例年ですと、この時期に古書業界最大の市(いち)、七夕古書大入札会が行われています。古代から現代までの希少価値の高い古書籍(肉筆ものも含みます)など数千点が出品され、一般人は明治古典会に所属する古書店に入札を委託するというシステムです。出品物全点を手に取って見ることができる下見展観もあり、ここのところ毎年お邪魔していました。

 「明治古典会七夕古書大入札会2019」レポート。

ところが今年は、例の新型コロナの影響で中止です。主催者サイトから。

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むべなるかな、という感じですね。

代わりといっては何ですが、最近、自宅兼事務所に届いた各古書店さんの目録から。

まずは美術専門店のえびな書店さん。小金井の在です。

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表紙にドーンと光太郎の色紙。

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戦後の筆跡ですね。光太郎が好んで揮毫した文言で、花巻高村光太郎記念館さんには軸装された他の作品が所蔵されています。

昭和3年(1928)、当会の祖にして光太郎と最も交流の深かった詩人・草野心平の第一詩集『第百階級』の序文に、「詩人とは特権ではない。不可避である。」と書きました。その頃からの「持論」なのですね。

続いて、本郷の森井書店さん。近代文学、山岳系の古書を扱っているお店です。

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こちらも表紙に「高村光太郎書簡」の文字。画像は井原西鶴ですが。

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大正11年(1922)、日本女子大学校の智恵子の先輩・小橋三四子にあてた長い書簡です。筑摩書房さんの『高村光太郎全集』第21巻に収録されていますが、画像で見るのは初めてで(全部は載っていませんが)、興味深く拝見しました。

上記色紙ともども、味のある字です。

それから、先月、神保町の近代文学系専門古書店さんから届いた目録にも、光太郎筆という短冊が掲載されていましたが、そちらはどうもいけません。はっきり言えば、光太郎筆ではないだろうと思われます。似せて書こう、だまくらかしてやろう、という匂いが、写真でも伝わってきます。「××堂さん、こんなもの扱っちゃうのか」と、残念でした。

もっとも、上記の七夕古書大入札会でもそういうものが出品された年もありまして、わかっていて出しているのか、鑑定する力がないのか、何ともいえないところですが……。

それはともかく、来年以降、また七夕古書大入札会、復活することえお願ってやみません。


【折々のことば・光太郎】

画の話は一体、作品を目にせずしては聞くものが途方に迷ふものである。けれども、自由を貴んで大抵の極端なことには驚かぬ巴里のまんなかで、此程世人を騒がしてゐる画だと思へば、およそ其の極端さ加減も想像ができよう。

雑纂「HENRI-MATISSE(アンリイ、マチス)の画論㈠[前書き]」より
明治42年(1909) 光太郎27歳

雑誌『スバル』に掲載されたマチスによる画論翻訳の序文から。

マチス(マティス)は、確認できている限り唯一、光太郎と手紙のやりとりがあった当時の一流フランス人画家です。

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