昨日に引き続き、新刊情報です。 

マンガ名詩・短歌・俳句物語 2 名詩 下

2020年2月24日 目黒哲也企画・編集 学研プラス 定価3,600円+税

今もなお心に響く、すぐれた作品を残した詩人・歌人・俳人の物語をオールカラーのマンガで描く。2は、宮澤賢治、島崎藤村、新美南吉、高村光太郎ら10人の人生と詩を紹介する。巻末に「詩人」ミニ事典も収録。


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目次 
 宮澤賢治 作画・米田錦   島崎藤村 作画・兎谷しぇばこ 新美南吉 作画・ひらん
 高村光太郎 作画・北田ゆきと  北原白秋 作画・水木シュウ  
 萩原朔太郎 作画・柴田のぞみ   上田敏 作画・ノガミ陽  山村暮鳥 作画・糸永山藤
 吉野弘 作画・桜井ゆき  三好達治 作画・九条M+  「詩人」ミニ事典


B5判145ページがオールカラー。10人の詩人につき、10人の漫画家の皆さんが、10数ページずつのマンガになさっています。評伝的にその生涯をたどる作品(賢治、南吉、光太郎、白秋)もあれば、代表的なエピソード一つに的を絞ってその詩人を描く作品(藤村、朔太郎)もあり、さらに詩人自身は登場せず、代表作を現代人が鑑賞するといったコンセプトの作品(上田敏、暮鳥、吉野弘、三好)もあって、なかなかバリエーションに富んでいます。

光太郎は16ページ。

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イケメンに描いて下さるのはありがたいのですが、もう少し似せてもいいような(笑)。

内容的にはダイジェストながら、押さえるべき点はしっかり押さえられていて感心しました。欧米留学によって新しい真の芸術に開眼し、父・光雲を頂点とする旧弊な日本彫刻界と対立を余儀なくされたこと、そのため、胸中の鬱屈を彫刻に反映させないよう、詩作に取り組んだこと、智恵子との生活のくまぐま、その歿後の翼賛活動、それを悔いての戦後の隠遁生活、そして十和田湖畔の裸婦群像(通称・乙女の像)……。

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最後のコマのネームが言い得て妙です。曰く「悩み苦しみ抜いた彼の人世こそが、彼の最も尊い最高傑作なのかもしれない」。

しかしながら、突っ込みどころもいろいろありまして(笑)。例000えば戦後の7年間を過ごした花巻郊外旧太田村の山小屋。元々は鉱山の飯場小屋だった建物でしたが、やけに立派な家に描かれています。また、ニューヨーク留学中に、メトロポリタン美術館でガットソン・ボーグラムの彫刻を見て感心し、弟子入りを志願することを決意するシーン。光太郎が見たのはギリシャ神話の「ディオメデスの馬」の彫刻だったのですが、どうもそこまで調べがついていなかったようで、それが描かれていなかったりします。こういう点に関しては、依頼があればいくらでもお答えするのですが……。ただ、逆に、テキトーな彫刻の絵を描くよりは、わからないものはわからないから描かないという選択は評価されるべきでしょう。

このシリーズ、全4巻で、詩が下2巻、短歌俳句でそれぞれ1巻ずつとなっています。小中学校さんの図書室等にあると、なかなか使いでがあるように思われます。全国の先生方、どうぞよろしく。また、もちろん、一般の皆さんもぜひお買い求め下さい。

ただ、今日の時点で版元の学研プラスさんのサイトには掲載されていません。しかし、Amazonさん等にはすでに出ています。


【折々のことば・光太郎】

私が心身を傾倒するのは自然そのものになり、触目の自然が包むその奥所こそ私の祭壇なのである。私はあくまでも人間を作り、自然を描く。

散文「お経を聞いて」より 昭和10年(1935) 光太郎53歳


自分は父・光雲とは異なり、敬虔な仏教徒ではないので、そんな自分が仏像を彫ると仏様に失礼だから彫らない、という話の流れの中での言葉です。

ところが最晩年の「乙女の像」には、観音像の要素も含まれているわけで、そのあたりの心境の変化が興味深いところです。