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川端康成と書―文人たちの墨跡

2019年2月27日 水原園博 求龍堂 定価3,000円+税

川端生誕120年 川端が愛蔵した書、一挙公開 ― 生命(いのち)を宿した文人たちの書 ―

文豪川端康成が美術品の大コレクターであったことは、近年知られるところとなった。しかしその全貌は完璧に把握されていない。 2016年、膨大な書が発見された。 晩年、書に魅入られた川端康成は、自ら多くの書を書き残している。同時に、かつての大家たち(一山一寧、隠元隆琦、池大雅、高橋泥舟など)、同時代の文豪たち(夏目漱石、高浜虚子、田山花袋、林芙美子、横光利一、高村光太郎、齋藤茂吉、生方たつゑなど)の書を蒐集し、愛眼してきた。
本書は、書、その書についての川端の言葉、その作家と川端との交流など、多方面からの解説がついた川端康成の書のコレクション本。

目次

 まえがき 001

 第一章 歴史に名を残す名筆家の書
   如意輪観音像 伝・藤原定家 一山一寧 宗峰妙超
   寂室元光 隠元隆琦 石渓 池大雅 良寛 高橋泥舟

 第二章 文豪たちの書
   夏目漱石 尾崎紅葉 高浜虚子 芥川龍之介 
   永井荷風 若山牧水 田山花袋 本因坊秀哉
   岡本かの子 北原白秋 与謝野晶子 島崎藤村
   徳田秋声 島木健作 横光利一 林芙美子
   武者小路実篤 高村光太郎 斎藤茂吉 久米正雄
   吉井勇 久保田万太郎 室生犀星 吉野秀雄 辰野隆
   中谷宇吉郎 宗般玄芳 保田與重郎 草野心平
   生方たつゑ 遊記山人

 第三章 川端康成の書

 第四章 川端康成宛の書簡
   菊池寛 太宰治 坂口安吾 谷崎潤一郎 三島由紀夫
   
 あとがき



一昨年、その発見が報じられ、大きな話題となった川端のコレクションおよび、川端自身の書を、ほぼ全ページオールカラーで紹介するものです。

著者の水原園博氏は、公益財団法人川端康成記念会理事。雑誌『中央公論』さんに連載されていたものの単行本化かと思っていましたが、あにはからんや、書き下ろしでした。

光太郎の書は、扇面に揮毫された『智恵子抄』中の「樹下の二人」(大正12年=1923)でリフレインされる「あれが阿多多羅山 あの光るのが阿武隈川」。これを含めた新発見のほとんどが、やはり一昨年、岩手県立美術館さんで開催された「巨匠が愛した美の世界 川端康成・東山魁夷コレクション展」に出品され、拝見して参りました

ところで、「あとがき」によれば、水原氏、最後まで判読に苦しんだのが、当会の祖・草野心平の書だったそうです(笑)。心平一流、独特の書体であることも一因のようですが、書かれた文言が琉球古典舞踊の一節という特殊なものだったためとのことでした。

錚々たる面々の書跡の数々、見応えがあります。ぜひお買い求めを。


【折々のことば・光太郎】

今の世上の彫刻家と称するものは殆ど悉く立体写真の職人に過ぎない。彫刻的解釈と彫刻的感覚とを持たない立体像の氾濫を見よ。彼等作るところの人物像と、資生堂作るところの立体写真と何処に根本的の相違がある。

散文「某月某日」より 昭和11年(1936) 光太郎54歳

それを一概に否定できるものではありませんが、現在でも「立体写真」といわれる技術が残っています。少し前までは新聞などでも広告を見かけました。多方面から通常の写真を撮影し、それを元に立体化する技術で、それにより比較的容易に銅像が作れるというものです。いわば3Dプリンタ的な。その最初期には、かの資生堂さんがそれを事業化していました。

そういうものだと割り切ってしまえばそういうものですが、光太郎にとって、それは「彫刻」の範疇に入らざるもの。そして、世上の多くの彫刻家が普通に作る肖像彫刻も、それと何ら変わらない魂のこもっていないものだ、というわけです。

ちなみに光太郎の書にも、彫刻的感覚が溢れている、というのが大方の評価です。


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