昨日ご紹介した、竹橋の東京国立近代美術館さんで明日から始まる「東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密」展につき、主催に名を連ねている『毎日新聞』さんに予告報道が出ています。

東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密 東京で17日から 問題作が傑作へ、変遷たどる

 「東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密」が17日から東京国立近代美術館(東京都千代田区)で始まる。重要文化財に指定されている明治以降の絵画・彫刻・工芸51点による豪華な展覧会だ。本展を企画した同館の大谷省吾副館長が見どころを解説する。
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 東京国立近代美術館は1952(昭和27)年12月1日に開館し、さきごろ開館70周年を迎えた。本展はこれを記念し、ほぼ同時期の55年から近代美術の指定が始まった重要文化財に焦点を当てるものである。2023年3月現在、重要文化財に指定されている明治以降の絵画・彫刻・工芸は全部で68件だが、本展はそのうち51点を集めた、これまでに類のない展覧会である。とはいえ、ただの名品展ではない。本展は重要文化財イコール名品として手放しで礼賛するのではなく、「なぜ、これが重要文化財なの?」と考えてもらうことを真のねらいとしている。
 重要文化財の指定基準のひとつに「各時代の遺品のうち製作優秀で我が国の文化史上貴重なもの」というのがある。だが「優秀」で「貴重」とする評価の基準は何だろう? 明治以降の美術は、それ以前からの伝統的な美意識と、新たに西洋から伝えられた美術との間でさまざまな葛藤を経ながら展開してきたし、近代美術とは本質的に、それ以前のものの見方を批判的に乗り越えようとしながら新しいものを作り出そうとしてきたから、評価の基準も単純ではないのだ。だから本展のキャッチコピーに“「問題作」が「傑作」になるまで”とあるように、重要文化財に指定された個々の作品が、発表当時はどのような批評を受け、それが時代の変遷とともにどのように評価を変え、そしてどのような理由で重要文化財に指定されるに至ったのかを検証していくと、さまざまな面白いことがわかってくる。以下、主要な作品をいくつかご紹介したい。
  横山大観「生々流転」は、描かれてから今年でちょうど100年になる。発表された展覧会の初日に関東大震災が起きたが、作品は幸いに救い出された。全長40メートルに及ぶ大作で、重要文化財に指定されたのは67年。描かれてから44年後のことで、史上最速の重要文化財指定作品である。
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 この作品と同じ年に、洋画で最初に重要文化財に指定されたのが高橋由一の「鮭」である。この67年とは、翌年が明治100年にあたり、日本中で明治文化の見直しが行われていた時期だった。日本の伝統的な画法では表現できなかった立体感や質感の描写が、西洋からもたらされた技法によって可能となったことへの素直な驚きと喜びが見てとれる。
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 この年、やはり明治時代の名品として指定の候補に挙げられながら、選に漏れて保留となったのが黒田清輝「湖畔」と高村光雲「老猿」だった。
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この2点が重要文化財に指定されるのは、意外にもごく最近、99年のことである。どうして67年当時、選に漏れたのか。99年に指定されたときは、どんな理由だったのか。それらを調べていくと、近代日本美術の評価の基準が時代とともに更新されてきたことが見えてくる。そしてその背景には、近代日本美術史研究の深まりがあることも理解できるだろう。 さまざまな価値観が交錯しているからこそ、近代日本美術は面白い。その魅力をぜひご堪能いただきたい。

音声ガイド、新井さんが初挑戦
 音声ガイドナビゲーターは、ナビゲーター初挑戦のフリーアナウンサー・新井恵理那さんと、声優・小野大輔さんが務める。貸出料金650円(税込み)。
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図録 通販サイトでも
 会場特設ショップのほか、本日より通販サイト「まいにち書房」(https://www.mainichi.store/)でも公式図録を予約販売する。出品作品はもちろん本展不出品の重文指定品を含む全68件のカラー図版と作品解説を収録した充実の一冊。発送は22日以降。送料別。図録はA4変型判。1冊3300円(税込み)

「老猿」の重文指定についての裏話は存じませんでした。そのあたり、図録所収の論考等で触れられているのではないかと思われます。

ぜひ足をお運び下さい。

【折々のことば・光太郎】

日本に住んで居るといふ外は 僕と日本とは今の処没交渉です。Ah!


明治43年(1910)5月12日 南薫造宛書簡より 光太郎28歳

旧態依然の日本美術界(その頂点の一つが、父・光雲)と距離を置き、独自の道を行こうとする意志の表出です。しかしそれは、茨の道でした。