智恵子の故郷、福島二本松に伝わる鬼婆伝説。能「黒塚」の原作となり、広く知られています。

舞台となった場所は、二本松市北部の安達ヶ原。現在は「安達ヶ原ふるさと村」という施設が出来、隣接する観世寺さんには、鬼婆が住んでいたという岩屋や、少し離れた場所には鬼婆の墓といわれる「黒塚」も残っています。

大正9年(1920)、智恵子の父・長沼今朝吉の三回忌法要のため、光太郎も智恵子の実家を訪れ、先に帰省していた智恵子と合流しました。この際に実家附近を二人で歩き回り、その体験が、詩「樹下の二人」(大正12年=1923)のモチーフとなったようです。歩いた場所は、智恵子実家の裏山や、安達ヶ原。「樹下の二人」には詩本体の前に「みちのくの安達が原の二本松松の根かたに人立てる見ゆ」という短歌一首が附されています。また、最晩年の「高村光太郎聞き書」には、当会顧問だった故・北川太一先生の「「樹下の二人」も『明星』ですね。その頃のことをうかがいたいのですが」という問いに対し、「「樹下の二人」の前にある歌は安達原公園で作ったんです。僕が遠くに居て智恵子が木の下に居た。」と答えています。光太郎智恵子が安達ヶ原を訪れたのは間違いありません。

光太郎、その折にでも、鬼婆伝説のことを聞いたのかもしれません。あるいは既に能「黒塚」を知っていて、予備知識があったとも考えられます。のちに智恵子の心の病が昂進してからの詩「山麓の二人」(昭和13年=1938)では、「意識を襲ふ宿命の鬼にさらはれて/のがれる途無き魂との別離」と、唐突に「鬼」の語が現れますが、あるいは安達ヶ原の鬼婆が頭をかすめたのではないでしょうか。

さて、鬼婆関連。

まずはテレビ放映の情報です。

にっぽんの芸能「人、鬼と成る〜舞踊“安達ケ原”〜」

NHK Eテレ 2021年4月23日(金) 21:00~21:55
再放送   2021年4月26日(月) 12:00~12:55

福島県・二本松市、安達ケ原に伝わる鬼女の伝説を舞踊にした作品「安達ケ原」を、3月に行われた特別日本舞踊公演からお送りします。出演は花柳寿楽、若柳壽延、猿若清三郎ほか。シテ(老婆実は鬼女)を演じた花柳寿楽のインタビューを交えてお楽しみいただきます。歌詞や演出は能「黒塚」から取られており、振り付けは二世花柳壽楽。前半は改心を見せている鬼の姿をしっとりと、後半は怒りに満ちた様子を描いた、舞踊の大作です。

【司会】高橋英樹,【アナウンサー】中條誠子,
【出演】花柳寿楽,若柳壽延,猿若清三郎,杵屋勝四郎,杵屋巳之助,杵屋勝四助,
    杵屋栄八郎,松永忠一郎,杵屋勝十朗,福原百七,堅田新十郎,堅田喜三郎,
    住田長十郎
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物語の舞台としての二本松の紹介の中で、光太郎智恵子に触れていただければありがたいのですが……。

舞踊で「安達ヶ原」といえば、一昨年には、「にほんまつart fes」というイベントの一環で、親しくさせていただいている女優の一色采子さん(お父さまが二本松ご出身で智恵子の絵も複数描かれている故・大山忠作画伯)と、福島市出身の舞踊家・二瓶野枝さんによるコンテンポラリーダンス「妖艶 Bewitching」の公演があったりもしました。この際は、当方、これを観に行く途中で愛車が故障、泣く泣く引き返し、後に報道で様子を知った次第です。

また、平成28年(2016)には、現代アートの「福島ビエンナーレ」の一環として、智恵子生家を会場に、小松美羽さんによるインスタレーションが行われ、やはり鬼婆伝説がモチーフとされました。

平成30年(2018)には、二本松で公開収録されたNHKさんの「民謡魂 ふるさとの唄」で、「あまちゃん」や「八重の桜」、「いだてん」などにもご出演された大方斐紗子さんが鬼婆役でご出演。ただし、この鬼婆は智恵子と光太郎の仲を取り持とうとする、いい鬼婆(笑)でした。
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さて、「にっぽんの芸能」、ぜひご覧下さい。

さて、やはり鬼婆がらみの別件、地方紙『福島民友』さんから。

怖くて...うまい!「おにばばソフト」 「酪王いちごオレパフェ」も

007 二本松市振興公社は今月から、二本松市の安達ケ原ふるさと村と道の駅安達「智恵子の里」下り線で、独自商品の「酪王いちごオレ」ソフトクリームをベースにした新スイーツを発売した。
 ふるさと村は、「安達ケ原の鬼婆」伝説をモチーフにしたオリジナル商品開発の第3弾となる「おにばばソフト」(600円)。「怖くて...うまい!」をキャッチフレーズに、出刃包丁や骨の形をしたクッキーをトッピングし、血をイメージしたいちごソースを使った。食事処のよってっ亭で販売している。
 道の駅では、いちごオレのパフェを考案した。酪王いちごオレソフトに、カラフルな色合いのあられの一種「おいり」をトッピングし、かわいらしいスイーツに仕上げた。あられの食感がおいしさを引き立てる。道ナカ食堂で400円で販売している。
 同公社は「同じソフトクリームをベースにする商品のギャップを楽しんでもらいたい」としている。

同じ件、福島テレビさんでも報じられていました。

恐怖を覚えるおいしさ!?鬼婆伝説の地・安達ケ原に誕生したソフトクリーム

二本松市振興公社・吉清水朋子さん:「安達ヶ原の鬼婆は、この土地ではとても有名で、この鬼婆伝説を皆さんに知って頂きたいと」
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福島県二本松市の『安達ヶ原ふるさと村』
この地に伝わる鬼婆伝説をPRし、コロナ禍で減少した観光客を呼び戻そうと令和2年8月8日に、「オニババプロジェクト」が立ち上がった。
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鬼婆のリアルさ怖さを、ありのまま売り出していこうというプロジェクトで、第1弾は、トートバッグや缶バッジを制作。第2弾は、出刃包丁を模したハンバーグがのっている「オニババ出刃ーグカレー」
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そして、第3弾。4月5日に発売されたのが…
黒い角に白い髪の毛、しわしわで牙のはえたこわ~い表情!血のついた出刃包丁や骨…その名も「おにばばソフト」。
◇「おにばばソフト」600円(税込)
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二本松市振興公社・吉清水朋子さん:「ふるさと村で大人気商品の『酪王いちごオレソフト』を土台にして、鬼婆の顔をプリントしたクッキー、生クリームで表現した鬼婆の髪の毛、角、出刃包丁のクッキー、骨のクッキー、意味ありげに赤いソースがかかっています」
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試行錯誤を重ね、出来上がるまでに4ヵ月ほどかかったそう。
二本松市振興公社・吉清水朋子さん:「鉛筆で何度もデッサンをして、クッキーに焼いたときにいかに簡単にきれいに顔にでるかっていうのを何枚も何枚もクッキーを作って、型を作ってプリントクッキーが仕上がりました」
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二本松市振興公社・吉清水朋子さん:「”おにばばソフト”を知って頂いて、鬼婆っているんだってこと、それがさらに二本松のPRにつながることが一番だと思っています。『怖くてうまい!』ソフトクリームを楽しんで頂けたらと思います」
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<二本松市の安達ヶ原に伝わる鬼婆伝説>
病を抱えるお姫様の乳母だった女性は、お姫様を助けるためには妊婦のお腹の中にいる子どもの生き肝を飲ませる必要があった。ある日やってきた妊婦のお腹を切りましたが、なんとその妊婦は自分の娘だったのです…ショックのあまり、鬼婆になってしまったという…
<安達ケ原ふるさと村> 福島県二本松市安達ケ原4-100

当方は「ちょっと、無理……」という感じですが、度胸のある方、ぜひどうぞ(笑)。

【折々のことば・光太郎】

「展望」に原稿着の由にて臼井吉見氏より一五、〇〇〇圓小為替により送り来る。

昭和22年(1947)6月23日の日記より 光太郎65歳

「原稿」は、自らの生涯と戦争責任を綴った連作詩「暗愚小伝」です。「臼井吉見」は掲載紙『展望』の編集長でした。

「暗愚小伝」、18ページに亘る掲載ではありましたが、その稿料が15,000円というのは、当時の物価から換算すれば破格の金額のように思われます。当方、現代でも15,000円の原稿料を貰えることはほとんどありません(笑)。