過日ご紹介した、横内正さん、一色采子さんらによる「朗読劇 智恵子抄」。12月4日(土)の銀座と、12月12日(日)が福島二本松(2回)と、計3回公演があります。このうち、二本松公演に関して、地元紙『福島民友』さんが大きく取り上げました。

智恵子抄の世界感じて 出版80周年記念、12月に朗読劇二本松公演

000 詩集「智恵子抄」の出版80周年を記念した朗読劇「智恵子抄」の二本松公演は12月12日、高村智恵子の古里・福島県二本松市の安達文化ホールで開かれる。智恵子役を演じる女優の一色采子さんは「見る人が想像力を膨らませて智恵子と光太郎の夫婦愛を感じてくれたらうれしい」とPRする。
 朗読劇は、劇作家の北條秀司(1902~96年)が智恵子抄を舞台化した戯曲が原作。構成・演出の成瀬芳一さんが「樹下の二人」や「あどけない話」など数編の詩を織り交ぜ、光太郎と智恵子の夫婦愛を描く朗読劇に仕立て直した。
 一色さんのほか、光太郎役を「水戸黄門」の初代格さんで知られる俳優の横内正さん、光太郎との仲を取り持った智恵子の同級生柳八重役を山吹恭子さん、いわき市出身の詩人草野心平役などを喜多村次郎さんが務める。
 松竹の主催・製作、市教委の共催。公演は午後2時からと、同4時30分からの2回。各回とも一色さんと横内さんによるアフタートークがある。チケットは全席指定で前売り3千円(当日券500円増し)。同ホールや市文化課、市民交流センターで取り扱う。問い合わせは同課(電話0243・55・5154)へ。

智恵子役・一色采子さん「演じられて喜び」
 朗読劇「智恵子抄」で二本松市出身の芸術家高村智恵子役を演じる女優の一色采子さんは、同市出身の文化勲章受章者で日本画家の大山忠作の長女。12月12日の公演を控え、智恵子への思いなどを聞いた。
 ―智恵子を演じることになったのは。
 「松竹から朗読劇のオファーが来て、やるなら『智恵子抄がいい』とお願いした。そうしたら智恵子抄の出版80周年だった。いくつもの縁が重なり、節目に二本松で智恵子を演じられるのはこの上ない喜び」
 ―智恵子はどんな人だったと思うか。
 「芸術を通して女性の権利や存在意義を勝ち取るために闘った一人。最後は自ら壊れていったけど、二本松から女一人で上京し、絵で身を立てようとした進歩的な女性だったと思う。そんな自由とエネルギーを持った智恵子像を演じたい」
 ―朗読劇の見どころは。
 「皆さんがよくご存じの詩が出てきて、光太郎と智恵子の愛の物語をイメージしやすいと思う。あっと驚くラストシーンもある。芝居でも朗読でもないそぎ落とされた表現に想像力を膨らませて、智恵子抄の世界を感じてもらえれば」

どさくさに紛れて、明日は都内での稽古の様子を拝見させていただくことになりました。銀座公演も拝見しますが、まずは稽古。楽しみにしております。

『民友』さん、少し前の社説でも、光太郎智恵子、そして「朗読劇 智恵子抄」に触れて下さっていました。

【11月21日付社説】「智恵子抄」80年/「ほんとの空」探してみよう

 彫刻家で詩人の高村光太郎が、油井村(現二本松市)出身の妻、智恵子との日々をうたった詩集「智恵子抄」の出版から、今年で80年となった。安達太良山の上の青い空こそが「ほんとの空」であるとの表現や、「あれが阿多多羅山/あの光るのが阿武隈川」のフレーズなど、本県の美しさを叙情的に描いた作品は、今も多くの県民に親しまれている。
 この節目を記念して、市は詩集をモチーフにした朗読劇を12月に上演する。また民間の顕彰団体が智恵子抄の好きな詩を選んで投票する企画を行っている。詩集や智恵子の歩みに改めて触れてみることを薦めたい。
 智恵子は詩集の存在もあって、光太郎の妻としての側面にばかり光が当たりがちだ。しかし、当時の女性では珍しく上京して油絵を学び、明治末期の女性解放運動で大きな役割を果たした雑誌「青鞜」の創刊号の表紙絵を描くなど、高い注目を浴びた新進の女性芸術家でもあった。
 智恵子の生家に併設されている記念館は、若い頃に力を注いだ油絵を展示している。また特別展示では、晩年に病床でつくった、包装紙などを使った色鮮やかな紙絵を公開している。智恵子の作品をまとめて鑑賞できる全国で唯一の施設だ。
 作品を通じて彼女の繊細な感性に触れることは、詩集の理解を深めるとともに、明治から大正にかけての女性による芸術活動への関心も高めてくれることだろう。
 二本松市にはこの記念館のほか、同市出身の画家大山忠作さんの美術館や岳温泉などの豊富な観光資源がある。霞ケ城公園には、春の桜、秋の菊人形を見る人が多く訪れている。市は各施設にほかの施設を紹介するチラシなどを置いたり、智恵子記念館と大山美術館の共通チケットを企画したりして、各施設の周遊を促している。
 同市をゆっくりと観光しながら、智恵子が「ほんとの空」と言い、愛してやまなかった風景や情緒を堪能するのも一興だ。
 市は、子どもたちの創造性を育成するとともに、故郷が生んだ芸術家を広く知ってもらう取り組みとして、小学生を対象とした紙絵コンクールを毎年開催している。今年は初めて表彰式を智恵子の生家で行い、出席者に生家を見学してもらうようにした。
 智恵子や詩集について知ることは、子どもたちが故郷への愛着を深めることにつながる。市や学校などは、子どもたちが智恵子について学ぶ機会を積極的に設けるようにしてほしい。

ここにあるように、智恵子は、「光太郎の妻」という側面だけで注目されるのでなく、あの時代にあって、自ら道を切り開こうとした強い女性としての評価が、もっとなされるべきですね。結局は、刀折れ矢尽き、心を病むことにはなってしまいましたが……。

今回の朗読劇や、他の様々な取り組みが、そうした契機の一つとなっていってほしいものです。

【折々のことば・光太郎】

ひる近く花巻新報の平野智敬氏、及写真家内村皓一氏車で迎にくる。一緒に花巻行、ヤブにて中食、商工会議所の連中集まる、後公会堂行、講演一席、後舞踊見物、まりつきうた。 花巻温泉に一泊。紅葉館、皆とのむ、


昭和26年(1951)6月16日の日記より 光太郎69歳

花巻の商店街のテーマソング的に、光太郎が作詞し、邦楽奏者・杵屋正邦が作曲した「初夢まりつきうた」。栗島すみ子による振り付けが為され、発表会が行われました。前座として(笑)光太郎の講演も行われています。

この日の様子を報じた『花巻新報』記事から。

  高村先生を招き賑う初夢まりつきうた発表会

 既報の本社主催、花巻町、花巻商工会議所、花巻青年協議会後援〞花巻商人初夢まりつきうた〟発表会は十六日午後二時と七時の二回花巻町公民館で挙行された。
 高村光太郎先生作詩、作曲杵屋正邦さんで振付は日本舞踊会の泰斗栗島すみ子女史、出演は同門下水木歌盛さん及びその社中、長唄杵屋勝可壽さん鳴物望月久吉社中楽団MKDで昼夜とも満堂の観衆はその熱演ぶりに陶然となり盛況を極めた。特に高村翁は目下病気静養中にもかかわらず午後一時より一時間に亘り講演をなし聴衆に多大の感銘を与えた。当日のプログラムは
 ◇昼の部
  講演 高村光太郎翁
  二人三番叟 歌盛、歌輝
  越後獅子幻想曲
  まりと殿様
  初夢まりつきうた(水木歌盛、同社中、長唄杵屋勝可壽、鳴物望月久吉社中、楽団MKD)
  伊達奴 村田紀子
  六段くづし 龍子 静子
 ◇夜の部
  盛岡管弦楽団演奏
  二人三番叟
  越後獅子幻想曲
  おぼこ菊
  通りやんせ
  A向う横町
  B露路の細道
  C江戸祭りのうた
  叱られて
  まりと殿様
  初夢まりつきうた
  伊達奴
  六段くづし

日記にある「ヤブ」は「やぶ屋」。宮沢賢治御用達の店として有名です。やぶ屋さんのレジ前には、「初夢まりつきうた」の詩稿コピーと光太郎の写真が飾られています。いつ書かれたものか不明だそうですが。
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同じく日記にある「紅葉館」も、花巻温泉に健在です。ただし、やぶ屋さんともども、建物は当時のものから建て替わっていますが。