ミステリー作家の内田康夫さんの訃報が出ました。

内田康夫さん死去、83歳=推理作家、浅見光彦シリーズ

 名探偵「浅見光彦」シリーズで知られる作家の内田康夫(うちだ・やすお)さんが13日、敗血症のため東京都内で死去した。
  83歳。東京都出身。葬儀は近親者で済ませた。お別れの会は行わず、3月23日~4月23日、長野県軽井沢町の浅見光彦記念館に献花台を設ける。喪主は妻で作家の早坂真紀(はやさか・まき、本名内田由美=うちだ・ゆみ)さん。
  コピーライター、CM制作会社経営を経て1980年、「死者の木霊」で作家デビュー。82年の3作目「後鳥羽伝説殺人事件」で初登場した浅見光彦は、警察庁刑事局長を兄に持つ33歳のルポライターというキャラクターが広く愛され、全国各地を舞台にシリーズ化。99年「ユタが愛した探偵」の沖縄県で47都道府県を網羅した。
  作品は相次いでドラマ化され、2008年には日本ミステリー文学大賞を受賞。15年夏に脳梗塞で倒れ、療養を続けていた。
  遺作となった未完の小説「孤道(こどう)」を含め計160冊余りを刊行。これまでの累計発行部数は約1億1500万部という。
(時事通信 2018年3月18日) 

作家・内田康夫さん死去 83歳 「浅見光彦シリーズ」

 名探偵・浅見光彦シリーズを生んだ作家の内田康夫(うちだ・やすお)さんが13日、敗血症のため東京都内で死去した。83歳だった。葬儀は002近親者で営んだ。喪主は妻の作家早坂真紀(はやさか・まき、本名内田由美〈うちだ・ゆみ〉)さん。23日~4月23日、長野県軽井沢町の浅見光彦記念館(火、水休館)に献花台が設けられる。
  34年東京生まれ。東洋大中退。コピーライターなどを経て、80年に3千部を自費出版した「死者の木霊」が、翌年の朝日新聞の書評で取り上げられたことが機となり、作家になった。
  名探偵・浅見は82年の「後鳥羽伝説殺人事件」に初めて登場。警察庁刑事局長の兄を持つ、ハンサムなルポライターが事件を解決するシリーズとして人気を集め、辰巳琢郎、中村俊介らが演じて映像化されてきた。
  事前に構想を固めずに書き進める作法をとり、旅情ミステリー作家として各地の風景や人々の心情を描いてきた。内田康夫財団によると、残された著作は163、累計発行部数は1億1500万部という。
  08年に日本ミステリー文学大賞を受賞。14年には永遠の33歳だった浅見が34歳になり、転機を迎える物語「遺譜 浅見光彦最後の事件」を刊行した。しかし15年、毎日新聞で浅見シリーズ「孤道」を連載中に脳梗塞(こうそく)で倒れ、執筆を中断。17年3月には休筆宣言をし、同作は未完のまま刊行され、今年4月にかけて続編を公募して完結させることになっている。
(朝日新聞 2018/03/19)


未完の「孤道」を含め、116作ある「浅見光彦シリーズ」の中の10作目、『「首の女(ひと)」殺人事件』(昭和61年=1986)が、光太郎の贋作彫刻をめぐる事件を描いたものでした。

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同年、当時、銀座にあった東京セントラル美術館で開催された「the光太郎・智恵子展 高村光太郎没後30年 智恵子生誕100年」が事件の発端という設定でした。

内田氏は他にも、『「萩原朔太郎」の亡霊』(昭和57年=1982 萩原朔太郎)、『津軽殺人事件』(昭和63年=1988 太宰治)、『横浜殺人事件』(平成元年=1989 野口雨情)、『イーハトーブの幽霊』(平成7年=1995 宮沢賢治)、『遺骨』(平成9年=1997 金子みすゞ)、『砂冥宮』(平成21年=2009 泉鏡花)、『汚れちまった道』(平成24年=2012 中原中也)など、文学者をモチーフにした推理小説をたくさん執筆されましたが、モチーフと作品全体の関連度でいえば、話の枕にそれらの文学者が扱われる程度の作と異なり、『「首の女(ひと)」殺人事件』は、ほぼ全篇、光太郎智恵子にまつわる内容でした。智恵子の故郷・二本松の安達太良山が事件現場になったり、事件の重要人物が宿帳に光太郎の住所である「駒込林町二十五番地」と書いたりと。

余談というと失礼ですが、準レギュラー的に後の作品にもたびたび登場する野沢光子(浅見の幼なじみ)がヒロインとして初登場したり、それまで「スポーツタイプ」としか記述がなかった浅見の愛車がトヨタソアラリミテッドであることが初めて明かされたりした作品でもあります。


映像化も2回されています。

平成18年(2006)にはフジテレビさんで、中村俊介さん主演、ヒロインは紫吹淳さんでした。

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原作に即した作りで、二本松ロケも行われ、東京セントラル美術館の代わりに、岩手花巻の高村記念館(リニューアル前の)が使われました。残念ながら、販売用DVD等は発行されていませんが、年に数回、BS放送で再放送が繰り返されています。

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TBSさんでも、平成21年(2009)に、沢村一樹さん主演で「浅見光彦~最終章~ 最終話 草津・軽井沢編」として映像化。ただし、物語の舞台が大きく変わったりしています。

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こちらはDVDボックスが発売されています。

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それにしても内田氏、ミステリー作家として、ある意味、見事な最期でした。『遺譜 浅見光彦最後の事件』(平成26年=2014)で、余韻を持たせながらも、浅見光彦シリーズの終末を描ききり、その直前の事件という設定で『毎日新聞』さんに連載を始めた『孤道』が体調不良のため未完にならざるを得なくなると、続きは公募するという、前代未聞の措置をとられています。来月〆切だそうで、おそらく、熱烈な浅見ファンの方々が、それぞれの物語を執筆なさっているのではないでしょうか。


謹んでご冥福をお祈り申し上げます。


【折々のことば・光太郎】

小生にとりては此所に挙げたる好きなものに属する作品の外はすべて土塊敗紙に等しく何らの Raison d'être を有せざる作品とより以外に如何にしても感ぜられず、其の中にて嫌ひなものと申すは、特別に小生の神経を害し、見るたびに不愉快に感ぜられたるものを申すのに候。

散文「文部省美術展覧会評」より 明治42年(1909) 光太郎27歳

このコーナー、筑摩書房さんから刊行された『高村光太郎全集』の第一巻からはじめ、光太郎の言葉を拾っています。今日から第六巻に入りまして、当分の間は展覧会評です。

この年、3年半にわたる欧米留学から帰朝した光太郎、世界の最先端の芸術を観てきた眼に、日本の美術家の作品は、一部の例外を除き、西洋美術の猿真のような根柢のないものにしか見えませんでした。