毎年この時期に行われる、古書業界最大の市(いち)、七夕古書大入札会。先週、出品目録が届きました。ネット上でも見られるようになっています。
毎年光太郎に関する出品物が何かしらあり、中には筑摩書房さんの『高村光太郎全集』未収録の資料等が出る年もあって、目が離せません。
今年の目録で、光太郎がらみは以下の通り。
まず出版物としてベルギーの詩人エミール・ヴェルハーレンの訳書『天上の炎』(大正14年=1925)。
書籍自体はそれほどの稀覯本というわけではありませんが、見返しに光太郎の署名が入っています。函も欠損していません。
肉筆類が5点。出品番号順に最初が「高村光太郎草稿」。昨年も同じものが出ましたが、大正15年(1926)の第二期『明星』に発表された「滑稽詩」です。
草稿がもう1点。「高村光太郎草稿 無題」となっていますが、昭和16年(1941)の『ヴァレリイ全集』内容見本のための短文です。
続いて、大量の資料が一括で、「高村光太郎署名本・書簡・葉書他」。北海道の詩人、更科源蔵に宛てた封書が9通、葉書57枚、写真が3葉、戦時中から歿後すぐの著書10冊です。
更科に宛てた書簡類は、『高村光太郎全集』に既に130通近く掲載されていますが、それに含まれるものなのか、あるいはそれと別のものなのか、よく調べてみないと何とも言えません。
書簡類の一括出品でもう1件。詩人で編集者の井上康文と、やはり詩人だった妻の淑子にあてた4通。
こちらは完全に未知のものが含まれています。
最後に色紙。以前から都内の古書店さんが在庫としてお持ちだったものです。
おそらく智恵子を詠んだと思われる短歌「北国の女人はまれにうつくしき歌をきかせぬものゝ蔭より」。昭和5年(1930)頃の筆跡と推定されます。
その他、昨年もそうでしたが、文学者からの書簡一括的な出品物に光太郎のものが含まれている場合があり、注意が必要です。
出品物全点を手に取って見ることができる下見展観が、7月6日(金)午前10時〜午後6時、7月7日(土)午前10時〜午後4時に行われます。会場は神田神保町の東京古書会館さん。当方は初日に行って参ります。
皆様も是非どうぞ。
【折々のことば・光太郎】
当事者にとつては自明の事柄のやうに思はれることでも、これを手にする第三者にとつてはそのいはれを知りたいと思ふのも自然である。
散文「「日伊文化研究」書評」より 昭和15年(1940) 光太郎58歳
どこまでその背景などを説明するか、大事な問題ですね。
当方も時々頼まれる雑文や講演・講座、それからこのブログでもそうですが、悩むところです。