紹介すべき事項が多く、美術展関連で2件まとめて。

まずはテレビ放映情報。竹橋の東京国立近代美術館さんで開催中の「東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密」が大きく取り上げられます。

日曜美術館 重要文化財の秘密 知られざる日本近代美術史

NHK Eテレ 2023年4月2日(日) 09:00〜09:45  再放送 4月23日(日) 09:00〜09:45

明治以降に制作された日本近代美術を代表する重要文化財の絵画や彫刻。どのような評価を経て、指定されるに至ったのか?誰もが知る傑作の、知られざる物語をひもときます。

文化財保護法に基づいて国がその価値を認めて指定する重要文化財。美術工芸分野の重要文化財件数は1万件を超える。しかしそのうち明治以降の絵画・彫刻・工芸はわずか68件に過ぎない。時代が浅く、絶対的な評価が固まり切れない中で重要文化財に指定された作品たちはどのような評価を経て、指定されるに至ったのか?誰もが一度は目にしたことのある傑作中の傑作、その知られざる物語をひもとく。

出演者
【司会】小野正嗣,柴田祐規子,【出演】東京国立近代美術館副館長…大谷省吾
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予告編、最後の締めは光太郎の父・光雲作の「老猿」。本編をぜひご覧下さい。

同展、主催に入っている毎日新聞社さんでCMも作って下さっています。3月17日(金)、BSイレブンさんで放映された「アートミステリー 国立西洋美術館誕生秘話 ~モネを救え~」を拝見していたところ、流れました。こちらはつかみが「老猿」。
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もう1件、今日開幕の展覧会情報です。

「買上展」藝大コレクション展2023

期 日 : 2023年3月31日(金)~5月7日(日)
会 場 : 東京藝術大学大学美術館 東京都台東区上野公園12-8
時 間 : 10:00~17:00
休 館 : 月曜日(ただし、5/1は開館)
料 金 : 一般1,200円(1,100円)、大学生500円(400円)
       ( )は前売り料金 高校生以下及び18歳未満は無料

「買上」とは、東京藝術大学が卒業および修了制作の中から各科ごとに特に優秀な作品を選定し、大学が買い上げてきた制度です。遡って、前身である東京美術学校でも卒業制作を買い上げて収蔵する制度がありました。本学が所蔵する「学生制作品」は1万件を超えますが、本展ではその中から約100件を厳選し、東京美術学校時代から現在にいたる日本の美術教育の歩みを振り返ります。

第1部 巨匠たちの学生制作
 明治26年(1893)に最初の卒業生を送り出して以来、東京美術学校では卒業制作を中心に自画像などを含めた学生たちの作品を教育資料として収集してきました。本展では、卒業後に日本近代美術史を牽引した作家たちを各分野から選りすぐり、その渾身のデビュー作が一堂に会します。

第2部 各科が選ぶ買上作品
 東京藝術大学では昭和28年(1953)より買上制度がはじまり、卒業していく学生たちを勇気づけてきました。今年で創設70年を迎えるこの制度は、現在では多くの科で首席卒業と位置づけられています。近年は先端芸術表現、文化財保存学、グローバルアートプラクティス、映像研究など研究領域も広がり、表現方法も多様化してきています。今回、各科による選定意図などを添えて展示することで、各科が特に優秀と認めてきた買上作品の傾向が浮かび上がることでしょう。

出展作家
第1部
 横山大観   児島虎次郎  萬鉄五郎  下村観山   和田三造   高村豊周
 板谷波山   橋口五葉   金観鎬   白浜徴    山本鼎    吉村忠夫
 菱田春草   南薫造    松田権六  西郷孤月   朝倉文夫   伊原宇三郎
 和田英作   小村雪岱   山口蓬春  小林万吾   富本憲吉   吉田五十八
 北蓮蔵    岡本一平   山本丘人  平福百穂   近藤浩一路  山崎覚太郎
 津田信夫   藤田嗣治   東山魁夷  石田英一   建畠大夢   小磯良平
 中沢弘光   小絲源太郎  赤松麟作  李叔同    吉村順三   高村光太郎
 中村岳陵   高山辰雄   松岡映丘  広島新太郎  六角大壌   青木繁
 北村西望   平山郁夫   熊谷守一  今和次郎

光太郎彫刻は、日蓮像の「獅子吼」。明治35年(1902)、東京美術学校彫刻科をいったん卒業した際の卒業制作です。
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「いったん卒業」は、この後も研究科に残り、さらに留学前年の明治38年(1905)には、根底から勉強し直そうと、西洋画科に再入学したためです。西洋画科ではやはり買い上げ作品が展示される岡本一平や藤田嗣治などが同級生でした。ただし、こちらは中退の扱いで、翌年には留学に出ています。

さらに光太郎実弟にして、鋳金分野の人間国宝となった豊周の作品も出ます。豊周は同校鋳金科を卒業し、母校で永らく教壇に立ちました。

「東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密」と併せ、こちらもぜひ足をお運びください。

【折々のことば・光太郎】

About the matter of your letter of the other day, I must think over them a little more. For my HOKKAIDO affairs do not finish all yet. I hurried back to Tokio at that time because of the fire. Perhaps, I go round there once more this summer.


明治44年(1911)7月3日 バーナード・リーチ宛書簡より 光太郎29歳

邦訳は以下の通り。

いつかの君の手紙のことはもう少し考える必要がある。僕の北海道の件はまだ終わったわけではないからだ。あの時は火事のため急いで東京に帰って来たので、恐らく、この夏もう一度行くだろう。

酪農で生計を立てつつ、彫刻や絵を制作する夢を抱いて北海道に渡り、札幌郊外月寒の牧場まで行ったものの、1ヶ月足らずですごすごと東京に舞い戻りました。
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火事」は道内20数カ所で起こった山火事や大火。確かに現地の人々は大変だったのでしょうが、光太郎はどうもそれを言い訳にしている部分があるように感じます。結局、少しの資本ではどうにもならず夢は夢でしかないというわけで。

リーチにはこの夏もう一度北海道へ、と語っていましたが、この後、確認できている限り、光太郎が北海道の土を踏むことは二度とありませんでした。