今年1月に公開された映画「この道」ブルーレイとDVDが発売されました。

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光太郎の朋友・北原白秋(大森南朋さん)を主人公とし、山田耕筰(EXILEのAKIRAさん)との交流を軸に、白秋の後半生を追いながら、日本に童謡が築き上げられた経緯などが描かれています。

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われらが光太郎、2つのシーンで登場。

まずは蕎麦屋の座敷で行われた詩人仲間の会合―というより「パンの会」の流れ、的な―。参加者は白秋、萩原朔太郎、室生犀星、石川啄木、そして光太郎。

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演じるのは伊㟢充則さん。光太郎の雰囲気が見事に出ています。白秋の詩を「色が匂う」と評し、その的確な表現に一同、納得。

続いて、白秋詩集『思ひ出』出版記念会のシーン。史実では神田の都亭というレストランだったのですが、箱根の富士屋ホテルさんでロケが行われました。

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光太郎、司会の大役を仰せつかっていました。

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他に、光太郎の師・与謝野夫妻。松重豊さんと羽田美智子さんがそれぞれ演じられました。

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関東大震災、泥沼の戦争と、登場人物達をとりまく社会は混沌。

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光太郎のそれは描かれませんでしたが、白秋や晶子、山田耕筰(将官待遇となり軍服姿です)も時代の波に抗えません。かつて白秋の近所に住んでいた子供が青年となり、出征するシーン。涙無しには見られません。

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映画からは離れますが、山田に関しては、戦後になって、光太郎と同じく戦時中の翼賛活動がかなり問題視されました。戦争画を少なからず描いた藤田嗣治、「露営の歌」を作曲した古関裕而なども同様です。ちなみにNHKさんの来年の朝ドラ「エール」は古関を主人公とするそうで、そのあたり、どう描かれるか気になります。

その点、太平洋戦争が激化する前に生涯を閉じた白秋、晶子、それから萩原朔太郎(奇しくも3人とも昭和17年=1942に没しています)などは、良い言い方ではありませんが、或る意味良い時期に亡くなったという見方もできます。「生き残ってしまった」光太郎らの犯した過ちをさほど経験せずに済んだわけで……(白秋、晶子、朔太郎も翼賛活動に手を染めていますが、その期間が短くて済んだわけです)。

閑話休題。「この道」ブルーレイまたはDVD、ぜひお買い求め下さい。それから昨年には映画のノベライズも出版されていますので、あわせてどうぞ。


【折々のことば・光太郎】

血を吐きがたきわがこころよ 汝はつねに詛はれて 人のためにふみにじらる されど、かなしきこころは我がせめてものたからなり

詩「かなしきこころ」より 大正元年(1912) 光太郎30歳

のちに時代の波に翻弄される自身の姿を予言しているかのような文言ですね。