こういう刊行物があったとは存じませんでしたが、うたごえ新聞社さん発行の『うたごえ新聞』。「にほんのうたごえ全国協議会機関誌」だそうで、昭和30年(1955)創刊とのこと。

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タブロイド判8ページ、週刊だそうで、上記は同社サイトから採らせていただきましたが、現物はモノクロ印刷です。合唱系をメインに、全国の演奏会情報や講習会などのイベント紹介、また、合唱に限らず、独唱歌曲系、器楽系、そしてうたごえ喫茶などに関する記事も載っています。

で、その3月16日号に「私とこの歌 「智恵子抄巻末のうた六首」」という記事が載っているという情報を得まして、取り寄せてみました。

「私とこの歌」は、アマチュア合唱団等で歌われている方からの寄稿のようで、今回は宮城県の医療のうたごえ合唱団セデスさんに所属されている、横田渉氏が書かれています。

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「智恵子抄巻末のうた六首」は、故・清水脩氏により、昭和39年(1964)、愛知の合唱団・東海メールクワイヤーさんの委嘱で、男声合唱曲として作曲されました。のちに混声版も出ています。題名の通り、詩集『智恵子抄』に収められた短歌六首がテキストです。

ひとむきにむしやぶりつきて為事(しごと)するわれをさびしと思ふな智恵子
気ちがひといふおどろしき言葉もて人は智恵子をよばむとすなり
いちめんに松の花粉は浜をとび智恵子尾長のともがらとなる
わが為事いのちかたむけて成るきはを智恵子は知りき知りていたみき
この家に智恵子の息吹みちてのこりひとりめつぶる吾(あ)をいねしめず
光太郎智恵子はたぐひなき夢をきづきてむかし此所に住みにき


当方、レコードやCD、それから平成24年(2012)、千葉県合唱祭で、船橋の合唱団・HGメンネルコールさんが演奏されたのを聴いたことがあります。

最近も、ぽつりぽつりと取り上げられています。
 所沢メンネルコール 第30回記念演奏会~歌は心のよろこび。
 コーロ・カンパーニャ 第7回コンサート/米津玄師さん「Lemon」。
 北海道教育大学札幌校グリークラブ・混声合唱団 OB・OG演奏会。

今後も歌い継がれていってほしいものです。

また、故・清水氏、これ以外にも、昭和30年代から、光太郎詩をテキストとしてさまざまな楽曲を作曲して下さいました。合唱(混声、男声)、独唱歌曲、箏曲など。こうした傾向も現代の作曲家さんたちに、受け継いでいっていただきたいものです。


【折々のことば・光太郎】

沢山あつて困ります。日本のを一人だけお答へしませう。
一、弟橘比売命。
二、姫の御歌をよめば理由は申上げるまでもないと思ひます。
「真嶺(さね)さし相模の小野に燃ゆる火の火中に立ちて問ひし君はも」

アンケート「私の好きなロマンス中の女性」全文
 大正9年(1920) 光太郎38歳

アンケート設問の「一」は、「好きなロマンス中の女性」、「二」は「その好きな理由」です。

弟橘比売命(おとたちばなひめのみこと)は、『古事記』や『日本書紀』に登場する神話上の人物ですが、日本武尊(やまとたけるのみこと)の妻です。夫の東征に際し、現在の東京湾・馳水(はしりみず)で、暴風雨を鎮めるために、自ら生け贄となって海中に身を投じました。引用されているのはその際の辞世の歌です。

のちに光太郎芸術世界の構築のため、自ら「生け贄」となった智恵子を彷彿とさせる、というと、牽強付会に過ぎましょうか?