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都内から演奏会情報です。 

Départ chant piano et piano

期 日 : 2019年8月18日(日)
時 間 : 開演17:30  開場17:00
会 場 : オーキッドミュージックサロン
          東京都世田谷区玉川2-2-1 二子玉川ライズバーズモールB-1
料  金 : ¥3500(全自由席)

プログラム : 
 三善晃   《抒情小曲集》より ほおずき/少女よ/小曲
 林光    《四つの夕暮の歌》より 誰があかりを消すのだろう
 別宮貞雄  《淡彩抄》全曲 泡/蛍/入黒子/凉雨/別後/燈/天の川/青蜜柑/鷺/
       春近き日に
       《智恵子抄》より 人に/僕等/あどけない話/千鳥と遊ぶ智恵子/レモン哀歌
 プーランク 《歌の調べ》全曲 ロマンティックな歌/田園の歌/荘厳な歌/快活な歌
       《ヴィルモランの3つの詩》より 白衣の天使達に
       《冷気と火》全曲 眼から太陽が/朝、枝々は/全て消え去った/庭の闇の中に
        
冷気と火を優しい微笑みの男/流れゆく大河は
       《矢車菊》
       《月並み》全曲 オルクニーズの歌/ホテル/ワロニーの沼地/パリへの旅/
       すすり泣き
 グノー    歌劇《ロメオとジュリエット》より「神様!なんという戦慄が」(毒薬のアリア)

出   演 : 齋藤青麗(ソプラノ)  大野 真由子(ピアノ)  吉田 幸央(ピアノ)

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歌われる斎藤青麗さんのブログがこちら

先月20日、旧東京音楽学校奏楽堂で開催された「令和元年度奏楽堂日本歌曲コンクール入賞記念コンサート」でも演奏された、別宮貞雄氏作曲の「歌曲集 智恵子抄」(昭和57年=1982)から抜粋で5曲、プログラムに入っています。ぽつりぽつり、取り上げて下さる方がいらっしゃるのでありがたいかぎりです。

ぜひ足をお運び下さい。


【折々のことば・光太郎】

最後にのこるもの美なり   短句揮毫 昭和21年(1946) 光太郎64歳

「美」の創出に生涯を捧げた光太郎ならではの言ですね。

秋田県横手出身の画商・旭谷正治郎にこの句を書いた揮毫を送ったことが、光太郎日記に記録されています。また、同じ横手の麹商・近野廣の元にも同じ句を書いた軸が残っていたそうですが、まだ現物を見たことがありません。

都内から演奏会情報です。
時 間 : 開演15:00 開場14:30
会 場 : 台東区立旧東京音楽学校奏楽堂 台東区上野公園8番43号
料 金 : 全席自由 ¥3,000

プログラム : 
 作曲部門 (演奏順)
  第二位 畑中良輔賞 麻生海督
   ごびらっふの独白(詩・草野心平) テノール 金沢青児 バリトンサックス 楠瀬亮
  第二位 中田喜直賞 箭内明日香
   ましろの月(詩・ヴェルレーヌ・永井荷風訳) ソプラノ 谷原めぐみ ピアノ 髙木由雅
  第一位 山中惇史
   風三章 (詩・茨木のり子) メゾソプラノ 山下裕賀 ピアノ 高橋優介
 歌唱部門 (演奏順)
  審査員特別賞 藤本保江(ソプラノ)
   山田耕筰 みぞれに寄する愛の歌(詩・大木惇夫) ピアノ 奥田和
  第三位 西村知花子(ソプラノ)
   小林秀雄 つるぎの歌(詩・鶴岡千代子)/中田喜直 
   ”マチネ・ポエティク”による四つの歌曲
   ピアノ 山崎未貴
  第二位 紀野洋孝(テノール)
   別宮貞雄 歌曲集『智恵子抄』(詩・高村光太郎)より  ピアノ 森裕子
   人に/あどけない話/人生遠視/千鳥と遊ぶ智恵子/山麓の二人/レモン哀歌
  第一位 田坂蘭子(ソプラノ) 
   木下牧子 おんがく(詩・まど・みちお)/C.ロセッティの4つの歌/
   涅槃(詩・萩原朔太郎)
  ピアノ 宮脇貴司

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奏楽堂日本歌曲コンクール」は、「日本歌曲の普及と創造的発展を目指し、歌唱部門と作曲部門のコンクール」だそうで、主催は公益財団法人台東区芸術文化財団さんとのこと。

歌唱部門第二位の紀野洋孝氏が、故・別宮貞雄氏作曲の「歌曲集 智恵子抄」から抜粋で演奏なさいます。

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013別宮氏の「歌曲集 智恵子抄」は、昭和57年(1982)の作品で、翌年に初演、昭和61年(1986)には音楽之友社さんから楽譜が刊行されています。

全9曲、今回のプログラムに入っている6曲以外に「深夜の雪」、「僕等」、「晩餐」があります。

全9曲収録のCDは、永田峰雄氏(テノール)歌唱、アントニー・シピリ氏のピアノ伴奏で、カメラータ・トウキョウさんからリリースされています。

抜粋で収録されているCDも、当方、2枚持っております。

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左はビクターさんから出た「わたしたちのにっぽんの歌 第2集 早春賦 城ヶ島の雨 斑猫」。故・四家文子さん他の演奏によるオムニバスで、北村敦子さんという方が、「あどけない話」と「千鳥と遊ぶ智恵子」を歌われています。右は自主制作版とおぼしきCDで、野崎幹子さんという方のライヴ録音。「人に」、「あどけない話」、「」千鳥と遊ぶ智恵子」、「レモン哀歌」が収録されています。

今回もそうですが、各種演奏会等でぽつりぽつりと取り上げられています。


ぜひ足をお運びください。


【折々のことば・光太郎】010

私の性来が持つ詩的衝動は死に至るまで私を駆つて詩を書かせるであらう。そして最後の審判は仮借なき歳月の明識によつて私の頭上に永遠に下されるであらう。私はただ心を幼くしてその最後の巨大な審判の手に順ふほかない。

雑纂「詩集「典型」序」より
 
昭和25年(1950) 光太郎68歳

自らの生涯を振り返る連作詩「暗愚小伝」20篇を含む、生前最後となった詩集『典型』の序文から。

刊行日は昭和25年10月25日。第一詩集『道程』は、大正3年10月25日。偶然かもしれませんし、光太郎が意図してその日を指定したのかも知れませんが、同じ10月25日です。

過日、次の日曜(6月23日)に、長野県松本市で、光太郎詩歌に曲をつけた故・清水脩氏作曲の「亡き人に」「智恵子抄巻末のうた六首」「私は青年が好きだ」が演奏される、一般合唱団コーロ・カンパーニャさんの演奏会をご紹介しましたが、同日、北海道でも「智恵子抄巻末のうた六首」が演奏されます。

北海道教育大学札幌校グリークラブ・混声合唱団 OB・OG演奏会

期     日  : 2019年6月23日(日)
会     場 : 札幌市教育文化会館 小ホール  札幌市中央区北1条西13丁目
時     間 : 13:30開演
料     金 : 500円

北海道教育大札幌校の男声合唱団「グリークラブ」OBらによる演奏会。グリークラブは1957年創部。女子学生の増加に伴い、75年に混声合唱団になった。当日は、漫画家やなせたかしが作詞した合唱曲集「愛する歌」から「ひばり」、清水脩作曲の「智恵子抄巻末のうた六首」など15曲を披露する。混声合唱団のOB・OG、現役生の計約20人も出演し、4曲を合唱する。


フライヤー(チラシ)等の画像がネット上で見つかりませんでした。

010「智恵子抄巻末のうた六首」は、それまでにも独唱歌曲や箏曲で、光太郎詩に曲をつけたり、光太郎詩の朗読に乗せて演奏したりといった作品をいろいろ作られていた清水氏が手がけた、初の光太郎テクストによる合唱曲です。まず男声版が昭和39年(1964)に作られ、混声版へのアレンジが昭和42年(1967)、消長の激しい合唱曲の世界で、古典的定番の一つとして歌い継がれています。

終わってから気がついたのでこのブログではご紹介しませんでしたが、今年3月には、目白の学習院大学さんで、同大輔仁会音楽部大学男声合唱団さんと神戸の甲南大学グリークラブさんの交歓合唱演奏会でも演奏されました。

「うた六首」は、昭和16年(1941)刊行の『智恵子抄』に収められた、智恵子をモチーフとした短歌六首です。

 ひとむきにむしやぶりつきて為事するわれをさびしと思ふな智恵子

 気ちがひといふおどろしき言葉もて人は智恵子をよばむとすなり

 いちめんに松の花粉は濱をとび智恵子尾長のともがらとなる

 わが為事いのちかたむけて成るきはを智恵子は知りき知りていたみき

 この家に智恵子の息吹みちてのこりひとりめつぶる吾(あ)をいねしめず

 光太郎智恵子はたぐひなき夢をきづきてむかし此所に住みにき

それぞれ正確な作歌時期は不明ですが、「ひとむきに……」は大正13年(1924)10月の第二期『明星』がおそらく初出です。「為事」は「しごと」と読みます。

「この家に……」、「光太郎智恵子は……」の二首は、昭和13年(1938)9月の『いづかし通信』に発表されました。したがって、智恵子存命中。以前にも書きましたが、智恵子歿後の作と勘違いされることが多くあります。

「気ちがひと……」、「いちめんに……」は、智恵子の没した翌年の昭和14年(1939)、『中央公論』に「旧詠一束」の題で掲載された15首に含まれ、これが現在確認できている初出です。ただ、「旧詠」ですから作歌時期は遡るでしょう。「この家に……」、「光太郎智恵子は……」も同じ項に再録されています。

また、「気ちがひと……」は、戦後、花巻の佐藤隆房(宮沢賢治主治医、光太郎の花巻疎開に尽力、戦後すぐには光太郎を自宅離れに約1ヶ月住まわせました)に贈った智恵子紙絵にこの歌を揮毫してもいます。「おどろしき(おとろしき)」は、「恐ろしい」の意の古語です。

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『智恵子抄』で「よばむとすなり」だった結句が、戦後のバージョンでは、「よばむとすらむ」と変えられています。「よばむとすなり」の「なり」は、伝聞推定の助動詞。「呼ぼうとしているようだ(そういう声が聞こえる)。」とでも訳しましょうか。「よばむとすらむ」の「らむ」は、やはり助動詞ですが、複数の意味のうち「現在の伝聞」を採ればほぼほぼ同じ意味です。光太郎、短歌はきちんと書き留めておかない習慣だったので、この変更にはそれほど深い意味はないのでは、と思います。

「いちめんに……」は、昭和9年(1934)の、智恵子の九十九里浜での療養生活を下敷きにしています。

「わが為事……」は、やはり昭和14年(1939)の『知性』に載ったのが現在確認できている初出です。こちらも「旧詠一束」の題で15首載せられたうちの1首です。

この6首以外にも智恵子を詠んだ光太郎短歌はけっこうありますが、それらは採らず、作歌時期もばらばらなこの6首を『智恵子抄』の巻末でピックアップした光太郎の意図をくみ取りたいものです。


閑話休題、今後とも、清水脩氏作曲の光太郎詩歌に曲をつけた楽曲、演奏され続けてほしいものです。


【折々のことば・光太郎】

人としてのフアン ゴツホを知るには是非見て置く可き書物の一つだらう。兄を此上無く敬愛してゐた妹が女らしい緻密な筆で書いたやさしい回想録。凡てを内側から照らし出してゐる。

雑纂「訳書広告 エリザベト ゴツホ「回想のゴツホ」」より
 大正10年(1921) 光太郎39歳

『回想のゴツホ』は、フィンセント・ファン・ゴッホの妹であるエリザベート・ゴッホによる評伝。この年、光太郎の訳で叢文閣から出版されました。

本日は合唱系で。

まず、長野県から演奏会情報。

コーロ・カンパーニャ 第7回コンサート

期 日   : 2019年6月23日(日)
会 場 : 松本市音楽文化ホール 長野県松本市島内4351
時 間 : 14:00開演
料 金 : 一般1,000円  高校生以下500円
曲 目 : 
 清水脩 高村光太郎の世界   亡き人に 智恵子抄巻末のうた六首 私は青年が好きだ
 アラカルト~生きること 歌うこと VITA DE LA MIA VITA (W.HAWLEY)
  あなたの心のなかに(松下耕) 他
 Missa brevis (G-dur)  V.Miškinis

昭和の名曲、南アフリカの結婚歌、トルミス作品、現代日本の作品などのアラカルト、そしてメインはミシュキニスと、バラエティに富んだ曲目となっております。

6/23(日)、松本市音楽文化ホールでお待ちしています!


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故・清水脩氏の作曲になる光太郎詩をテキストとした作品で1ステージ。このうち「智恵子抄巻末のうた六首」、『智恵子抄』中の「亡き人に」(昭和14年=1939)に曲をつけたものは、楽譜やレコード、CD等で広く知られていますが、「私は青年が好きだ」(昭和15年=1940)にも清水氏が曲をつけていたのは存じませんでした。調べてみましたら、カワイさんから昭和44年(1969)に刊行された『清水脩合唱曲選集』に収められているようです。この手の古い作品を取り上げてくださるのはありがたいところです。
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合唱といえば、当方も数十年混声合唱に取り組んでいますが、先々週には所属する団で千葉県合唱祭に出演して参りました。

わが団は、指揮者が故・大中恩氏の弟子筋に当たる方で、昨年暮に亡くなった氏の追悼的な意味合いも兼ね、氏の作品などを演奏しました(そうでなくても氏の作品をよくとりあげているのですが……)。

毎年、光太郎詩に曲をつけた作品が演奏されないかな、と思っているのですが、なかなか取り上げられません。さまざまな作曲家さんが作られてはいるのですが。同じことはコンクール系でも同様です。ただ、まだコンクール系の方がよく取り上げられているかな、という感じですね。合唱祭というと、たしか6分間だかの時間制限があって、そのあたりもネックになって居るような気がします。

で、千葉県合唱祭。出演団体が多いので、3日間、それぞれ午前・午後に分け、計6ブロックでの実施です。わが団と同じブロックに出演された千葉県立松戸高校合唱部さんが、昨年ヒットした米津玄師さんの「Lemon」を演奏なさいました。若々しく真面目ないい演奏でした。

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「Lemon」、米津さんご自身、光太郎詩「レモン哀歌」(昭和14年=1939)からのインスパイアもあるかもしれないとおっしゃっています。J-POP系もヒットすればすぐ合唱編曲が出るっけな、と、それは失念していました。

プログラムをめくってみますと、異なるブロックでも複数の出演団体が「Lemon」を演奏なさっていました。

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たまたまでしょうが、すべて松戸市の高校さん。松戸と「Lemon」には直接関係はないと思います。アレンジは2種類で、吉田宏さんという方と、西條太貴さんという方ですね。西條さんのヴァージョンは混声3部、主に吹奏楽の楽譜を扱っているウインズスコアさんという会社から出版されています。

全国の合唱団さん等で取り上げていただき、元ネタである「レモン哀歌」にも関心を寄せていただきたいものです。


【折々のことば・光太郎】

平日研究のモデル費にあてる為、斯ういふ会を又催します。今度は途中でお断りするやうな事をしません。そして永く続けます。

雑纂「木彫小品鳥蟲魚介蔬菜果蓏を頒つ」より
 大正13年(1924) 光太郎42歳

木彫の頒布会広告です。少し前に同趣旨で絵画やブロンズ彫刻の頒布会を立ち上げ、スポンサーを募りましたが、作品を換金することに抵抗を感じ、どちらも長続きしませんでした。しかし、前年の関東大震災を受けて、ブロンズの入手が困難だったという部分もあり、ふと回帰した木彫が意外に好評で、それなら本格的に売り出すか、という感じでした。やはり智恵子は作品を手放すことに難色を示し、懐に入れて持ち歩いたそうです。

複数の「蝉」や「鯰」などがこれによって作られ、さらに別個に百貨店での即売会にも出品(「栄螺」昭和5年=1930など)、多作ではなかったものの、光太郎自身、本当に「今度は途中でお断りするやうな事をしません。そして永く続けます。」というつもりだったようですが、顕在化した智恵子の心の病のため、それもできなくなってしまいます。

演劇の公演情報です。
会    場 : シアターKASSAI 東京都豊島区東池袋1-45-2
時    間 : 5/28(火) ~5/30(木)19:00 5/31(金)  14:00・19:00 
         6/1(土)  12:00・15:30・19:00
  6/2(日)  13:00・17:00
料    金 : 前売・当日共 3,800円/学割2,800円

脚本 清水邦夫 演出 大谷恭代

『いとしいとしのぶーたれ乞食』
首塚に棲みついている老人と老婆。老婆は何十年もおかげまいりの一行を待っている。そこへ「おかげまいりパック」のツアー客たちがやってくる・・・
  側見民雄 槇由紀子 町屋圭祐 尾﨑宇内 小野田由紀子 瀬沢夏美 夏谷理恵 環みほ 須藤正三 藤本しの
 野良のりオ  知野三加子 黒崎雅 今氏瑛太

『朝に死す』
長く続く壁の前。男は仲間を裏切った。女は男に捨てられた。生への絶望と渇望・・・名前も顔も知らなかった二人が話し始める・・・
  眞藤ヒロシ 牛水里美 小林司 鳥居きらら

二本立て(休憩なし)×Wキャスト公演。

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劇作家・清水邦夫氏の脚本による2本立て公演だそうです。

清水氏と言えば、平成3年(1991)に、光太郎智恵子を主人公とした演劇「哄笑―智恵子、ゼームス坂病院にて―」を書かれ、小林勝也さん(光太郎)、故・松本典子さん(智恵子)他のご出演、木冬社公演ということで上演されました。

今回の作品のうち、『いとしいとしのぶーたれ乞食』の方で、光太郎詩「樹下の二人」(大正12年=1923)が使われるようです。「首塚に棲みついている老人と老婆」の会話が、「樹下の二人」からデフォルメされたものを含むようで。上記チラシの右上にも「樹下の二人」の一節が引用されています。

この作品、戯曲として書かれたのは昭和46年(1971)、清水氏まだお若い頃の作品です。ただ、初演は下って昭和58年(1983)。のちの「哄笑―智恵子、ゼームス坂病院にて―」と同じく、木冬社さん公演でした。

おそらくこれが発展して「哄笑―智恵子、ゼームス坂病院にて―」につながっていったのだと思われます。

ぜひ足をお運びください。


【折々のことば・光太郎】

又新聞で、私が彫刻家であるのに文学部門から推せんされたのがをかしいといふので辞退したやうにも言はれたが、これは談笑の間に私が早解りするやうに、「それでは親爺におこられるよ」などといつたからであらう。又実際一旦文学部門で会員になつたら、その上重ねて美術部門で会員に推されるといふことはあり得ないことであらう。つまり私の場合で言へば、美術部門からはしめ出しを食つたことになるのである。

散文「日本芸術院のことについて――アトリエにて 1――」より
 昭和28年(1953) 光太郎71歳

この年、光太郎は日本芸術院第二部(文芸)会員に推挙されましたが、辞退しています。辞退者が珍しく、当時のメディアがその理由をいろいろ憶測を交えて報じましたが、それに対し、間違いもあるようだから、と発表した文章の一節です。

やはり彫刻家としての矜持があったでしょうし、そして、戦時中に書き殴った大量の翼賛詩によって多くの前途有為な若者を死地へと追いやったという反省から、文学部門での栄誉に浴することを辞退したのでしょう。

今月20日が智恵子の誕生日ということもあり、その故郷、福島県二本松市でいろいろとイベント等が企画されています。3回に分けてご紹介します。

まずは、光太郎詩にオリジナルの曲を付けて歌われているシャンソン系歌手のモンデンモモさんによるコンサート。

モモの智恵子抄

期   日 : 2019年5月18日(土)
会   場 : (株)鐵扇屋 サウンドリゾート蔵 福島県二本松市油井字八軒町45
時   間 : 15:30開場 16:00開演 
料   金 : お気持ち

智恵子さん!!!
はじめは涙で私に語りかけ そして 今は 優しく微笑んでくれています 
2018年 モンデンモモの智恵子抄は 新モモの智恵子抄へ少し歩み始めました
大好きな 鉄線屋さんで またこうして 今回も 『私の智恵子抄』のページを 開きます  
高村光太郎さんの言葉は いつも いつも 新しい!
たくさんの歴史 お伝えしたこともたくさん!  是非是非 お目にかからせてください!
2019年春 モンデンモモ

♪ 樹下の二人 あどけない話 レモン哀歌 人に 僕ら 十和田湖の裸像にあたふ
    智恵子飛ぶ もしも智恵子が やっとあなたに逢えた  他

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鐵扇屋さんは、智恵子生家/智恵子記念館さんから徒歩数分。昔の油屋さんだった蔵を音響装置の試聴スペース的に改装したもので、モモさん、平成27年(2015)昨年、それぞれこちらで演奏なさっています。

今回も、昨年同様、最近、モモさんと組んでよくお仕事をなさっている、舞踊家の増田真也さんという方とのコラボとのこと。

智恵子生家/智恵子記念館さんでは、「高村智恵子生誕祭」ということで、「上川崎和紙で作ろう切り絵体験」、「智恵子の「紙絵」の実物展示」が行われています。さらに明日、詳しくご紹介しますが、道の駅安達智恵子の里さんでも、同じ5月18日(土)から智恵子バースデー関連の企画が始まります。また、明後日ご紹介しますが、二本松周辺の皆さんのソウルマウンテン・安達太良山の山開きが翌日です。

ぜひ足をお運び下さい。


【折々のことば・光太郎】

遠因近因の外にこの病気には原因がある。それは精神の深いいたみだ。現代東洋に生まれたものが必ず持つてゐるにちがひない心の奥の悲傷は、人それぞれの生理に従つて身体的に苦悩となる。呼吸するたびに痛むわたくしの肋間神経の痛みは、一語を吐くたびに傷むわたくしの精神奥処のうづきに照応する。
散文「みちのく便り 四」より 昭和26年(1951) 光太郎69歳

「この病気」は、永らく光太郎を苦しめていた肋間神経痛。結核性のもので、結局、光太郎はこの5年後にそれで亡くなるのですが、身体的な痛みと共に、戦時中、多くの前途有為な若者を鼓舞して死に追いやったという自責の念からくる精神的な傷みと相まって、光太郎に襲いかかります。畢竟するにそれが罪深い自分に与えられた罰の一つなのだろう、という感覚でしょうか。

四国徳島から演奏会情報です。
会   場 : 徳島県郷土文化会館(あわぎんホール)  徳島県徳島市藍場町2丁目14番地
時   間 : 開場 13:30 / 開演 14:00
料   金 : 2,000円(全席自由)

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プログラム

 松岡貴史作曲      こどものためのピアノ曲集 「音の絵本」より
 松岡みち子作曲    「智恵子抄」より
 沢井忠夫作曲       「鳥のように」
 信時 潔作曲        不盡山を望みて・日本のあさあけ
 J.S.バッハ作曲     『カンタータ78番』より 二重唱 「われは急ぐ」
 ドヴォルザーク作曲  歌劇『ルサルカ』より 月に寄せる歌
 ヴェルディ作曲     歌劇『イル トロヴァトーレ』より
              炎は燃えて/鎖に繋がれて/あの山へ帰ろう
 ロッシーニ作曲     歌劇『セミラーミデ』より  遂にバビロニアに着いたぞ!
 プレヴィン作曲     歌劇『欲望という名の電車』より  私が欲しいのは魔法
 ほか

出演

 遠藤咲季子(箏)  井上ゆかり(ソプラノ)  松平幸(ソプラノ)
 杣友惠子(メゾ・ソプラノ) 
野間愛(メゾ・ソプラノ)  小川明子(アルト)
 松岡貴史(作曲・ピアノ)  松岡みち子(作曲)  
山田啓明(ピアノ)
 米田佳子(ピアノ)


松岡みち子さんという方の作曲になる「智恵子抄」がプログラムに入っています。存じ上げない方で、調べてみましたところ、香川大学特命准教授であらせられるそうです。また、「智恵子抄」はソプラノとピアノ伴奏による全10曲の歌曲だとのことです。「より」となっていますので、その中からの抜粋なのでしょう。

お近くの方、ぜひどうぞ。


【折々のことば・光太郎】

つまり美といふのは、それが必要に迫られてゐるもの、合理的であるもの、堅牢であるもの、さう言つたものなのです。美しくしようと思つて飾り立てたものは美であることが少ないのです。

談話筆記「(春になつて)」より 昭和21年(1946) 光太郎64歳

いわゆる「用の美」について言及する中での発言です。そしてこの後の部分で、詩の世界も似たようなものだ、的な発言が続きます。造形芸術、文学に限らず、音楽や舞台芸術、はては身だしなみなどにも当てはまるような気がします。

昨日は都内に出ておりまして、3件、用事を片付けて来ました。品川→六本木→上野と。いったん千葉の自宅兼事務所に帰り、今日また吉祥寺に参ります。都内に泊まってしまえば時間的、体力的に楽なのですが、家のこともいろいろやらねばならず……。というわけで、4回連続で(突発的な何かがなければ、ですが)都内レポートを。

まず、品川区大井町。昨年、花巻高村光太郎記念館さんで開催された企画展「光太郎と花巻電鉄」の際に、光太郎が暮らした昭和20年代の花巻町とその周辺をイメージしたジオラマを制作して下さった、石井彰英氏のお宅。マンションの屋上に造られたプレハブ的な建物(そのままずばり「サロン ルーフトップ」)でジオラマ制作をなさいましたが、現在はミュージシャンでもあらせられる石井氏、そこでライヴ活動などもなさっています。

で、きたる4月2日(火、日比谷公園松本楼さん開催第63回連イメージ 1翹忌で、石井氏とお仲間の方々に、アトラクションとして音楽演奏をお願いしまして、快諾を得、その打ち合わせ兼練習風景を見学させていただきました。

バンドメンバーは、アコースティックギター/ヴォーカルで石井氏、アコーディオンを堀晃枝さん、もうお一方ヴォーカルに松元邦子さん。松元さんは、石井氏が自作のジオラマを撮影して作られたDVDで、ナレーションを担当して下さった方です。堀さんもBGMで参加されています。

3曲演奏して下さるとのことで、まずDVDにも収録されている石井氏作詞作曲の「トパーズ 高村智恵子に捧ぐ」。元々石井氏、智恵子終焉の地であるゼームス坂病院跡地(現在、光太郎詩「レモン哀歌」の詩碑が建っています)の近くにお住まいであることから、昔の大井町のジオラマを作られた中でゼームス坂病院も取り上げて下さり、それがそもそものきっかけで知遇を得た次第です。


他に、「星の王子様」。


そして「ずっとこのままま」。


それぞれ練習風景も拝見。すばらしかったです。

当方、昔、クイーンのジョン・ディーコンに憧れてベースギターを弾いていまして、サロンルーフトップ内にベースギターも立てかけてあり、それを見て「うずっ」と来たのですが、もう何年も手にしていませんし、フレットのどこが何の音だったかも忘れています(笑)。手に取って弾き始めれば思い出すのでしょうが、そのレベルで参加させて下さいとはとても言えず、黙って聴いていました。ただ、三曲目「ずっとこのまま」では、最後に聴衆を巻き込んでサビの部分を「皆さんご一緒に!」とするそうで、その際にはマイクを握ることになるかと存じます。

閑話休題。そういうわけで石井氏とお仲間の演奏で、連翹忌に花を添えていただきます。また、それとは別に、昨秋、智恵子の故郷・福島二本松で開催された「高村智恵子没後80年記念事業 全国『智恵子抄』朗読大会」で大賞に輝いた宮尾壽里子さんとやはりお仲間の方々に、朗読もお願いしております。

【折々のことば・光太郎】

この橋は帝都の川から海に通ずる関門である。その海は京浜運河によつて横浜につながり、横浜から太平洋につながる。この橋は帝都の中心が太平洋に通ずる船の途(みち)の要害にあたる。太平洋の波必ずしも太平ならざる時、その開閉を司どるこの橋は何かの象徴のやうだ。

散文「鬨の渡し」より 昭和15年(1940) 光太郎58歳

この年に完成した勝鬨橋についてのエッセイの一節です。かつて開閉式の可動橋だったこの橋に、当時の微妙な対米関係をオーバーラップさせています。

智恵子没して1年余り。その心の空隙を埋めるかのように、かつて極力関わりを避けていた世間一般との交流を積極的に行うようになってきた光太郎。そうでもしないと自分も心を病むかもしれないという危機感があったのかもしれません。しかし、その世間はどんどん泥沼の戦時色に染め上げられていく真っ最中でした。昭和12年(1937)に始まった日中戦争は膠着状態、それを打開すべく、同16年(1941)には太平洋戦争開戦。そうした中で、光太郎は大政翼賛会中央協力会議の委員に推され、さらに日本文学報国会詩部会長などの任に付くことになります。そうなって行く素地が既に見える文章ですね。

合唱系の情報を2件。

鹿児島高等学校音楽部 第71回全日本合唱コンクール全国大会出場記念 特別演奏会

期    日 : 2019年3月17日(日)
会    場 : かごしま県民交流センター 県民ホール 鹿児島県鹿児島市山下町14
時    間 : 14:00開場  14:30開演
料    金 : 無料

本校音楽部の全日本合唱コンクール全国大会出場を記念して、特別演奏会を開催します。
コンクールの自由曲「レモン哀歌」、合唱劇「星の王子さま(冒頭15分)」など、感謝の気持ちを込めて歌います。
皆様ぜひお越しください。

客演/桃坂 寛子(ピアノ)
賛助出演/丸山 真也(本校2016年度卒業・東京藝術大学2年)・aiwendil(インターカレッジ男声合唱団)

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昨秋、長野市で開催された第71回全日本合唱コンクール全国大会高等学校部門に、九州代表として出場した鹿児島高等学校音楽部さんの演奏会です。自由曲で西村朗氏作曲「混声合唱とピアノのための組曲「レモン哀歌」」を演奏されましたが、そちらもプログラムに入っています。

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もう1件。毎年ご紹介していますが。
会    場 : 福島市音楽堂大ホール 福島県福島市入江町1-1 
時    間 : 9:30開場  10:00開演
料    金 : 3/21~23 2,500円    3/24 3,000円

声楽アンサンブルコンテスト全国大会は、音楽を創りあげるもっとも基礎となる要素「アンサンブル」に焦点をあてた、2名から16名までの少人数編成の合唱グループによるコンテストです。全国の合唱レベルの向上を図るとともに、歌うことの楽しさを福島から全国に発信することを目的として、2008年(平成20年)から開催し、今大会で12回目を迎えます。

3月21日(木・祝) 中学校部門
3月22日(金)           高等学校部門
3月23日(土)   小学校・ジュニア部門、一般部門
3月24日(日)   本選

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光太郎詩「あどけない話」(昭和3年=1928)の一節から採られ、福島では復興の合い言葉となっている「ほんとうの空」(光太郎詩では「ほんとの空」)の語が、サブタイトルに使われています。当初は単なる合唱アンサンブルコンテストでしたが、平成23年(2011)のやはりこの時期に計画されていた第4回大会が東日本大震災によりやむなく中止となり、平成25年(2013)の第6回大会から、震災からの復興を祈念する意味もあって「ほんとうの空」の語がサブタイトルに盛り込まれるようになりました。

毎年そうなのですが、出演団体は発表されるものの、それぞれの演奏曲がわかりません。改善していただきたいところなのですが……。


【折々のことば・光太郎】

古代仏画にある暈繝彩色の叡智に驚く。もう一度あの色調の深さを生かさねばなるまい。もう一度あの超現実的真理の現実性を把握せねばなるまい。今日の日本画の稀薄さを救ふためには。

散文「某月某日」より 昭和14年(1939) 光太郎57歳

最近になって評価が高まってきた伊藤若冲や曾我蕭白などの作画を見たら、光太郎はどんな感想を持っただろうと思います。

第63回連翹忌(2019年4月2日(火))の参加者募集中です。詳細はこちら

昨日、入沢康夫さんの訃報をご紹介しました。そちらは先週、報じられたものでしたが、今朝、新聞を開くと、作曲家の大中恩さんの訃報が。2日連続でこうした内容となるのは胸が詰まる思いです(一昨年にも登山家の田部井淳子さんと俳優の平幹二朗さんのそれを2日連続でご紹介した事がありますが)……。 

大中恩さん死去

 大中恩さん(おおな001か・めぐみ=作曲家)3日、菌血症で死去、94歳。葬儀は8日正午から東京都港区赤坂1の14の3の「日本キリスト教団 霊南坂教会」で。喪主は妻清子(せいこ)さん。
 「サッちゃん」「いぬのおまわりさん」などの童謡のほか、1300曲に及ぶ合唱作品で知られる。24年、作曲家・オルガン奏者の大中寅二を父として東京で生まれた。東京音楽学校(現・東京芸術大)で信時潔(のぶとき・きよし)に師事して作曲を学び、歌曲や合唱曲を中心に創作を続けた。55年、作曲家の中田喜直らと「ろばの会」を結成。テレビやラジオを通じて童謡を家庭に届けるなど、子どものための音楽創作に尽くした。
 82年に日本童謡賞を受賞。89年に紫綬褒章。=一部地域既報
(『朝日新聞』 2018年12月5日)

当方の知る限り、大中氏、光太郎の詩に曲をつけた合唱曲を2曲、公になさっています。昭和35年(1960)の雑誌『音楽の友』の別冊付録に掲載された女声合唱曲「五月のうた」と、昭和37年(1962)にカワイ楽譜さんから出版された『大中恩男声合唱曲集』に収録された「わが大空」。こちらには他に北原白秋作詞の曲も収められています。

「五月のうた」の譜面は未見ですが、「わが大空」が収められた『大中恩男声合唱曲集』は平成16年(2004)に有限会社キックオフさんから再刊され、持っています。

  わが大空002

 こころかろやかに みづみづしく
 あかつきの小鳥のやうに
 胸はばたき
 身うちあたらしく力満つる時
 かの大空をみれば
 限りなく深きもの高きもの我を待つ
 ああ大空 わが大空

 こころなやましく いらだたしく
 逃げまどふ狐のやうに
 胸さわだち
 身の置くところも無きおもひの時
 かの大空をみれば
 美しくひろきものつよきもの我を待つ
 ああ大空 わが大空


この詩に最初に曲がつけられたのは、昭和14年(1939)。坂本龍一氏の師に当たる松本民之助によってでした。そちらはかなりとんがった作曲ですが、大中氏のそれは、奇をてらわぬ穏健なもの。さりとて単純ではありませんが。

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当方、趣味で音楽活動もやっており、そちらの先生が、大中氏の弟子筋に当たられる方です。そこで、大中氏の曲もよく取り上げており(つい3日前も歌いました)、その関係で、平成22年(2010)に一度、氏にお会いする機会がありました。大中氏作のミュージカル「さよならかぐや姫」(初演・昭和40年=1965)が演奏されたコンサートで、当方の先生が指揮、当方は出演ではなく聴きに行っただけでしたが、大中氏もいらっしゃるというので、『大中恩男声合唱曲集』の楽譜を持っていき、どさくさに紛れてサインしていただきました。

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大中氏、こころよくサインして下さいましたが、あれから9年近く経つかという感じです。

ちなみに大中氏、昭和18年(1943)には学徒出陣で国立競技場を歩かれました。そういう意味では歴史の生き証人ですね。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。


【折々のことば・光太郎】

あかるい精神力と合理的な療養法とさへあれば、こんな奇蹟に似た事が、実は奇蹟でなくて誰にでも起り得るに違ひないと考へられて無限の光明を感じます。
散文「竹内てるよ著「いのち新し」序」より
 昭和27年(1952) 光太郎70歳

竹内てるよは明治37年(1904)生まれの詩人。光太郎はたびたび竹内の著書に序を寄せたり、題字揮毫をしたりしています。若い頃に結核性の脊椎カリエスにかかって重篤となり、昭和4年(1929)には、草野心平が中心となって「竹内てるよを死なせたくない会」が結成され、光太郎も力を貸しました。

かつての結核は不治の病に近く、死亡原因のトップでしたが、抗生物質の普及等により、その脅威は薄らぎました。竹内も平成13年(2001)、満96歳まで永らえました。

昭和初めに「もう危ない」と思われていた竹内が恢復し、戦後には光太郎の暮らしていた花巻郊外旧太田村までやって来、自身も永らく結核に冒されていた光太郎は驚きます。同時に、その本復の姿が、畢生の大作「十和田湖畔の裸婦群像(通称・乙女の像)」を制作し始める光太郎にとって、光明になったのではないでしょうか。

ソプラノ歌手・大島久美子さんのリサイタルです。 
時  間 : 14時開演
会  場 : 浜離宮朝日ホール 東京都中央区築地5-3-2 朝日新聞東京本社・新館2階
料  金 : 全席自由 ¥4,000

出  演 : 大島久美子(ソプラノ)  小沢さち(ピアノ)
曲  目 : 
 第1部《 日本歌曲の世界》
  うぐひす(佐藤春夫/早坂文雄) さくら横ちょう(加藤周一/中田喜直)
  さくら横ちょう(加藤周一/別宮貞夫) 市の花屋(深尾須磨子/高田三郎)
  すてきな春に(峰陽/小林秀雄)霧と話した(鎌田忠良/中田喜直)
  落葉松(野上彰/小林秀雄)
 第2部 《平和への想い》 合唱曲独唱版
  死んだ男の残したものは(谷川俊太郎/武満徹)
  さくらんぼと麦わらぼうし(金子静江/鈴木憲夫)
  合唱組曲「生きとし生けるものへ」独唱版より(上田由美子/上田益)
  とうさんの海(宇部京子/上田益)
 第3部 《命の煌き》 合唱曲独唱版
  合唱組曲「楽の音は天より響き」独唱版より(丸尾直史)
  ひとひらの花びら(鈴木憲夫) 二度とない人生だから(坂村真民/鈴木憲夫)
  レモン哀歌(高村光太郎/鈴木憲夫)

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第3部で鈴木001憲夫氏作曲の「レモン哀歌」がラインナップに入っています。「合唱曲独唱版」という副題の通り、元々女声合唱曲として作曲されたもので、カワイ出版さんから平成23年(2011)1月に楽譜が出版されています。初演は平成22年(2010)12月、市川市文化会館大ホールにて、女声合唱団コール・ベル~15周年記念コンサートでの委嘱作でした。

独唱板もほぼ同時に作曲されたようで、やはり平成23年(2011)に同じカワイ出版さんから「鈴木憲夫歌曲集3」として出版された中に収録されています。さらに混声合唱版が平成24年(2012)に、これもカワイさんから出ています。

非常にメロディーラインの美しい曲で、奇をてらうことなく光太郎の思いがゆったりとした楽曲の中に切々と歌いあげられています。女声、混声ともに合唱版はたびたび演奏されていますが、独唱版が取り上げられるのは珍しいようです。


合唱版の序文から。

 「レモン哀歌」を作曲のテキストとして意識し考え始めたのは今から7~8年前のことです。高村光太郎といえば「智恵子抄」と連想されるほど、氏の代表作として愛され、親しまれている作品です。とくに「レモン哀歌」はその中心ともいえる作品です。
 (略)
 2007年、私は妻・美智子を喪(な)くしています。自身の身の上、さらに様々な思いとが重なり作曲は遅々として進まず、幾度も頓挫しました。が、この作品を委嘱下さったコール・ベルの皆さんの励ましに支えられ2010年9月25日にこの作品は完成しました。
 はじめに取り組んでから1年半もの時間を要しました。「鈍」とした仕事ぶりに自身で呆れ果ててはおりますが、しかしそれは私にとり必要な時であったのだと今にして思います。
 詩はとても平易に書かれています。感情的な起伏を抑え淡々として、詩稿をご覧になれば分かるように「段」を空ける事なく、まるで自身の感情を押し殺すかのような手法で書かれています。私もことさらに感情を煽るような作曲はせずに、行間に潜む光太郎の息づかいを思い作曲を進めていきました。
 作曲を終えた今、合唱作品として新しい生命が吹き込まれたこの作品を、私は光太郎、智恵子、そして美智子の魂に捧げたいと思います。

こうした作曲者の思いを知って聴くのと、そうでないのとでは、聞こえ方が違ってきますね。


ところで演奏される大島久美子さん。気づきませんでしたが、先月、地元の広島県で開催された「大島久美子 ソプラノ・リサイタル~合唱曲を歌う~」でも、「レモン哀歌」を歌われていました。

「気づきませんでした」といえば、11月13日(火)、名古屋市東文化小劇場で開催された「第6回ソプラノ祥愛さちあリサイタル~香しき日本の歌~」では、野村朗氏作曲の「連作歌曲「智恵子抄」~その愛と死と~」が演奏されていました。前日になって野村氏からメールが来て知った次第で、このブログでご紹介できませんでした。

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さまざまな分野の皆さんが、光太郎智恵子の世界を取り上げて下さっています。これからも、健全な精神で、二人の生き様を、それぞれの表現で紹介して下さることを願ってやみません。


【折々のことば・光太郎】

この歌集は億万人に愛されるであらう。吾身のやうになつかしまれるであらう。そのことを思ふとわたくしはたのしい。これらの歌は一度きり人を打つて消え去る類のものではない。ここに引くまでもないが、たとひ読み人しらずとなつても人の心にいつしかとよみかへされるであらうと思はれる歌がこの歌集の中にはある。

散文「中原綾子歌集「刈株」序」より 昭和18年(1943) 光太郎61歳

中原綾子は与謝野門下の歌人です。残念ながら、光太郎が激賞したほどには名が残っていないように思われます。かえって、光太郎自身の詩が、ここに記されたような扱いとなるような、そんな気もします。

「智恵子抄」収録のものを中心とした光太郎詩に自作の曲を付けて歌われている、シャンソン系歌手のモンデンモモさん。

このところ、出雲地方を活動拠点となさり、さらにウィーンに行かれたりと、「智恵子抄」系の活動がほぼご無沙汰でしたが、一昨日、ハガキが届きました。

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智恵子の故郷、二本松で「智恵子抄」系のコンサートだそうです。

「2018年11月4日(土)」となっていますが、4日は日曜日ですね。まさか11月3日(土)の間違いでは、と思い、電話してみましたがつながりませんでした。

追記 電話、つながりました。やはり11月4日(日)の誤りだそうです。

会場は智恵子生家/智恵子記念館近くの鐵扇屋さん。築140年という蔵があり、モモさん、平成27年(2015)にもこちらでコンサートを開催なさいました。

最近、モモさんと組んでよくお仕事をなさっている、舞踊家の増田真也さんという方とのコラボとのこと。投げ銭制で、入場は無料だそうです。

急な話で、当方も伺えませんが、取り急ぎご紹介しておきます。


【折々のことば・光太郎】

自然はその背後の悠久なもの、その背後の律法を語らずして人に悟らせる。

散文「廣瀬操吉詩集「雲雀」序 ――廣瀬君をおもふ――」より
大正15年(1926) 光太郎44歳

廣瀬操吉は、光太郎より12歳年少の、兵庫県出身の詩人。現代ではほぼ忘れられた詩人ですが、光太郎はその詩を絶賛していました。

全日本合唱連盟さん主催の平成30年度(第71回)全日本合唱コンクール。今月末に中学校・高等学校部門(会場・長野県県民文化会館)、来月末には大学職場一般部門(同・札幌コンサートホールkitara)が開催されます。

このうち、中学校・高等学校部門の全出場校と001演奏曲目が発表されました。楽譜販売を手がけるパナムジカさんのサイトです。

それによりますと、高校Bグループ(33人以上の大編成)に出場する九州地区代表・鹿児島高等学校音楽部さんが、光太郎作詞、西村朗氏作曲の「混声合唱とピアノのための組曲「レモン哀歌」」から、「レモン哀歌」を自由曲として演奏なさいます。他の学校さんでも光太郎作詞の曲を取り上げて下さっているかと期待しておりましたが、残念ながら鹿児島高校さんだけでした。

鹿児島高校さんに関しては、コンクールの主催者である『朝日新聞』さんで記事になっています。

まず、鹿児島版、先月8日の記事から。 

鹿児島)鹿児島・松陽が全国へ 九州合唱コン高校の部

 宮崎市で7日にあった九州合唱コンクールの高校の部に県内からは3団体が出場。鹿児島、松陽が金賞に輝き、いずれも全国大会への出場権を得た。鹿児島女子は銀賞だった。 高村光太郎が作詩した「レモン哀歌」を自由曲に選んだ鹿児島は、大所帯ながら一体感のある歌声をホール内に響かせた。部長の高岡未侑さん(3年)は「今まで練習してきたことを出せて楽しかった。やりきりました」とほほえみながら話した。(以下略)

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さらに今月12日には、コンクール全体を特集する全国版の記事でも紹介されました。 

歌う喜びのせて 第71回全日本合唱コンクール全国大会

 第71回全日本合唱コンクール全国大会(全日本合唱連盟、朝日新聞社主催)は、中学校・高校部門が27、28日に長野市のホクト文化ホールであり、その様子が全国31カ所で同時中継されます。また大学職場一般部門は11月24、25日に札幌市の札幌コンサートホールKitaraで開かれます。今回、全国の切符をつかんだ約120団体の中から、4団体の意気込みを紹介します。

■高校B 鹿児島高 互いに信頼「一唱懸鳴」
 合言葉は「天歌統一」「一唱懸鳴」。一人一人の声を一つに合わせて響かせ、頂点を目指す。全国大会出場は実に23年ぶり。顧問の片倉淳教諭(54)は、その原動力について「生徒たちの自主性と信頼関係の深さ」と話す。
 練習スケジュールなどは3年生が中心になり計画。自ら決めた日程やルールを守ることで、自主的に取り組む姿勢と責任感が育まれた。また、音程の悪さなど気づいた点を部員同士が自由に指摘し合う。互いへの信頼に支えられている。
 自由曲は、詩人で彫刻家の高村光太郎の詩に曲がついた「レモン哀歌」。光太郎の智恵子への思いを新鮮なレモンのようにみずみずしく描く。部長の高岡未侑さん(3年)は、「歌いたいのはふたりの悲哀ではなく生の喜び。智恵子を失った悲しみの深さを、確かに生きた喜びで表現したい」と話す。(町田正聡)
 
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西村朗氏作曲「混声合唱とピアノのための組曲「レモン哀歌」」は、平成20年(2008)、大阪のいずみホールで開催された関西合唱団創立60周年記念・第73回定期演奏会で委嘱初演され、翌年には全音楽譜出版社さんから刊行されました。

「千鳥と遊ぶ智恵子」「山麓の二人」「レモン哀歌」の全3曲で、鹿児島高校さんが演奏する終曲「レモン哀歌」は7分にもなる大作です。楽譜冒頭に西村氏による「新鮮なレモンのようにみずみずしく、すっぱく清らかにそして哀切に、ノスタルジックに」という指示が書き込まれています。鹿児島高校さんには、その指示が実現できる演奏を期待します。

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大会日程等は以下の通り。 

2018年度 第71回全日本合唱コンクール全国大会 中学校・高等学校部門

期 日 : 2018年10月27日(土)・28日(日)
会 場 : ホクト文化ホール(長野県県民文化会館)大ホール 長野市若里1丁目1-3
時 間 : 27日(土) 9:45開演(予定)  ◇高等学校部門 A・Bグループ
      28日(日) 9:45開演(予定)  ◇中学校部門 混声合唱の部・同声合唱の部
料 金 : 一般者用入場券 1日 3,600円


さらに今年から、全国各地のイオンシネマさんで、パブリックビューイングが行われるとのこと。会場は北海道、岩手、宮城、福島、群馬、埼玉、千葉、神奈川、東京、長野、愛知、三重、石川、京都、大阪、兵庫、岡山、山口、徳島、香川、愛媛、福岡、熊本の23都道府県の計31カ所。中学校・高校部門とも演奏順に五つの時間帯に分け、各映画館の地元校が出場する時間帯を中心に上映するそうです。

ちなみに、曲目は光太郎智恵子に関わりありませんが、智恵子の故郷・福島二本松の市立二本松第一中学校合唱部さんが、中学校部門 同声合唱の部に出場なさいます。
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このコンクールで、光太郎詩に曲を付けた合唱曲が演奏されるのは、平成27年(2015)以来です。今年に関しては、大学職場一般部門の演奏曲がまだ発表されていませんが、どこかの合唱団さんで取り上げて下さっていることを祈ります。また、来年以降も、ですね。


【折々のことば・光太郎】

埴輪はどれを見ても一律であるが、どれを見ても新鮮で深みのあるものである。単純だから深みがあるのである。武者さんの人間的な美も丁度これに似て、一律さが覗かせる新鮮と深淵の美しさなのである。

談話筆記「埴輪の美と武者小路氏」より 昭和30年(1955) 光太郎73歳

遠く明治末、共に雑誌『白樺』に依り、その後も断続的に彼の主宰する雑誌に寄稿を続けた武者小路実篤への讃辞です。日本古来の美を表象する埴輪との類似点を見いだしています。

「智恵子抄」がらみのコンサート情報です。 

浜離宮ランチタイムコンサートvol.175 小林沙羅ソプラノ・リサイタル

期   日 : 2018年8月30日(木) 
時   間 : 11:00開場  11:30開演
会   場 : 浜離宮朝日ホール 東京都中央区築地5-3-2
出   演 : 小林沙羅(ソプラノ) 澤村祐司(箏) 中村裕美(pf) 見澤太基(尺八)
料   金 : 全席指定¥2,900

曲   目 : 
 山田耕筰(詩・北原白秋):この道、からたちの花
 越谷達之助(詩・石川啄木):初恋
 中田喜直(詩・江間章子):夏の思い出
 山田耕筰(詩・三木露風):赤とんぼ
 澤村祐司(詩・島崎藤村):たれかおもはむ
 中村裕美(詩・中原中也):朝の歌、子守唄よ
 瀧廉太郎(詩・土井晩翠):荒城の月
 宮城道雄(作・詩):浜木綿
 宮城道雄(詩・北原白秋):せきれい
 中村裕美(詩・高村光太郎):「智恵子抄」より 或る夜のこころ、亡き人に(世界初演)

凛とした歌声で魅了する歌姫、小林沙羅が、筝の澤村祐司、作曲家でピアニストの中村裕美,、尺八の見澤太基とともに、日本の歌を届けます。「赤とんぼ」などの郷愁を誘う名曲のほか、澤村や中村が作曲した新しい日本の歌も。若さあふれるアンサンブルをお楽しみください。

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ピアノでご出演の中村裕美さん作曲の「或る夜のこころ」と「亡き人に」が演奏されます。

当方、平成27年(2015)に、晴海の第一生命ホールさんで開催された小林さんの「ライフサイクルコンサート  雄大と行く と行く 昼の音楽さんぽ 第3回 小林沙羅 麗しきソプラノの旅」というコンサートを拝聴いたしました。その際にも「或る夜のこころ」が演奏されましたが、「亡き人に」は初演だそうです。

過日ご紹介した、同じ日に行われる「国立能楽堂8月企画公演《国立能楽堂夏スペシャル 開場35周年記念》」もそうですが、チケットは既に完売とのこと。ただ、キャンセル等があるかもしれません。

この日、8月30日(木)には、なんともう1件、光太郎詩がらみの公演があります(偶然でしょうが)ので、明日はそちらをご紹介します。


【折々のことば・光太郎】

ほんとうに自分の魂をこめた声というものはまるで違う。それはきく者にはすぐひびく。シヤカの声とか、キリストの声とかいうのは恐らくその最上のものだつたのだろう。

散文「話言葉としての日本語」より 昭和31年(1956) 光太郎74歳

話す際の声もそうですが、歌声もそうでしょう。光太郎がらみの公演をよく聴きますが、そう思います。上記の小林さんは「魂をこめた声」を披露して下さることと信じております。

亡くなるおよそ1ヶ月前に書かれた文章の一節。ほぼ絶筆に近い時期です。主眼はラジオ放送に関するものですが、政治家や官僚の「声」がなっていないという苦言。嘆かわしい話ですが、今も昔も変わりませんね。

テレビ放映情報を2件。 

新・BS日本のうた選 神奈川県座間市

NHKBSプレミアム 2018年8月19日(日)  19時30分~20時59分

今回は2016年8月7日に放送した回の再放送です。スペシャルステージは北島三郎&藤あや子▽藤が北島のあの名曲に挑戦!「与作」と民謡のコラボレーションも披露!

「もう一度逢いたい」「味噌汁の詩」「智恵子抄」「私が生まれて育ったところ」「夜空ノムコウ」「他人船」「奥入瀬」「不思議なピーチパイ」「帰らざる日々」「男の背中」。

スペシャルステージは「兄弟仁義」「博多の女」「加賀の女」「函館の女」「矢切の渡し」「長崎の鐘」「夕霧岬」「男の勝負」「与作~秋田草刈唄入り~」。イマオシ!は西方裕之、森昌子、千昌夫、北島三郎&藤あや子。

出演
北島三郎,藤あや子,森昌子,八代亜紀,千昌夫,山本譲二,タイムファイブ,多岐川舞子,西方裕之,増位山太志郎,松川未樹,森恵,川上慎一,田中彰,遠山敦,青木智平,石塚勇,加藤秀和,福本えみほか

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一昨年、やはりBSプレミアムさんで2回放映されたものの再々放送です。

森昌子さんが、昭和39年(1964)、2代目コロムビアローズさんの歌唱でリリースされた「智恵子抄」(丘灯至夫作詞・戸塚三博作曲)をカバー。CD等には入っていないようですが、森さん、この曲を持ち歌にされ、たびたび歌われています。


もう1件。 

校歌を訪ねて「第87回 福島県川内村立 川内中学校」

BS-TBS 2018年8月18日(土)  16時54分~17時00分

誰にでもある小学校や中学校の校歌の思い出。この番組は東日本大震災の被災県を中心に小中学校の校歌を紹介します。

今回ご紹介する学校は福島県川内村立川内中学校。川内村は、大震災の被害はほとんど無かったものの原発に近かったことから、全村避難を余儀なくされました。1年後、帰村は果たしましたが子どもたちの帰村率は少ないのが現状です。子どもたちも川内村に注目を集めようと、現在の中学3年生が小学6年生の時に役場にマラソン大会の開催を提案。現在も「川内の郷にかえるマラソン」として県外にも知られるイベントととなって続いています。そんな川内村で有名なのが、モリアオガエルの繁殖地として、国の天然記念物に指定を受けてる「平伏沼」。そしてそのモリアオガエル目当てにこの村を訪れたのが、カエルの詩人として知られる草野心平。名誉村民になるほど川内村を愛した草野心平が川内中学校の校歌の作詞を担当しました。番組ではそんな草野心平が作詞をした川内中学校の校歌を、全校生徒の斉唱でお届けします。

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当会の祖・草野心平作詞による川内中学校校歌が紹介されます。

この番組では、昨日もご紹介した「いのちの石碑」がらみの宮城県女川町立女川中学校さんの校歌(佐藤成晃作詞)も取り上げられましたし、このブログでは紹介しませんでしたが、平成27年(2015)10月の第一回放映で取り上げられた双葉中学校さんはじめ、心平作詞の校歌もいくつか放映されています。

心平を名誉村民に認定して下さり、今も心平を偲ぶ「天山祭」等を実施して下さっている川内村ということもあり(ちなみに今回は川内中学校さんですが、川内小学校さんの校歌は「智恵子抄」作詞の丘灯至夫氏です)、ぜひご覧下さい。


【折々のことば・光太郎】

気どることもいらないし、自負することもいらないし、自卑することもいらない。ありのままを露呈して自己の全力を尽すのみだ。淘汰はあとで歳月がしてくれる。自己天性の真諦さへ究め得れば、詩人の存在理由は十分にある。一人に極まることは万人に極まることだ。

散文「詩人も一兵である」より 昭和18年(1953) 光太郎61歳

一人に極まることは万人に極まること」は、昭和15年(1940)の随筆「智恵子の半生」中の「一人に極まれば万人に通ずる」と照応します。

とりあえずは「歳月」の「淘汰」を免れている光太郎。今後もその名を永遠に留めるべく、努力していきたいと存じます。

期 日 : 2018年6月29日(金) ※主催者サイトで「2017年」となっていますが誤りです
時 間 : 18:30開演 18:00開場
会 場 : 名古屋市 昭和文化小劇場  名古屋市昭和区花見通1丁目41番地の2
料 金 : 3,000円(全席自由・税込)

プログラム  :

 クレールピアノトリオ Clair Piano Trio
  大上良子<ピアノ>/髙橋弥生<ヴァイオリン>/中西みか<チェロ>
  J.ハイドン:ピアノ三重奏曲 第39番 ト長調 “ジプシー”Hob.XV-25

 西村麻衣子<トリプルオカリナ> ピアノ:伊藤真理子
  A.マルチェルロ:オーボエ協奏曲 ニ短調 より アダージョ
  L.アルディーティ:くちづけ
  N.パガニーニ:ラ・カンパネラ
  G.ディニク:ホラ・スタッカート

 本庄由佳<ソプラノ> ピアノ:加藤詩乃
  W.A.モーツァルト:オペラ「フィガロの結婚」より “美しい思い出はどこへ”
  V.ベッリーニ:オペラ「カプレーティ家とモンテッキ家」より “ああ、幾度か”
  G.ドニゼッティ:オペラ「アンナ・ボレーナ」より “私の生まれたあのお城”

 岩井奈美<メゾ・ソプラノ> ピアノ:比果沙織
  T.ジョルダーニ:カーロ・ミオ・ベン  A.スカルラッティ:陽はすでにガンジス川から
  A.ストラデッラ:教会のアリア
  G.ヴェルディ:哀れな男/オペラ「ドン・カルロ」より “呪わしき美貌”
  なかにしあかね:いつだったか/今日もひとつ/二番目に言いたいこと
  E.クルティス:忘れな草
  R.レオンカヴァッロ:朝の歌  A.ブッチ=ペッツィオ:ロリータ

 野村 朗<作曲> バリトン:森山孝光/ピアノ:森山康子
  歌曲「樹下の二人」(髙村光太郎『智恵子抄』より)

 <クラリネットデュオ>
  上中花寿奈&三摩恵里
  F.プーランク:2本のクラリネットのためのソナタ
  B.H.クルーセル:クラリネット二重奏曲 第3番 ハ長調

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以前から光太郎詩に曲をつけた作品を発表なさっている、名古屋ご在住の作曲家・野村朗氏の「樹下の二人」が演奏されます。

この曲は、昨年、智恵子の故郷・福島二本松で開催された「震災復興応援 智恵子抄とともに~野村朗作品リサイタル~」において、メゾソプラノの星由佳子さん、ピアノで倉本洋子さんによる演奏で初演され、今年3月には東京墨田区のすみだトリフォニーホール さんでの「第29回 21世紀日本歌曲の潮流」で、今回と同じ森山孝光・康子夫妻により演奏されました。

今度は野村氏の地元・名古屋での初披露ということになるかと存じます。

お近くの方、ぜひどうぞ。


【折々のことば・光太郎】

善い夢を見てゐる途中で眼がさめた、その先きが思はれてならないといふ感じである。荻原君は此から製作をする人であつた。荻原君を思ふと、此から先きの製作、まだ人の目に入つて来ない芸術の方が此までに作られたものよりも強く頭を刺激する。

散文「死んだ荻原守衛君」より 明治43年(1910) 光太郎28歳

この年4月、光太郎より4歳年長の荻原守衛は、おそらく静脈瘤の破裂により、数え32歳の生涯を突然閉じました。共に手を携え、この国に新しい彫刻を根付かせようとしていた同志の死に、光太郎は衝撃を隠せません。同じ文章では「その荻原君が死んだ。僕は近ごろ斯んな理不尽な目に逢つた事がない」とも記しています。

昨日は都内杉並区に出て、同区の社会教育センター・セシオン杉並さんで開催された、「音のわコンサート」を拝聴してまいりました。

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社会教育センターといいつつ、ざっと見積もって600席ぐらいの大ホールが完備されており、意外でした。

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「音のわ」コンサート、音楽家の吉田寛子さんという方を中心とした、地域のさまざまな団体さん合同の演奏会、といった体でした。

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第1部、第2部は、合唱系が中心。

第1部の「音楽物語「鹿踊りのはじまり」は、そうだろうなと予想していたのですが、故・長澤勝俊氏作曲による昭和30年(1955)の作品でした。宮沢賢治作の童話「鹿踊りのはじまり」を元にするものです。「鹿踊りのはじまり」は、賢治生前唯一の童話集『注文の多い料理店』(大正13年=1924)に収録されており、光太郎は同書を詩人の黄瀛から借り、さらに親友だった作家の水野葉舟に又貸ししています。同年刊行された賢治のやはり生前唯一の詩集だった『春と修羅』は、当会の祖・草野心平の回想に依れば、光太郎が智恵子と二人で「小岩井農場」などのユーモラスな部分をクスクス笑いながら読んでいたとのことで、「鹿踊りのはじまり」も、もしかしたらそうだったのでは……などと思いつつ拝聴しました。

第2部で、光太郎作詞、吉田さん作曲の「或003る夜のこころ」が演奏されました。今年2月にカワイ出版さんから刊行された楽譜集『吉田寛子作品集 或る夜のこころ』の表題作です。本来、女声三部合唱で作曲されていますが、今回は混声合唱でした。演奏は「CantaMamma & 音のわ合唱部」さん。元々のアルトのパートを、男声が担当していたようです。公刊されたのは今年ですが、吉田さんが学生時代の作曲ということで、「少し」前の作品です。

詩「或る夜のこころ」は、明治から大正に改元された1912年7月の「或る夜」を題材にしたもの(詩の完成は翌月)。前年暮れに知り合った智恵子への抑えがたい思い、しかし、その思いを抑えねば、という自制心のはざまに揺れ動く光太郎の心情が謳われています。明治42年(1909)、欧米留学から帰国した光太郎は、西洋で学んできた最先端の芸術と、旧態依然の日本芸術界のあまりのギャップに立ち往生し、北原白秋や吉井勇らの「パンの会」の狂乱に巻き込まれたり、吉原の娼妓・若太夫や、浅草のカフェよか楼の女給・お梅などの素人ではない女性達に入れあげたりといった、荒れた生活を送っていました。父・光雲との相剋から、彫刻もきちんと作っていませんでした。そんな自分が果たして智恵子を幸せに出来るだろうか、という思いがあったのでしょう。

8月には銚子犬吠埼に絵を描くためしばらく滞在。すると、何と智恵子が追ってきます。それにより、ほぼ光太郎の心は固まったのでしょう。翌大正2年(1913)には婚約、さらに同3年(1914)には、結婚披露(この時点では入籍はせず)と相成ります。

合唱「或る夜のこころ」、そうした光太郎の揺れ動く、しかし抑えがたい智恵子への思い、といったものが、力強く鮮烈に表現されていました。音の厚みも出ますし、光太郎という男性視点の詩ですから、やはり混声合唱でという選択は正解だったと思いました。

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第3部は一転して、吹奏楽系。久々に吹奏楽をきちんと聴きましたが、いいものですね。合唱は当方、自分の趣味で取り組んでいるのでしょっちゅう聴いているのですが、迫力が違います。あとは、合唱はビジュアル的に変化に乏しく見ていて面白くありません(笑)。

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終演後、吉田さんと少しお話をさせていただき、厚かましくもサインを頂いてきました(笑)。

今後とも、吉田さん、そしてお仲間の皆さんのご活躍を祈念いたします。


【折々のことば・光太郎】

所有しないから見ない。見ないから分らない。一般民衆の精神生活と美術とに何の関係もないのが今日の状態である。今日の美術品は一体どうなつて行くのか。多くは金満家の蔵の中に仕舞ひ込まれる運命を科せられてゐる。美術家はもつと一般の人に奉仕したい。一二の人に愛蔵せられるよりも満天下の人と共に創造の悦びを分ちたいのだ。

散文「一彫刻家の要求」より 昭和11年(1936) 光太郎54歳

満天下の人と共に創造の悦びを分ちたい」。美術家に限らず、あらゆるジャンルの芸術家の皆さんは、そうなのでしょう。昨日の「音のわコンサート」を拝聴し、そう感じました。

毎年この時期に福島市で行われている少人数合唱のアンサンブルコンテストです。光太郎詩「あどけない話」の一節から採られ、福島では復興の合い言葉となっている「ほんとうの空」(光太郎詩では「ほんとの空」)の語が、サブタイトルに使われています。 

第11回声楽アンサンブルコンテスト全国大会2018 感動の歌声 響け、ほんとうの空に。

声楽アンサンブルコンテスト全国大会は、音楽を創りあげるもっとも基礎となる要素「アンサンブル」 に焦点をあてた、2名から16名の少人数編成の合唱団によるコンテストです。   
全国の合唱レベルの向上を図るとともに、歌うことの楽しさを福島から全国に発信することを目的として、2008年(平成20年)から開催、今大会で第11回目を迎えました。

平成30年3月22日(木)~25日(日) 福島市音楽堂大ホール 福島県福島市入江町1-1

主 催 福島県 福島県教育委員会 声楽アンサンブルコンテスト全国大会実行委員会

共 催  全日本合唱連盟 全日本合唱連盟東北支部 福島県合唱連盟 福島市 福島市教育委員会

スケジュール
 3月22日(木) 中学校部門
 3月23日(金) 高等学校部門
 3月24日(土) 小学校・ジュニア部門、一般部門
 3月25日(日) 本選

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当初は単なる合唱アンサンブルコンテストでしたが、平成23年(2011)のやはりこの時期に計画されていた第4回大会が東日本大震災によりやむなく中止となり、平成25年(2013)の第6回大会から、震災からの復興を祈念する意味もあって「ほんとうの空」の語がサブタイトルに盛り込まれるようになりました。

合唱王国として名高い地元福島の諸団体をはじめ、全国、そして海外からも出演団体が集まります。

ぜひ足をお運びください。


【折々のことば・光太郎】

箇人箇人の作家の展覧会を早く見て十分に夫々の作家の真面目を楽んで味ふ事のできる日の来るのを待つてゐる。公設展覧会はもう御免だ。

散文「一夕話(文部省展覧会の西洋画及彫刻に就て)」より
明治42年(1909) 光太郎27歳

明治末、欧米では当たり前だった作家の個展というものが、日本では未だに開催されていませんでした。そうした現状を憂いた光太郎は、翌年に神田淡路町に我が国初とも言われる画廊、琅玕洞をオープンさせます。

ちょうど今日は3.11。「阿多多羅山(あたたらやま)の山の上に 毎日出てゐる青い空」(「あどけない話」 昭和3年=1928)を思い浮かべながら書いています。

で、演奏会情報です。

第29回 21世紀日本歌曲の潮流

期 日 : 2018年3月16日(金)
会 場 : すみだトリフォニーホール 小ホール  墨田区錦糸1-2-3
時 間 : 18:30開場 19:00開演
料 金 : 3,500円(全席自由・税込)
申 込 : JILAチケットセンター Tel :03-3356-4140

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曲目
 金藤 豊
   『万葉集 巻十五』 より 「狭野茅上娘子」 《初演》  Ⅰ.あしひきの Ⅱ.君が行く
  アルト:大和久萠  十三絃箏:髙橋澄子
 前田正博
  Vocalise Ⅱ for Mezzo soprano and three Clarinets  メゾ・ソプラノ:星由佳子
  クラリネット橋田はるな 大和真弥 角野由枝
 服部萬里子
  室生犀星の詩による4つの歌曲 《初演》 1.詩の一つ 2.朝の歌 3.我永く都会に住まん 4.雨の詩
  バリトン:中川俊広  ピアノ:新 弥生
 浅井和夫
   現代詩人によせる歌三題 《改訂初演》 1.根 2.紅葉幽玄 3.わかるかい
   バリトン:中川俊広 ピアノ:浦田由里子
 野村 朗
  歌曲「樹下の二人」  詩集『智恵子抄』 より (詩/高村光太郎)
  バリトン:森山孝光  ピアノ:森山康子

 鈴木 聡
  「さざんか」(詩/永井和子) 《初演》
  『宮田滋子の詩による3つの子どものうた』 より 「ボッチャン ぼっちゃん」 「しーっ」
  『秋の空に』(詩/二瓶 徹) より 「綿の実の」 「ほっかりと」
  ソプラノ:砂崎香子  ピアノ:浦田由里子


昨年、智恵子の故郷・福島二本松で開催された「震災復興応援 智恵子抄とともに~野村朗作品リサイタル~」において、メゾソプラノの星由佳子さん、ピアノで倉本洋子さんによる演奏で初演されましたが、今回は以前から野村氏の「連作歌曲 智恵子抄」を演奏されている、バリトンの森山孝光さん、ピアノで森山康子さんご夫妻。ちなみに星さん、他の方の作品でご出演なさいます。

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ぜひ足をお運びください。


【折々のことば・光太郎】

彫刻の写真は人の思ふよりも困難で、大ていは彫刻の真を伝へない。彫刻的立体性が写真レンズのきびしい工学性能で歪められる。一個の彫刻全体から来る彫刻的生命はまづ殆と写真によつては捉へられないやうだ。

散文「夢殿救世観音像」より 昭和27年(1952) 光太郎70歳

光太郎、いったいに写真にはあまり価値を見いだしていませんでした。ただし、部分の拡大写真的なものには意味を見いだしています。鑿の痕跡などからどういう手法が使われているのか、といった点は、現物では見極めがたいというのです。

新刊楽譜を入手しました。

吉田寛子作品集 或る夜のこころ

2018/01/01 カワイ出版 吉田寛子作曲 定価1,400円+税

 ぼくのシャボン玉 【三部合唱】 吉田寛子作詩
 或る夜のこころ『智恵子抄』より 【女声合唱】 高村光太郎作詩
 救いの御子の降誕を 【独唱または二部合唱】 水野源三作詩
 ぼくのシャボン玉 【ピアノ連弾】
 むかし夢見た 【独唱】 ハイネ作詩・井上正蔵訳詩

 バラバラに散らばっていた自分の作品を、いつかまとめて本に出来たら…と思っていました。大学の卒業作品、息子の初めてのピアノ発表会で一緒に弾くために書いた連弾曲、その曲を合唱団の人が「いいね!みんなで歌いたいな!」と言ってくれたおかげで、詩を書き、多くの方が笑顔で歌って下さる曲となったこと、教会の書庫で見つけた詩集に心動かされて出来た曲、…その時々の思いを込めて作った曲が一冊の作品集となり、出版できることとなりました。皆さんに演奏していただけたら嬉しいです。合唱は同声でも混声でもお楽しみ下さい。
(「はじめに」 より)

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光太郎作詩の「或る夜のこころ」(大正元年=1912)に曲を付けた女性三部合唱曲が収録されており、表題作ともなっています。この曲のみ、「神尾寛子」クレジットとなっていますので、「はじめに」の「大学の卒業作品」というのが、これでしょう。

吉田さん、巻末のプロフィールによると、「1982年 国立音楽大学教育音楽学科第Ⅱ類(リトミック専攻)卒業」となっていました。余談になりますが、当方、アマチュア合唱団に所属しており、そちらの指揮者の先生も同科のご出身です。吉田さんより十数年先輩だと思われますが。

閑話休題。「或る夜のこころ」、詩は以下の通りです。

   或る夜のこころ
000
 七月の夜の月は
 見よ、ポプラアの林に熱を病めり
 かすかに漂ふシクラメンの香りは
 言葉なき君が唇にすすり泣けり
 森も、道も、草も、遠き街(ちまた)も
 いはれなきかなしみにもだえて
 ほのかに白き溜息を吐けり
 ならびゆくわかき二人は
 手を取りて黒き土を踏めり
 みえざる魔神はあまき酒を傾け
 地にとどろく終列車のひびきは人の運命をあざわらふに似たり
 魂はしのびやかに痙攣をおこし
 印度更紗の帯はやや汗ばみて
 拝火教徒の忍黙をつづけむとす
 こころよ、こころよ
 わがこころよ、めざめよ
 君がこころよ、めざめよ
 こはなに事を意味するならむ
 断ちがたく、苦しく、のがれまほしく
 又あまく、去りがたく、堪へがたく――
 こころよ、こころよ
 病の床を起き出でよ
 そのアツシシユの仮睡をふりすてよ
 されど眼に見ゆるもの今はみな狂ほしきなり
 七月の夜の月も
 見よ、ポプラアの林に熱を病めり
 やみがたき病よ
 わがこころは温室の草の上
 うつくしき毒蟲の為にさいなまる
 こころよ、こころよ
 ――あはれ何を呼びたまふや
 今は無言の領する夜半なるものを――


大正元年9月の『スバル』第4年第9号に掲載されました。掲載時には「(N-女史に)」の献辞が付けられていました。「N」は智恵子の旧姓「長沼」の「N」に他なりません。

8月18日作となっており、同じ『スバル』第4年第9号には、連翹忌会場である日比谷松本楼さんでの一コマを謳った「」、智恵子に対し「いけない、いけない/静かにしてゐる此の水に手を触れてはいけない/ まして石を投げ込んではいけない」と釘を刺す「おそれ」などがセットで掲載されています。

この月、光太郎は犬吠埼に絵を描くために滞在。智恵子も妹・セキ、友人の藤井勇(ゆう)と共に光太郎を追って犬吠に出かけます。セキと藤井は先に帰り、智恵子のみ残って、最初に泊まっていた御風館から、光太郎が宿泊していた暁鶏館に移るという大胆な行動に出ました。光太郎が帰京したのは9月4日。その際には智恵子も一緒だったかどうかは不明です。この犬吠行きで、二人の心はほぼ固まったようで、光太郎は11月には「わがこころはいま大風(おほかぜ)の如く君にむかへり」で始まる「郊外の人に」を書き上げています。

さて、吉田さんの「或る夜のこころ」。こうした光太郎の魂の躍動を表すように、力強く小気味のいいメロディーライン。途中、3回の転調、3連符や変拍子を多用、光太郎が感極まったことを表すヴォカリーズ(歌詞なしのa母音)やら、主旋律をメゾソプラノやアルトにも配するなどの工夫やら、現代音楽ふうのいかにも学生の卒業制作という感じですが、爽やかな一曲です。

女声合唱団の皆さん、中難度の曲ですが、ぜひレパートリーに加えて下さい。


【折々のことば・光太郎】

ピカソの才無くしてピカソの教を守るもの程路に迷ふものはあるまい。

散文「正と譎と」より 昭和7年(1932) 光太郎50歳

この文章では、ピカソ、ドラン、果ては松尾芭蕉までも引いています。それぞれが長い苦闘の末、王道たる「正」と、一見邪道の「譎(けつ)」とのせめぎ合いの中から、それぞれの作風に達したことを論じました。そうした経緯を持たぬ者が形だけ巨匠の真似をしても仕方がない、ということでしょうか。

ネットでたまたま見つけました。朗読劇の情報です。 

MAIA STARSHIP朗読劇「いやなんです あなたのいってしまふのが −智恵子抄より」

期 日 : 2018年1月15日(月)~1月21日(日)
会 場 : shibuya gallery「Arc」 東京都渋谷区神泉町8-10 メゾン神泉401
時 間 : 1/15(月)19:00 木村・浜田ペア
         1/16(火)19:00 東出・尾崎ペア
         1/17(水)15:00 羽場・仲本ペア 19:00 東出・尾崎ペア
      1/18(木)19:00 木村・浜田ペア
      1/19(金)17:00 羽場・仲本ペア 20:00 藍沢・中川ペア
      1/20(土)12:00 藍沢・中川ペア 15:00 羽場・仲本ペア 19:00 木村・浜田ペア
      1/21(日)13:00 木村・中川ペア 17:00 東出・尾崎ペア
料 金 : 3,000円   <全席自由>
申 込 : 公式サイトから
出 演 : 木村優良 浜田由梨 東出有貴 尾崎礼香 羽場涼介 仲本詩菜 藍沢真伍 中川美樹

高村光太郎が狂いゆく愛する妻を詠った「智恵子抄」 この作品を原作とした二人朗読劇を上演いたします。光太郎と智恵子、二人の出会いから死まで有名な古典作品を現代向きの作風で描きます。
最初から最後まで主演二人きりでの上演、才色兼ね備えた8人の役者の芝居にどうぞご期待下さい!

主催・企画・演出:麻衣阿(MAIA STARSHIP)脚本:SAKURA

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年に数種類、光太郎智恵子の世界を扱って下さる演劇の公演がありますが、若い方々の劇団などでも取り上げて下さいます。時を超えても普遍的な魅力が感じられるということでしょうか。

また近くなりましたらご紹介しますが、来年は、平成25年(2013)に劇団空間エンジンさんが上演された「チエコ」という舞台も再演されるそうです。

ご覧になる方々、それから演じられる皆さんに、さらに深く光太郎智恵子の世界を知っていただくきっかけとなって欲しいものです。


【折々のことば・光太郎】

およそ芸術の中で「塊り」の関係の重要な事、彫塑に如くものは無い。むしろ「塊り」そのものが彫塑なのだから。

散文「自刻木版の魅力」より 大正14年(1925) 光太郎43歳

この頃流行していた新版画(かつての浮世絵のように、絵師、彫師、刷師の分業ではない版画)に関する評論です。それは彫刻に近い立体感をも表現できると、好意的に評しています。

光太郎も駒込林町のアトリエ竣工の通知(明治45年=1912)や、自著詩集『典型』の題字(昭和25年=1950)などで自刻木版を手がけましたが、きちんとした作品として世に問うまではやりませんでした。やはり彫刻を第一と考えていたためでしょう。

このブログでたびたび取り上げております、野村朗氏作曲の「連作歌曲 智恵子抄」が演奏されるコンサートです。 

新井俊稀 クラシカル・サロン・コンサート

期 日 : 2017年12月27日(土)
会 場 : 西宮市甲東ホール 兵庫県西宮市甲東園3丁目2番29号(アプリ甲東 4階)
時 間 : 13時30分開場 14時00分開演
料 金 : 一般3,000円  学生1,000円
出 演 : 光太郎役 新井俊稀(Br) 智恵子役 宮永あやみ 
      ピアノ 
下茂さやか/木下敦子
曲 目 : 野村朗作曲 連作歌曲「智恵子抄」  
      フレデリック・ショパン作曲「幻想曲 ヘ短調 作品49」
      美しい日本の童謡・唱歌・歌曲に寄せて 赤とんぼ・初恋・九十九里浜・落葉松
      他

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新井氏、今年3月にはドイツ・ハイデルブルグで、4月には東京文京区で、それぞれ野村氏作曲の「連作歌曲 智恵子抄」を演奏して下さいました。もともと神戸のご出身だそうで、今回は地元での公演ですね。


さらに、「連作歌曲 智恵子抄」を含む新井氏のCDも発売中です。 

日本の抒情歌 赤い花 白い花

2017年12月1日  新井音楽事務所 シューベルティアーデ倶楽部  定価3,000円(税込み)

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<CD1>新井俊稀 日本の抒情歌
 01.初恋(作詞:石川啄木/作曲:越谷達之助)
 02.落葉松(作詞:野上彰/作曲:小林秀雄)
 03.鐘が鳴ります(作詞:北原白秋/作曲:山田耕筰)
 04.荒城の月(作詞:土井晩翠/作曲:瀧廉太郎)
 05.平城山(作詞:北見志保子/作曲:平井康三郎)
 06.赤とんぼ(作詞:三木露風/作曲:山田耕筰)
 07.朧月夜(作詞:高野辰之/作曲:岡野貞一)
 08.赤い花白い花(作詞/作曲:中林ミエ)
 09.ねむの木の子守歌(作詞:美智子皇后陛下/作曲:山本正美)
 10.さびしいカシの木(作詞:やなせたかし/作曲:木下牧子)
 11.日々草(作詞:星野富弘/作曲:加羽沢美濃)
 12.今日もひとつ(作詞:星野富弘/作曲:なかにしあかね)
 13.おかあさん(作詞/作曲:玉城篤)
 14.津軽のふるさと(作詞/作曲:米山正夫)
 15.青葉城恋唄(作詞:星間船一/作曲:さとう宗幸)
 16.芭蕉布(作詞:吉川安一/作曲:普久原恒勇)
 17.水色のワルツ(作詞:藤浦洸/作曲:高木東六)
 18.はるかな友に(作詞/作曲:磯部俶)
 19.別れの歌(作詞:サトウハチロー/作曲:中田喜直)
 20.めぐり逢い(作詞:荒木一郎/作曲:武満徹)
                                
<CD2>連作歌曲 智恵子抄〜その愛と死と〜
 詩:高村光太郎/作曲:野村朗
 01.千鳥と遊ぶ智恵子
 02.あどけない話
 03.レモン哀歌
 04.間奏曲
 05.案内


2枚組で、2枚目がまるまる「連作歌曲 智恵子抄」です。

ぜひお買い求め下さい。


【折々のことば・光太郎】

花が美しいといふ。しかし人体の不思議な弾力ある圓さが花より美しくないか。天空が美であるといふ。しかし人体の色の微妙さが其に及ばないと思へるか。雲が綺麗だといふ。しかし人の髪の毛の房々が雲より魅力に乏しいと感じられるか。花を描き、天空を画き、雲を写す画家が、人間の裸体を画くに何の不思議もない。

散文「裸体画について」より 大正10年(1921) 光太郎39歳

文章の要旨は、いまだ世間一般に根強かった裸体画への抵抗を諭し、低俗な性的興味を戒めるものです。

本題には関わりませんが、散文であるにもかかわらず、詩のような文体に感じられます。というか、句点で行分けすれば、立派に自由詩として成立するように思われます。平易な口語で巧妙に対句を使いつつ、文末ではまったくの繰り返しを避けて変化を付けるあたり、これぞ美文と思います。

それぞれ、それがメインではありませんが、光太郎智恵子に関する朗読、音楽が含まれる公演系を3件ご紹介します。

まずは、ドイツから朗読系。もう明日ですが、日本時間では明後日くらいですね。

秋の宵の朗読会~日本の詩15篇

期 日 : 2017年10月31日(火・祝)
会 場 : Caffe Martella Friedberger Landstrasse 118, 60316 Frankfurt
時 間 : 17:30~18:30
料 金 : 15ユーロ(ケーキとドリンク1杯込)
申込み : お名前、ご連絡先、イベント名を、メッセンジャーまたは
      メール(
rodoku@gmx.de )で

木々が色づき、日暮れも早まる秋は、人恋しくなったり、ちょっとセンチメンタルになったりする季節ではないでしょうか。そんな時は、美しい言葉もより心に響きやすいかもしれません。
しみじみとした趣のある秋の夕暮れにキャンドルを灯して、日本の詩を味わう……今回の朗読会はそんな企画です。教科書で出会った懐かしい詩、誰もが何となく耳にしたことのある詩を織りまぜて、日本の近現代の詩と詩人たちをご紹介したいと思います。

◆ プログラム◆ 日本の詩(中原中也、高村光太郎、茨木のり子、谷川俊太郎ほか)

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続いて、埼玉から、歌謡曲系。

第14回シャープミュージックフェスティバル

期 日 : 2017年11月5日(日)
会 場 : 熊谷市江南総合文化会館ピピア 埼玉県熊谷市大字千代325-1
時 間 : 開場11:30 開演12:00 終演16:30
料 金 : 無料
主 催 : シャープの会

心からの歌を、声を、聞いてください。この度はシャープミュージックフェスティバルにご興味頂き誠に有り難うございます。シャープの会は、「歌おう!人生はドラマ、声に心と魂を」をテーマに心より唄うことを心がけて日々練習しております。

この度、一年間の練習を積みまして14回目の発表会を開催することに相成りました。出場者一同、練習の成果を十分に発揮し頑張って参りますので、是非ともお越しいただけたら幸いに存じます。

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オープニングフラダンス 小出 淳子先生①恋は花 君はその種子 関口 久江 ②コアリ
1椛嶋健一 おふくろ 2斉藤寿代 糸 3関根宏 きっと帰るさ函館へ 4関口寿子 黒髪 5村田育子 愚かな女 6南雲照子 東京の夜は寂しくて 7石渡直江 恋鏡 8藤本とし江 ハナミズキ 9根岸美津江 千年の古都 10萩原晶子 また君に恋してる 11住谷幸一 心のギター 12黒屋ゆう子 涙そうそう 13三輪佐智恵 ふたりの旅栞 14山田静江 お初 15橋本美枝子 女のあかり 16林れい子 母の暦 17栗原いし子 津軽の春 18佐国一枝 蜩(ひぐらし) 19酒井悦子 流恋草 20渡辺勝江 春待さくら草 21大澤勝重 ありがとう 22昭和の歌コーナー(全12曲 18名)渡辺 勇 [1]西野初枝 河内おとこ節 [2]高田満雄 大利根無情 [3]松崎好子 智恵子抄 [4]関口久江 黒猫のタンゴ [5]中村福房 嫁にこないか [6]川野民江 赤城の子守唄 [7]住谷幸一 勝手にしゃがれ [8]富樫安子 いい日旅立ち [9]小野寺辰男 雨の中の二人 [10]佐山ひろ子 俺ら東京さ行ぐだ [11]丸橋勇 関白宣言 [12]堀江敏子 真赤な太陽
☆ 休 憩 1 0 分 間 ☆
23村上三郎 孤独の太陽 24松本幸江 愛のままで… 25茂木利光 北の出世船 26松本操 お・ん・な 27久保田昇 桜の手紙 28太田千代子 つづれ織り 29野田美智子 人間模様 30小林利行 ルビーの指環 31松崎好子 人形 32中村福房 締黄蝶 33斉藤圭吾 ためらい 34丸橋真寿美 天城越え 35清水博 藤山寛美浪花の華 36日本のうたコーナー K・コンセルト・ギターラ(6名) 歌(5名) ◇わらべうたメドレー K・コンセルト・ギターラ①通りゃんせ②桜③山寺のおしょうさん④どんぐりころころ変奏曲 ◇四季のうた(5名) [1]関口久江 春の小川 [2]富樫安子 夏の思い出 [3]西野初枝 紅葉 [4]黒屋ゆう子 スキー [5]堀江敏子 四季の歌 37井上好子 夫婦花火 38渡辺勇 酒よ 39川野民江 北の駅 40小野寺辰男 時間の花びら 41吉葉弘子 壺坂情話 42高田満雄 忍ぶの乱れ 43関口久江 FOREVER 44宇野博巳 枯葉 45佐山ひろ子 酒は男の子守唄 46須永省三 津軽慕情 47富樫安子 お七 48丸橋勇 化粧 49西野初枝 蛍の提灯 2部 堀江敏子 #心のうた# ◇ギター・コラボ(戸井田 浩・福田 頼子) ☆ノラ・他

おそらく、作詞・丘灯至夫、作曲・戸塚三博、歌・二代目コロムビア・ローズさんの「智恵子抄」(昭和39年=1964)が演奏されるのでしょう。


最後は合唱系で、築地から。 

東京男声合唱フェスティバル

期 日 : 2017年11月12日(日)
会 場 : 浜離宮朝日ホール 東京都中央区築地5-3-2 朝日新聞東京本社・新館2階
時 間 : 10:30~20:57
料 金 : 一般及び大学生 1,000円 高校生及び65歳以上 500円 中学生以下 無料
主 催 : 東京都合唱連盟

略して”男フェス”。東男の集まる熱い一日。連盟加盟や都道府県も問わず、4名以上の男声合唱を楽しむグループであれば性別も問いません。
参加団体の互選により人気投票が行われ、1位になった団体は次年度の大会に招待されます。
また毎年公募による合唱団を組織、著名な先生をお呼びして指揮をしていただき、最後を飾ります。

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全61団体の出演で、30番目の会津高校OB合唱団さん(31名)が、清水脩作曲の「梅酒 -智恵子抄より-」を演奏して下さいます。予定では15:16 ~15:23だそうです。

このところ、全日本合唱連盟さんの全国コンクールで、一昨年までは毎年のようにあった光太郎系の曲が取り上げられていませんので、ありがたいかぎりです。


それぞれお近くの方、ぜひどうぞ。


【折々のことば・光太郎】

歳月人を洗ひ 人ほろびざるは大なるかな

詩「金田一国士頌」より 昭和25年(1950) 光太郎68歳

金田一国士(くにお)は、花巻温泉株式会社の創業者。その他にも花巻電鉄、盛岡銀行、盛岡電気工業、岩手軽便鉄道など、さまざまな企業の経営にあたりました。ところが、盛岡銀行が取り付け騒ぎで倒産するや、背任と業務上横領で起訴され、実刑判決を受け、晩年は淋しく亡くなった人物です。

歿後10年を経て、負の部分はともかく、さまざまな開発の功績をたたえようと、花巻温泉に「金田一国士頌」碑が建てられ、その碑文の頌詩を光太郎が作りました。

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「負の部分もありながら、確かに人々のために尽くした功績も大きい」という意味では、戦時中の翼賛活動、戦後の旧太田村への貢献という光太郎の事績にも相通じるところがあります。光太郎自身、そういう意味ではシンパシーを感じていたのではないでしょうか。

「歳月」に「洗」われても、「大なる」光太郎の事績を「ほろびざる」ものとして、後世に語り継ぎたいものです。

昨日は、テルミン奏者大西ようこさんと、ギターの三谷郁夫さんによるユニット「ぷらイム」さん、ユニット結成10周年記念コンサート「テルミンと語りで紡ぐ愛の物語り 智恵子抄」を拝聴して参りました。

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会場は横浜美術館さん。平成26年(2014)に開催された「ヨコハマトリエンナーレ2014」以来でした。

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来週がハロウィンということで、前庭ではそれにからめた子供さん向けのイベントが行われていました。ハロウィンモードのアンパンマンに遭遇(笑)。

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コンサートが開催される美術館内のレクチャーホールへ。

ちょうどリハ中でした。


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開演は午後3時。その前に、受付で渡されたパンフ、チラシ類に混じって、「ぷらイム10周年智恵子抄クイズ」なる紙が。

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005ロビーに展示されている昭和16年(1941)刊行の『智恵子抄』初版第一刷と、同18年の第十一刷り、それぞれの重さをあててくださいとのこと。最も近い解答の方に、特製マグカッププレゼントだそうで、面白いことを考えるものです(笑)。

のちほど発表された正解は、第一刷が144グラム、第十一刷が257グラムだそうでした。戦時中ということもあり、手に入る用紙の種類がバラバラだったため、このような現象が起きています。特に第一刷は奥付によれば「表紙ハ特漉西ノ内 見返ハ手漉鳥ノ子紙 本文ハ奉書紙生漉」。要するに高級な和紙なのですが、逆に問屋に高級な紙しか残っていなかったというのです。

画像は当方手持ちの第一刷りの奥付です。この本、一昨年、NHKさんで放映された「歴史秘話ヒストリア第207回 ふたりの時よ 永遠に 愛の詩集「智恵子抄」」の際にお貸しし、テレビ出演を果たしました(笑)。

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珍しい、という「愛読者カード」も付いています。これの有る無しで古書価としてはかなり変わるそうで。

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閑話休題。会場もほぼ満席となり、いよいよ開演。

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2部構成で、当初、第一部が、女優の水沢有美さんを交えての『智恵子抄』、第二部がぷらイムのお二人のみの演奏という予定でしたが、逆転し、先にぷらイムのお二人。

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こちらでも、曲間に「智恵子抄」がらみのMCが入りました(そちらの方が演奏時間より長かったような(笑))。肝心の演奏も、相変わらずすばらしいものでしたが。

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003上記は、大西さんの「研究」成果。x軸が光太郎の詩が発表された年、y軸が試作品の発表数。『道程』期の明治末と、戦時中に発表数が多くなり、しかし、『智恵子抄』所収の作品は戦時にはない、という話です。

休憩後、第二部。水沢さんを交えての『智恵子抄』。予想していたよりも「攻め」の演出でした。水沢さんは一ヶ所にとどまらず、ほぼ常に動きながらの語り。演劇に近い動きでした。

三谷さんとの掛け合いもあり、光太郎作品の引用以外のセリフ的な部分もあり、歌あり、ダンス的な動きもあり。語り口も、絶叫や、心を病んだ智恵子の独白などもあって、バリエーションが実に豊かでした。お客さんも食い入るように引き込まれていました。


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終演後のロビー。

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例によって、水沢さんには連翹忌の宣伝をしておきました。

今後とも、光太郎智恵子の世界を広めるのに、一役買っていただきたいものです。


【折々のことば・光太郎】

蝮(クチバミ)がとぐろをまいておれを見る。 それはあんまりきれいな敵意で けだかく、さとく、思慮ぶかく、 どうもおれには手出しができない。
詩「クチバミ」より 昭和25年(1950) 光太郎68歳

「クチバミ」はマムシの古名です。蟄居生活を送っていた花巻郊外太田村の山小屋周辺には、うようよ生息していたということで、珍しいものではなかったようですが、ここにはある種の「畏怖」の感情が見て取れます。マタギ猟師の人々が、山の神への敬虔な気持ちを忘れないような。

千葉と言っても田舎で、里山を背負った当方自宅兼事務所近辺でも、よくマムシやヤマカガシ、ジムグリ、アオダイショウを見かけます。一昨日も愛犬の散歩中にジムグリに遭遇しました。当方は畏怖より恐怖が先に立ちますが(笑)。

地方紙『福島民報』さんで、去る9日に二本松コンサートホールで開催された「智恵子抄とともに~野村朗作品リサイタル~」の様子が報道されました。 

歌曲「智恵子抄」を披露 二本松“古里”での演奏に感謝

 名古屋市の作曲家野村朗(あきら)さん(62)の作品を披露する演奏会「智恵子抄(ちえこしょう)とともに」は9日、二本松市コンサートホールで開かれた。野村さんが闘病しながら作曲した連作歌曲「智恵子抄」(高村光太郎作詞)などの曲が披露され、聴衆を魅了した。
 連作歌曲「智恵子抄」は「千鳥と遊ぶ智恵子」「あどけない話」「レモン哀歌」「間奏曲」「案内」の5つの曲で構成されている。バリトン歌手の森山孝光さんが高村光太郎の妻智恵子(二本松市油井出身)に向けた愛、失った悲しみといった心情を豊かな歌声で表現した。ピアノ奏者の森山康子さんが伴奏した。
 初演の歌曲「樹下の二人」(高村光太郎作詞)ではメゾソプラノ歌手星由佳子さん(南会津町出身)が伸びやかで澄んだ歌声を響かせた。倉本洋子さんがピアノ伴奏した。連作歌曲「智恵子抄巻末の短歌六首より」(高村光太郎作詞)、歌曲「願わくば」(三好達治作詞)なども発表した。
 野村さんは出演者とともにステージに立ち「多くの人の支えで念願だった智恵子の古里・二本松での演奏会が実現した」と感謝の言葉を述べた。
 慢性腎不全で40年以上闘病生活を送る中、詩集「智恵子抄」に出会い、連作歌曲「智恵子抄」を作曲した。智恵子や光太郎を顕彰する二本松市の団体「智恵子のまち夢くらぶ」「智恵子の里レモン会」の協力を得て開催を実現した。
( 2017/10/11 )

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聴衆に感謝の言葉を述べる野村さん(中央)

他紙でも報じられたかも知れませんが、ネットで確認できたのは民報さんだけでした。


ついでに二本松がらみでテレビ放映情報です。 

ミステリー・セレクション・湯けむりバスツアー桜庭さやかの事件簿1 露天風呂に浮かぶ遺体の謎…22年ぶりの兄妹対面で起こった兄殺し 欲望渦巻く故郷で迎えた驚愕の結末とは!!

BS-TBS  2017年10月18日(水)  14時00分~15時55分

高校生の娘と中学生の息子を持つシングルマザー・桜庭さやかは、ベテランバスガイド。しっかり者の子供たちに今日も起こされ、元気いっぱい仕事へと飛び出していく。今回のツアーは、猪苗代湖~安達太良山~会津若松を巡り、山形へと向かう旅。大盛り上がりのサンライズ商店街御一行様を前にさやかの名調子が冴える。ツアー客の中にはフラワーショップを営む佐野雄二と香織の兄妹も参加していた。2人はツアーの途中で22年ぶりに兄・修一に再会できることを楽しみにしていた。しかし、その兄が安達太良山で死体となって発見される。

萬田久子演じる、気は強いが人情に厚いベテランバスガイド・桜庭さやかと、葛山信吾演じる、イケメンなのにヘタレの年下運転手・富田林太郎、この2人の添乗するバスツアーで、ある殺人事件が起こる!
猪突猛進のさやかに富田林は振り回されタジタジになりながらも、2人は事件の核心へと迫る。そうして見えてきたのは、小さな幸せを一生懸命紡いできた人たちが踏みにじられていく悲しみ。そして迎える驚愕の結末・・・。
故郷への思いと、家族の情愛を美しい風景にのせて描く、湯けむり旅情サスペンス。桜庭と富田林との絶妙なコンビネーションにも注目!! どうぞお楽しみ下さい。

出演 萬田久子、葛山信吾、酒井美紀、石橋保、大浦龍宇一、未來貴子、伊藤洋三郎、斉藤暁、徳井優、竜雷太(他)


初回放映は地上波TBSさんで、平成21年(2009)。このシリーズは昨年まで、ほぼ年に1本のペースで続いていました。その第一弾として放映されたのが本作です。

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基本、磐梯熱海温泉さんでのロケが中心でしたが、発端となった事件の現場が安達太良山という設定で、冒頭部分、萬田さん演じるバスガイド・桜庭さやかにより「智恵子抄」「ほんとの空」の説明が為されています。

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先頃ご紹介した<BSフジサスペンス劇場>『浅見光彦シリーズ22 首の女殺人事件』同様、こちらもBS放送で毎年のように再放送されています。

ぜひご覧下さい。


【折々のことば・光太郎】

物そのものは皆うつくしく あへて中間の思念を要せぬ。 美は物に密着し、 心は造型の一義に住する。

詩「月にぬれた手」より 昭和24年(1949) 光太郎67歳

花巻郊外旧太田村での蟄居生活、その絶対的孤独の中でたどり着いた境地が、万物に美を見いだすというものでした。東京にいた頃から、街頭の落葉にも美がある、的な捉え方はしていましたが、圧倒的な大自然に包まれての暮らしの中で、その思いは揺るぎないものとして実感せられたのです。

そしてその美を自らの手で再現する「造型」の意義も。しかし、かつての戦争協力に対する自らへの罰として、彫刻制作は封印中。その封印を解くまであと三年あまりです。

昨日、またしても智恵子の故郷・福島二本松に行っておりました。この2ヶ月で4度目、今月に入っても3度目です。

昨日は、市内亀谷の二本松市コンサートホールで開催された「震災復興応援 智恵子抄とともに~野村朗作品リサイタル~」を拝聴して参りました。

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名古屋ご在住の作曲家で、光太郎詩歌にオリジナルの曲を付けて発表されている野村朗氏、連翹忌ご常連です。そういうわけで、当会も後援として名を連ねさせていただきました。

作曲のきっかけとなった一つが、東日本大震災だそうで、原発事故後、福島の皆さんがどんな思いで「ほんとの空」を見つめてらっしゃるのか、と、そういう思いがおありだったとのこと。そして、「いつか智恵子の故郷二本松で演奏会を開きたい」という願いとなり、今回のコンサートが実現しました。

演奏は、まず初演の時から演奏に当たられている、森山孝光氏(Br)、康子さん(Pf)ご夫妻。昨年の第60回連翹忌でも演奏をお願いいたしました。当方、名古屋や東京での演奏会に何度か足を運びましたので、すっかり顔なじみとなりました。

画像はリハーサルの様子から。

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もう一組、星由佳子さん(Mez)、倉本洋子さん(Pf)。

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星さんは南会津のご出身だそうで、ご両親や関係の方々が多数ご来場下さっていました。また、驚いたことにやはり連翹忌、そして女川光太郎祭ご常連のオペラ歌手・本宮寛子さんに師事されたとのことでした。

プログラム前半は、三好達治、北原白秋の詩に曲を付けた歌曲や、「発表を前提とせず書きためた」というピアノ曲、野村氏ご自身の作詞による歌曲。

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後半が「智恵子抄」系でした。

まず、歌曲「智恵子抄巻末の短歌六首」より抜粋で3曲。昭和9年(1934)、九十九里浜で療養生活を送っていた智恵子を詠んだ「智恵子、尾長のともがらとなる」。思い出深い駒込林町のアトリエでの「智恵子の息吹みちてのこり…」「ここに住みにき」。演奏は森山夫妻でした。

続いて、星さん、倉本さんにバトンタッチし、「樹下の二人」。この演奏会のために書き下ろされた、本邦初演だそうです。そういうわけで、当方もこちらは初めて聴きましたが、力作でした。前後の曲が、やはりどうしても悲劇的な要素を持たせた作であるのに対し、これは光太郎智恵子双方が心身共に比較的健康で、幸福だったころの詩を題材としており、徹頭徹尾、明るく伸びやかな曲調でした。星さんの張りのある澄んだ歌声が、安達太良山や阿武隈川、二本松の広々としたパノラマの地理と、光太郎智恵子の愛の世界を存分に表現していました。

最後に、再び森山夫妻で連作歌曲「智恵子抄」。「千鳥と遊ぶ智恵子」「あどけない話」「レモン哀歌」、そして時間の経過を表すというピアノソロの「間奏曲」、終末は戦後の花巻郊外太田村山口での「案内」。ドラマチックな構成と、ご夫妻の力強く、かつ繊細な表現に、観客の皆さんも魅了されていました。

観客、といえば、このホール、キャパは206席のこぢんまりとしたところで、それでも「お客さん入るのかな」と心配しておりましたが、案に相違して、超満席でした。共催に入った智恵子のまち夢くらぶさん、後援の智恵子の里レモン会さんなどの宣伝が功を奏したようでした。

花巻郊外旧太田村で、生前の光太郎をご存じの浅沼隆さん、いわき市立草野心平記念文学館の小野浩氏、太平洋美術会・高村光太郎研究会の坂本富江さん、テルミン奏者の大西ようこさん(お隣に座らせていただきました)、そして二本松観光大使にして女優の一色采子さんなど、連翹忌ご常連の方々もいらしていました。

終演後に花束贈呈。

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ホワイエで。

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野村氏の感心させられるところは、一回やって終わり、でなく継続して取り組まれているところ。氏の「智恵子抄」系が曲目に入った演奏会、今年はドイツでも披露されましたし、今後も続きます。また近くなりましたらご紹介いたします。


【折々のことば・光太郎】

山の少女は山を恋ふ。

      詩「山の少女」より 昭和24年(1949) 光太郎67歳

現題は「鎌を持つ少女」。花巻郊外旧太田村の山小屋近くに住み、農作業にいそしんだり、栗やキノコ、アケビややまなしなどを採る「りすのやう」な少女を題材にしています。

モデルは、高橋愛子さんという説が有力です。上記の浅沼隆さん同様、生前の光太郎の語り部としてご活躍中。

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画像は昨年放映された、テレビ岩手さんの情報番組「5きげんテレビ」から。

浅沼さんもご出演なさっていました。

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光太郎、もしかすると愛子さんの姿に、終生安達太良山を恋い続けた智恵子の姿を重ね合わせていたかもしれません。

このブログにたびたびご登場いただいている、テルミン奏者大西ようこさんと、ギターの三谷郁夫さんによるユニット「ぷらイム」さんのコンサートです。ユニット結成10周年記念公演だそうです。 

テルミンと語りで紡ぐ愛の物語り 智恵子抄

期日 : 2017年10月28日(土)
会場 : 横浜美術館レクチャーホール 神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
時間 : 15時開演(14時半開場)
料金 : 前売 3,000円 当日 3,500円 小学生以下 1,500円  障がい者・介助者ペア 5,000円
出演 : ぷらイム(テルミン 大西ようこ/ギター・歌・その他 三谷郁夫)
     ゲスト 水沢有美(朗読)
   
問い合わせ : 浜野クリエイト(大西) theremin@art.nifty.jp

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高村光太郎は、最初から『智惠子抄』という詩集を編もうと思って智惠子を詩に詠んだのではありません。
折に触れて綴ってきた智惠子に関する詩から、智惠子の死後、取捨選択した、いわば寄せ集めの詩集です。

なので、智惠子という女性の人生を語り、光太郎という漢の人生を語るのには・・・・言葉が足りない。
光太郎の本業が彫刻家である事を知る人はいても、智惠子が、当時としては珍しい女流画家を目指していた事を知る人は、少ない。

そこをあえて!
本公演では、100%『智惠子抄』のみから抜き出した言葉で立体的に構成。
太平洋戦争開戦4ヶ月前に出版された『智恵子抄』を、今の世に、新たに、見直します。

■朗読(予定):
「人に」「人類の泉」「樹下の二人」 「あなたはだんだんきれいになる」 「あどけない話」「風にのる智惠子」 「千鳥と遊ぶ智惠子」「レモン哀歌」 「荒涼たる帰宅」「亡き人に」 「智惠子の半生」

■演奏曲(予定)
「智惠子抄」より(清道洋一)  「三つの情景」より(田中修一)  「夢想」(ドビュッシー)  「別れの曲」(ショパン)  「トロイメライ」(シューマン) 他


第一部が女優の水沢有美さんをゲストに迎え、テルミンと朗読で、「智恵子抄」の世界を演出されるそうで、楽しみです。三谷さんが登場されて「ぷらイム」さんとしては、第二部になるようです。

開演10分前にはクイズコーナーとのこと。「クイズに答えて、ぷらイム10周年記念グッズをもらっちゃおう!」だそうです。

ぜひ足をお運びください。


【折々のことば・光太郎】

雪の頃からかかつてゐる詩が 桜が散つてもまだ出来ない。 この悪婦につかまつて おれは一歩も前進できない。

詩「悪婦」より 昭和24年(1949) 光太郎67歳

具体的にどの詩を指すのか、それが完成したかどうかもわかりませんが、「悪婦」に例えられた構想している詩が、なかなか出来ない、という詩です。

さらさらっと謳いあげているようにみえる光太郎の詩ですが、実は綿密に考え、推敲もとことん行っていたことが、遺された詩稿から垣間見えます。この詩にしても、武者小路実篤主宰の雑誌『心』に発表したあと、詩集『典型』(昭和25年=1950)に収録する際、改訂が施されています。

昨日に引き続き、智恵子の故郷・福島二本松での情報です。このブログでたびたび取り上げさせていただいている、作曲家・野村朗氏の作品が演奏されるコンサートです。

震災復興応援 智恵子抄とともに~野村朗作品リサイタル~

期   日 : 2016年10月9日(月・祝)
会   場 : 二本松市コンサートホール  福島県二本松市亀谷1-5-1
時   間 : 13:30開場  14:00開演 
料   金 : 2,000円 全席自由
申   込 : 090-6586-8337 野村
出   演 : 森山孝光(Br) 星由佳子(Sp) 森山康子(Pf) 倉本洋子(Pf)

プログラム
 歌曲 願わくば (詩・三好達治)
 「音楽の花束」~ピアノのための~
 歌曲 片恋 (詩・北原白秋)
 歌曲 すずしきうなじ (詩・三好達治)
 歌曲 春のあはれ (詩・三好達治)
 歌曲 桔梗 (詩・野村朗)
 連作歌曲 「智恵子抄巻末の短歌六首」より (詩・高村光太郎)
   第3曲 智恵子、尾長のともがらとなる  第5曲 智恵子の息吹みちてのこり…  
   第6曲 ここに住みにき
 歌曲 樹下の二人 (詩・高村光太郎) 新作初演
 連作歌曲 「智恵子抄」 (詩・高村光太郎)
   第1曲 千鳥と遊ぶ智恵子  第2曲 あどけない話  第3曲 レモン哀歌
   第4曲 間奏曲  第5曲 案内
 ※ 曲目を一部変更する場合があります

 今から6年ほど前、学校法人同朋学園本務事務局職員として任された大きなプロジェクトに失敗し、本当に行き場がないほど苦しかった時、髙村光太郎の詩集「智恵子抄」が、と言うよりも髙村光太郎と愛妻智恵子との生死を超越した愛の姿が、私を救ってくれました。
 光太郎は愛する智恵子を二度、失います。一度目は「統合失調症」で彼女の魂を見失い、次に結核でそのいのちを喪いました。その後、自己の戦争犯罪への自己批判も込めて、岩手は花巻の郊外の山中に、約7年間隠棲生活を送ります。「彫刻」を絶ち、たった一人で、しかし「心に智恵子を住まわせて」の隠棲でした。当時の郵便配達夫の証言で、光太郎自身が「見晴らし」と名付けた高台にて愛する智恵子の名前を呼ぶ光太郎の姿が語られています。
 「智恵さーん、智恵さーん」...

 私は、この晩年の髙村光太郎をこよなく愛し、何よりもその姿を表現したく、連作歌曲「智恵子抄」を作曲しました。
 この作品は名古屋市内、岐阜市、碧南市、東京都、神戸市等で何度も再演され、全日本作曲家コンクール歌曲部門でも3度の入賞を果たしました。今年の3月には、若い邦人留学生等の皆さんにより、ドイツはハイデルベルク市のヤコブ教会にて、世界初演を果たして頂きました。
 けれども、最初の「千鳥と遊ぶ智恵子」の最初の一音を書いたころから、「いつか、智恵子の故郷、二本松市の皆さんに聴いて頂きたい」と夢見ていました。ですから、今回の演奏会はその「夢」の実現なのです。
 最初は手の届かない夢であったものが、地元の「智恵子のまち夢くらぶ」の熊谷健一さん、「智恵子の里レモン忌」の渡辺秀雄さん、「東京二本松会」の安斎盛夫さん、髙村光太郎ご命日の集まり「連翹忌」の皆さん、二本松市出身者を中心とした「榛の忌」の皆さまなど、多くの関係の皆さまとお友達になり、お付き合いを深めていく中で、「夢」は、やがて「具体的な希望」へ、そして「実現」へと、形を変えてまいりました。
 今回、智恵子の故郷、二本松市の皆さまに拙作を聴いて頂く「恩返し」のような気持ちで、髙村光太郎の詩集「智恵子抄」から、絶唱「樹下の二人」を選んで、歌曲「樹下の二人」を作曲。今回の演奏会にて、本邦初演させて頂きます。深い感謝と慈愛を込めて作曲致しました。
 どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

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お近くの方、ぜひどうぞ。


【折々のことば・光太郎】

雪をかぶつた岩手山の肩が見える。 少し斜めに分厚くかしいで これはまるで南部人種の胴体(トルソオ)だ。 君らの魂君らの肉体君らの性根が、 男でもあり女でもあり、 雪をかぶつてあそこに居る。 あれこそ君らの実体だ。
詩「岩手山の肩」より 昭和22年(1947) 光太郎65歳

地方紙『新岩手日報』の翌年元旦号に寄せた詩です。岩手県民のソウルマウンテン、岩手山。光太郎、おそらくこの詩を書きながら、智恵子における安達太良山を想起していたと思います。

この詩の直筆詩稿が、盛岡市の盛岡てがみ館さんで常設展示されています。

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昨日にひきつづき、光太郎詩を取り上げて下さる朗読系、というか、音楽がメインです。

松本律子 × 高木リィラコラボレーション・ライブ "Live Now"

期     日 : 2017年6月23日(金)
時     間 : 18:30 スタート (18:00 オープン )
会     場 : 221ホール 広島市佐伯区五日市中央2-2-1 ライフワンビル2階
料     金 : 前売り ¥2,500  当日 ¥3,000   高校生以下割引あり
問い合わせ : leela@megami-net.com(リィラ音楽教室)

マリンバ界の最先端を突き進む松本律子と、オンリーワンの音楽世界を構築する高木リィラによる、夢のコラボレーション・ライブがついに実現!

プログラム(予定)
マリンバ、ロータス・タンバリン、キム(タイの伝統楽器)、ガンクドラムmini2、電子音など、多彩な楽器をクロスオーバーした新感覚の演奏会です!
「智恵子抄」・・・高村光太郎の妻智恵子への愛を綴った詩からインスピレーションを受け、松本律子が創作中のマリンバ・オリジナル曲と詩の朗読。
武満徹の「小さな空」(松本アレンジ版)。「童神〜天の子守唄〜」。松本アレンジの季節のうたメドレーetc.・・・。

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松本律子さん。今月21日には、相模原で、朗読家の中村雅子さんとのコラボ「森のコンサート マリンバの響き ~智恵子抄の世界~」の公演をなさいました。松本さんのブログにその際のレポートが。

今回は、広島で活動されているミュージシャンの高木リィラさんとのコラボで、「電子音の「無機」と、アコースティック楽器の「有機」を融合させた、新たな地平の音楽を目指します。」だそうです(ただ、若干気になるのは、高木さんのブログで「全編、オリジナルのディープなプログラムに変更しました!」)とありますが……。


とりあえずご紹介しておきます。


【折々のことば・光太郎】



その詩は手きびしいが妙に親しい。 その詩は不思議に手に取れさうだ。 その詩は気がつくと歩道の石甃(いしだたみ)にも書いてある。

詩「その詩」より 昭和3年(1928) 光太郎46歳

詩「その詩」。18行からなる詩ですが、結局3行
ずつにわけて全文を紹介させていただきました。光太郎の考えていた詩の方法論が端的に、しかし、象徴や比喩を多用しつつ、あくまで詩として示されています。
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 その詩をよむと詩が書きたくなる。
 その詩をよむとダイナモが唸り出す。
 その詩は結局その詩の通りだ。
 その詩は高度の原(げん)の無限の変化だ。
 その詩は雑然と並んでもゐる。
 その詩は矛盾撞着支離滅裂でもある。
 その詩は奥の動きに貫かれてゐる。
 その詩は清算以前の展開である。
 その詩は気まぐれ無しの必至である。
 その詩は生理的の機構を持つ。
 その詩は滃然と空間を押し流れる。
 その詩は転落し天上し壊滅し又蘇る。
 その詩は姿を破り姿を孕む。
 その詩は電子の反撥親和だ。
 その詩は眼前咫尺に生きる。
 その詩は手きびしいが妙に親しい。
 その詩は不思議に手に取れさうだ。
 その詩は気がつくと歩道の石甃(いしだたみ)にも書いてある。

光太郎詩の中では、それほど有名な作品ではありませんが、もっと取り上げられていいものだと思います。

神奈川相模原から、コンサート情報です。開催は明後日ですが、気づくのが遅れてしまいました。すみません。 

森のコンサート マリンバの響き ~智恵子抄の世界~

日  時 : 2017年5月21日(日) 13:00~15:00001
会  場 : 津久井湖城山公園 森のステージ
         (雨天時研修棟)
        神奈川県相模原市緑区 根小屋162
料  金 : 無料
申し込み : 不要
出  演 : 松本律子(マリンバ)
       中村雅子(朗読)

中村雅子さん(朗読)とのコラボーレート作品『智恵子抄の世界』を上演致します。

詩人・彫刻家、高村光太郎の詩集『智恵子抄』は、妻の智恵子との結婚する以前(1911年)から彼女の死後(1941年)の30年間にわたって書かれ詩集。結婚生活、智恵子の狂気、そして永遠の別れ……妻、智恵子との間にかわされた深い愛の詩をマリンバの音楽にのせてお届けいたします。

問い合わせ
  津久井湖城山公園パークセンター 【電話】042・780・2420


マリンバ奏者の松本律子さん。「今年のテーマに智恵子抄を取り上げている」そうで、3月にも福島喜多方で、「チャリティーコンサート マリンバの響き ~智恵子抄の世界~」を開催して下さっていました。この時は終わってから気づいて、ご紹介できませんでした。

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その際、そして今回も、朗読家の中村雅子さんとのコラボ。

当方、平成26年(2014)に、中村さんもご出演された「東日本大震災復興支援チャリティ朗読会 届けよう笑顔!~東北に初夏の風~レジェンド・太宰治」を拝聴しました。その際のレポートがこちら


松本さん、さらに、来月は広島で、やはり「智恵子抄」がらみの「松本律子 × 高木リィラコラボレーション・ライブ "Live Now" 」をされるとのこと。こちらはまた後ほどご紹介します。


【折々のことば・光太郎】

一人づつが眼をあかないで、 何の全体。 おれは下からゆく。

詩「夏書十題 一人づつが」全文 昭和3年(1928) 光太郎46歳

こう言っていた光太郎でさえ、智恵子歿後はその精神の空白を埋めるように、そして、世の中と交わらない孤高の生活を送っていたことが智恵子の心の病を引き起こした、という反省から(そんな生活を続けていたら自分も心を病むと思ったのでしょうか)、積極的に大政翼賛に転じます。

「共謀罪」の趣旨を盛りこんだ組織的犯罪処罰法改正案が、今日、強行採決される見通しだそうです。「歴史は繰り返す」なのでしょうか……。

今日行われる合唱の演奏会です。情報を得たのが昨日でして、ご紹介が遅れました。

先日もご紹介した鈴木憲夫氏作曲の「レモン哀歌」がプログラムに入っており、鈴木氏ご本人もゲスト出演されるそうで、これは紹介せざるを得ません。

鈴木憲夫の世界2~女声合唱の響宴

期   日 : 2017年5月13日(土)
場   所 : 京都コンサートホール 大ホール 京都市左京区下鴨半木町1番地の26
時   間 : 開場 13:00  開演14:00
出   演 : アベリア クリスタルエコーズ 女声コーラス コール・リーベン
        
女声コーラス ベルヴォア 女声コーラス ラ・コール 
        女声コーラス みちくさ  
女声コーラス 向日葵 沙羅の木合唱団
        女声コーラス アコルト
指   揮 : 箸尾哲男 田末勝志
ピ ア ノ : 小澤まり子 木下亜子 鈴木華重子 寺本佳世子 和田蕗子
ゲ ス ト : 鈴木憲夫  
料   金 : 1,500円 全席自由
問い合わせ : 090-6063-4132 (中島理恵)
プログラム : レモン哀歌 永訣の朝 地球ばんざい 地球に寄り添って 想い出(合同演奏)

2013年11月に行われた「鈴木憲夫の世界」の第2回コンサートです。
2013年のコンサートでは、混声合唱、女声合唱、少年少女の合唱など様々な合唱団が出演しましたが、今回は女声合唱団のみの演奏となっています。
9つの女声合唱団が、初期作品「永訣の朝」から「レモン哀歌」まで、「鈴木憲夫の世界」をうたいます。
鈴木憲夫氏も、ゲストとして参加されます。

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鈴木憲夫氏の「レモン哀歌」、いい曲ですのでじわじわと広まっているということでしょう。以前にも書きましたが、女声版、混声版があります。難易度的には難しすぎず、優しすぎず、メロディーラインの美しい曲です。全国の合唱団の皆さん、ぜひ取り上げて下さい。


【折々のことば・光太郎】

底がぬけるといふ事は そんなにやさしいことではない。 だが又そんなにやさしい事かも知れない。

詩「夏書十題 底」より 昭和3年(1928) 光太郎46歳

ここでの「底がぬける」は、「すべてをかなぐり捨てて、思い切った行動をとる」とでもいったような意味合いでしょうか。たしかになかなか難しいことですが、その気になりさえすれば、存外たやすいし、やってみたら非常によかった、なぜもっと早くやらなかったんだろうと感じる、という面もあるかも知れません。

そんなにやさしい事かも知れない」という奇妙な日本語の使用も、ある意味、「底がぬけ」た一例のような気がします。いくら対句とはいえ、語格に敏感だった光太郎、通常はこんな破格の用法は使いません。しかし、あえてそう表現してみると、これはこれで効果的だな……みたいな。

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