作品で、今月10日の同団第146回定期演奏会において初演が為されました。
その際はオケ伴でしたが、発売されている楽譜の伴奏譜(最近は「伴奏」という言い方もあまりしなくなってきましたが)はピアノ2台の設定です。練習の際、あるいは本番でも、オーケストラを雇う予算など無い、という場合にはこの構成で十分可能です。ちなみにオケ譜は全音さんでレンタルして下さるそうです。
合唱でピアノ2台という楽譜、おそらく初めて目にしましたが、1段(ホモホニックな部分)ないしは2段(ポリフェニー的な部分)で4パートが押し込んであるので、歌う方としてはちょっと見にくい感じです。その分、ユニゾンの部分も結構あったりしますが。
といって、T1、T2,バリトン、ベースで4段にすると(歌う方としてはその方がありがたいのですが)、ページ数が倍増以上となり、とんでもないことになるでしょう。現状でも100ページ超と、この手の楽譜としては厚めです。
もっとも、1段に押し込んである方が、自分のパートと他パートとの関係性がよりわかりやすい、という声もありましょうが。
ところで、どんな感じかな、と、各曲の主旋律的なパートやヤマ場と思われる箇所では和音をキーボードで弾いてみました(初演のDVDを注文してあるのですが、まだ届きませんで)。智恵子の心の病を強調した部分では不安を煽るような半音進行など、いかにも、という感じでしたし、そうかと思うと素直なメロディーラインの部分もあったり、不協和音の連続からきれいに解決していく過程に妙味があったりと、唸らされました。
リズム的にも複雑(8分の6拍子で4連符と2連符に分けてあるなどの箇所が平気で出てきます(笑))、全体に音域が高め(T1にH音!)だったりもし、ある程度ハイレベルの合唱団でないと歌いこなせないような気がしますが、抜粋してコンクールの自由曲などにはいいのかも、という感じです。ただ、7分程の演奏時間の曲はギリギリかな、と思いますし、四手連弾を伴うため、少人数の団では無理でしょう。
巻頭に作曲者、新実氏の言葉。
男声合唱ファンの皆さんが「一生に一度は歌いたい」と思ってくださるような曲をものしたい、そんな不遜な思いを心に暖めながらこの曲を書き続けたのでした。
男声合唱とフルート、クラリネット、弦楽オーケストラ、という夢のような編成、そこにどうのような世界が誕生するのか。書き手にとっては想像の翼がどこまでも広がっていくチャレンジングで楽しい時間を過ごしたのです。
指揮者の佐藤正浩さんからいくつかのテキストを提案いただいたのですが、最終的に高村光太郎の詩集『智恵子抄』にしよう、と考えが一致し、2020年後半にその詩集から5篇を選び、構想を練りました。
2021年2月くらいから作曲に取りかかり足かけ半年、7月末にやっと全体が出来上がりました。全体とはすなわちオーケストラ版、それとピアノ連弾伴奏版の二つのヴァージョンで、実はこの2種のヴァージョンをほぼ同時に作り上げるのが、なかなかに手のかかる仕事でもあったのです。連弾版を作っておけば、練習の時に便利ですし、オーケストラ版ではできない時に使うこともできる、そう考えたのです。
時間がかかったもう一つの理由は、光太郎の智恵子への想いをできるだけ深く読み取り音化したかった、言葉の背後にあるものを感じ取り自分のものにしたかった、そんなこともあったのでした。
人間は誰しも青春を生きている、僕はそう思う。ましてや青春そのものを生きている大学生や若者たちは『智恵子抄』から大きなものを受け取ることになるだろうし、そうあって欲しい。
この作品は決して易しくはない。が、歌うことを通じ、聴くことを通じ、「青春」にあるすべての方々に届くものでありますよう、願って止まない。
最後にこの貴重な機会を下さった佐藤正浩さんはじめ、OBや大学の関係各位の皆さま方、そして初演に取り組んでくださる大学生の皆さんにこの場をお借りして心よりの謝意を表します。
「青春そのものを生きている大学生や若者たちは『智恵子抄』から大きなものを受け取ることになるだろうし、そうあって欲しい。」まさにその通りですね。そういう考えからの二次創作は大歓迎です。音楽に限らず、演劇、文芸作品、造形作品、映像作品などなどでも。ただし、健全なリスペクトとある程度妥当な解釈に基づいてもらわないと困りますが……。
さて、興味のある方、ぜひお買い求め下さい。
【折々のことば・光太郎】
午前東京より横田正治、佐藤文治といふ二人の青年学徒来訪、 そのうち草野心平氏来訪、昨夜関登久也氏宅泊りの由、いろいろのもらひもの、ヰロリで暫時談話、 後洋服をあらためて一緒に出かけ、花巻伊藤屋にて四人でビール等、草野氏と共にタキシで台温泉松田家にゆき一泊、ビール等〈(あんま)〉
「横田正治」は、正しくは「横田正知」。のち、宮沢賢治や若山牧水らについての書籍を執筆しています。「伊藤屋」は、建物は建て替わっていますがJR東北本線花巻駅前に健在です。
「台温泉松田家」は「松田屋」の誤り。松田屋旅館さんは当時の建物のまま健在です。
トータル 35’00”
商品説明にあるとおり、慶應義塾ワグネル・ソサィエティーさんの委嘱作品で、今月10日の同団第146回定期演奏会において初演が為されました。
その際はオケ伴でしたが、発売されている楽譜の伴奏譜(最近は「伴奏」という言い方もあまりしなくなってきましたが)はピアノ2台の設定です。練習の際、あるいは本番でも、オーケストラを雇う予算など無い、という場合にはこの構成で十分可能です。ちなみにオケ譜は全音さんでレンタルして下さるそうです。
合唱でピアノ2台という楽譜、おそらく初めて目にしましたが、1段(ホモホニックな部分)ないしは2段(ポリフェニー的な部分)で4パートが押し込んであるので、歌う方としてはちょっと見にくい感じです。その分、ユニゾンの部分も結構あったりしますが。
といって、T1、T2,バリトン、ベースで4段にすると(歌う方としてはその方がありがたいのですが)、ページ数が倍増以上となり、とんでもないことになるでしょう。現状でも100ページ超と、この手の楽譜としては厚めです。
もっとも、1段に押し込んである方が、自分のパートと他パートとの関係性がよりわかりやすい、という声もありましょうが。
ところで、どんな感じかな、と、各曲の主旋律的なパートやヤマ場と思われる箇所では和音をキーボードで弾いてみました(初演のDVDを注文してあるのですが、まだ届きませんで)。智恵子の心の病を強調した部分では不安を煽るような半音進行など、いかにも、という感じでしたし、そうかと思うと素直なメロディーラインの部分もあったり、不協和音の連続からきれいに解決していく過程に妙味があったりと、唸らされました。
リズム的にも複雑(8分の6拍子で4連符と2連符に分けてあるなどの箇所が平気で出てきます(笑))、全体に音域が高め(T1にH音!)だったりもし、ある程度ハイレベルの合唱団でないと歌いこなせないような気がしますが、抜粋してコンクールの自由曲などにはいいのかも、という感じです。ただ、7分程の演奏時間の曲はギリギリかな、と思いますし、四手連弾を伴うため、少人数の団では無理でしょう。
巻頭に作曲者、新実氏の言葉。
男声合唱ファンの皆さんが「一生に一度は歌いたい」と思ってくださるような曲をものしたい、そんな不遜な思いを心に暖めながらこの曲を書き続けたのでした。
男声合唱とフルート、クラリネット、弦楽オーケストラ、という夢のような編成、そこにどうのような世界が誕生するのか。書き手にとっては想像の翼がどこまでも広がっていくチャレンジングで楽しい時間を過ごしたのです。
指揮者の佐藤正浩さんからいくつかのテキストを提案いただいたのですが、最終的に高村光太郎の詩集『智恵子抄』にしよう、と考えが一致し、2020年後半にその詩集から5篇を選び、構想を練りました。
2021年2月くらいから作曲に取りかかり足かけ半年、7月末にやっと全体が出来上がりました。全体とはすなわちオーケストラ版、それとピアノ連弾伴奏版の二つのヴァージョンで、実はこの2種のヴァージョンをほぼ同時に作り上げるのが、なかなかに手のかかる仕事でもあったのです。連弾版を作っておけば、練習の時に便利ですし、オーケストラ版ではできない時に使うこともできる、そう考えたのです。
時間がかかったもう一つの理由は、光太郎の智恵子への想いをできるだけ深く読み取り音化したかった、言葉の背後にあるものを感じ取り自分のものにしたかった、そんなこともあったのでした。
人間は誰しも青春を生きている、僕はそう思う。ましてや青春そのものを生きている大学生や若者たちは『智恵子抄』から大きなものを受け取ることになるだろうし、そうあって欲しい。
この作品は決して易しくはない。が、歌うことを通じ、聴くことを通じ、「青春」にあるすべての方々に届くものでありますよう、願って止まない。
最後にこの貴重な機会を下さった佐藤正浩さんはじめ、OBや大学の関係各位の皆さま方、そして初演に取り組んでくださる大学生の皆さんにこの場をお借りして心よりの謝意を表します。
「青春そのものを生きている大学生や若者たちは『智恵子抄』から大きなものを受け取ることになるだろうし、そうあって欲しい。」まさにその通りですね。そういう考えからの二次創作は大歓迎です。音楽に限らず、演劇、文芸作品、造形作品、映像作品などなどでも。ただし、健全なリスペクトとある程度妥当な解釈に基づいてもらわないと困りますが……。
さて、興味のある方、ぜひお買い求め下さい。
【折々のことば・光太郎】
午前東京より横田正治、佐藤文治といふ二人の青年学徒来訪、 そのうち草野心平氏来訪、昨夜関登久也氏宅泊りの由、いろいろのもらひもの、ヰロリで暫時談話、 後洋服をあらためて一緒に出かけ、花巻伊藤屋にて四人でビール等、草野氏と共にタキシで台温泉松田家にゆき一泊、ビール等〈(あんま)〉
昭和26年(1951)12月7日の日記より 光太郎69歳
「横田正治」は、正しくは「横田正知」。のち、宮沢賢治や若山牧水らについての書籍を執筆しています。「伊藤屋」は、建物は建て替わっていますがJR東北本線花巻駅前に健在です。
「台温泉松田家」は「松田屋」の誤り。松田屋旅館さんは当時の建物のまま健在です。