NHKさんで現在放映中の連続テレビ小説「エール」。作曲家・古関裕而をモデルとするドラマです。コロナ禍で収録が中断、再放送が為されていましたが、先月半ばから再開しました。

先週土曜日の『朝日新聞』さんの一面コラムで、最近の「エール」について記述がありました

天声人語 朝ドラの凄惨

朝ご飯を食べながら読んでいる方もいるだろうと思いながらいつもコラムを書いている。残酷な描写はできるだけ避けているが、あえて書く場合もある。戦争の悲惨さを伝えたいときだ▼NHK連続テレビ小説「エール」の作り手も同じことを考えたのではないか。今週放映された太平洋戦争の戦闘場面はあまりに凄惨(せいさん)だった。主人公の作曲家、古山(こやま)裕一が慰問先のビルマで銃撃に巻き込まれ、兵士たちの死を目の当たりにする▼古山のモデルは作曲家の古関裕而(こせきゆうじ)で「六甲おろし」「長崎の鐘」などで知られる一方、戦中は多くの軍歌を作った。ドラマで戦場の主人公は、戦争の現実を「何も知らなかった」と半狂乱にになる。自分の曲が若者を戦争に駆り立て、命を奪ったと悩む▼実際の古関は実践には巻き込まれなかったが、慰問などで3度従軍し襲撃を受ける寸前まで行った。自分の曲を口にしながら戦った人のことを思い「胸が痛む」と語ったこともある。ただドラマのように激しく自分を責めたのかは、自伝では判然としない▼芸術家や文学者、マスコミの戦争協力は何度も反芻(はんすう)せねばならないテーマだ。自責の念にさいなまれた人も、そうでなかった人もいる。ドラマは、もしかしたら古関の内面にあったもの、あるいはこうあってほしかった古関の姿を描こうとしているのではないか▼フィクションはときに歴史の本質に迫る力を持つ。戦後の古関は人々に希望を与える曲を作り続けた。来週以降どう描かれるかが楽しみだ。
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先週から今週にかけての「エール」、戦争を真っ正面から描き、実にいろいろ考えさせられました。窪田正孝さん演じる主人公・古山裕一の姿に、光太郎がダブるようでした。

裕一のモデルだった古関は音楽、光太郎は詩文と、ジャンルこそ違えど(光太郎にも戦時歌謡の作詞が数曲ありますが)、国民の士気を鼓舞するための作品を大量に世に送り出した点は同じです。
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そして裕一は、ビルマ(現在のミャンマー)へ。そこで、森山直太朗さん演じるかつての恩師と再会します。恩師は予備役の将校として駆りだされていました。
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即席の楽団を編成し、慰問演奏会を開こうとするものの、敵襲。銃弾を受けた恩師は裕一の腕の中で息絶えます。
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ちなみにこの戦場のシーン、当方自宅兼事務所のある千葉県香取市での撮影でした。
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そして終戦。さらに裕一の元に、ショッキングな知らせ。二階堂ふみさん演じる妻の音(おと)の主宰する音楽教室の元生徒で、裕一を慕っていた近所の少年が戦死とのこと。少年は「若鷲の歌」に触発されて予科練に入隊していました。
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このあたり、光太郎が戦後に書いた連作詩「暗愚小伝」の構想段階で書かれた断片「わが詩をよみて人死に就けり」を彷彿とさせられます。

自責の念から作曲が出来なくなった裕一に、 北村有起哉さん演じる劇作家の池田(菊田一夫がモデルですね)が詰め寄ります。
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こうして生まれたのが、「鐘の鳴る丘」。史実では、もっと早く作曲を再開しているのですが、このあたりはドラマ上の演出ということで。
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さらには「長崎の鐘」、夏の甲子園のテーマ曲「栄冠は君に輝く」と繋がっていくのですね。

智恵子を既に喪い、独り身の光太郎は、戦後、花卷郊外旧太田村の粗末な山小屋で7年間の蟄居生活を送り、それを「自己流謫(るたく)」と称しました。「流謫」は「流罪」に同じ。公的には戦犯とされなかった光太郎でしたが、自らを罰したのです。

詩作は続けましたが、自ら「私は何を措いても彫刻家である」と宣言していた彫刻は封印。考え得る最も過酷な罰だったのではないでしょうか。生涯最後の大作「十和田湖畔の裸婦群像(通称・乙女の像)」で、その封印を解くまでに7年。長かったのか、短かったのか……。

戦時中、翼賛活動に関わったすべての芸術家が、心の中ではすべてそうだったと思いたいものです。

ちなみに先述の通り、「エール」のビルマでの戦闘シーン、当方自宅兼事務所のある千葉県香取市での撮影でしたが、まだ戦前だった先月の放映では、自宅兼事務所から車で5分ほどの寺院でのロケがありました。音の妹・梅(森七菜さん)と、のちに夫となる五郎(岡部大さん)のシーンです。のべ3日間、使われました。
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こちらがその寺院、妙光山観福寺さん。
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こちらは平成26年(2014)のやはり朝ドラ「花子とアン」(吉高由里子さん主演、そういえば窪田正孝さんもご出演なさっていました)でもたびたび使われましたし、本堂は平成25年(2013)の大河ドラマ「八重の桜」(綾瀬はるかさん主演)で、京都の会津藩本陣・金戒光明寺として使われました。

郷土の偉人・伊能忠敬の参り墓(地元の遺族がお参りするための墓。正式な墓は都内です)などもあり、いいところです。昨日ご紹介した、新たに重要文化財に指定される犬吠埼などとも同じ圏内、ぜひ足をお運び下さい。


【折々のことば・光太郎】009

日本の芸術といへば外国人はすぐに浮世絵とか三味線といつたものを連想する、珍しいもの、変つたものだけが日本の芸術だと思つてゐる

談話筆記「(日本の芸術といへば)」より
昭和16年(1941) 光太郎59歳

日本にも素晴らしい芸術がたくさんあるんだ、と、まあその通りですね。

ここで終わっていればいいのですが、この後、「これだから日本の国威が外国に宣揚されないのです、もつと日本芸術の本当の厚みとか深さといふものを彼等に知らせて精神的な圧力を加へてやりたい、このために日本芸術による国威を海外に示したいものだ」と続き、やはり戦時だなぁ、と思わせられます。