昨日、智恵子の故郷・福島二本松に聳える安達太良山系のラジオ・テレビ番組をご紹介しましたが、今日は新聞記事から。

まず、福岡に本社を置く『西日本新聞』さん。8月21日(火)のコラムです。 

「普通の酒」が頂く栄冠 論説委員 長谷川 彰

 安達太良山。「あだたらやま」と読み、福島県二本松市の西にそびえる火山だ。阿多多羅山の漢字を当て、詩人高村光太郎の「智恵子抄」にも登場する。東京には空がないという妻の智恵子が、遠くを見ながら、この山の上に毎日出ている青い空が「智恵子のほんとの空だといふ」とつづられた一節を、ご存じの方も多いと思う。
 二本松市内には、造り酒屋だった智恵子の生家跡が残っているが、程近くに奥の松酒造という蔵元がある。創業300年の歴史を誇り、安達太良山の伏流水を使って醸す地酒の数々は、九州にもファンが少なくない。蔵の営業マン、津島健さん(49)が全国を駆け巡り、その魅力をアピールしていることも大きい。
 その津島さんが苦笑いしながら言うのだ。「四合瓶(720ミリリットル)千円の普通の酒が世界一になっちゃって」
 ロンドンで7月に開かれた世界最大級のワイン品評会、インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)の日本酒部門で、出品した「あだたら吟醸」が最優秀賞に輝いたからだ。9部門の各最高賞から唯一選ばれる「チャンピオン・サケ」の栄冠だ。
 5年前に、福岡県八女市の喜多屋の「大吟醸 極醸 喜多屋」が選ばれて話題を呼んだのを、ご記憶かと思う。
 面白いのは、この「あだたら吟醸」、20年ほど前からの定番商品とか。「主に贈答用だった吟醸酒を、気軽に晩酌で楽しんでもらいたい」と生み出した酒だという。
 お値打ち価格にするため酒米でなく飯米を使い、醸造用アルコールも用いつつ、杜氏(とうじ)の技術で風味と品質を磨き上げたそうだ。大吟醸や純米酒が並み居る中での栄誉に、「社長も私もびっくりで、うれしいやら申し訳ないやら」と謙遜する津島さんだが、手応えを感じている様子だ。
 IWCでは当初、最高の素材と技術を極めたような酒が高く評価されていたが、日本酒が世界で広く飲まれるようになり、審査の目が多様性を帯びてきているらしい。
 日本酒は安物、悪酔いするといったイメージが広まり、地方の酒蔵が次々に行き詰まった時期も「お客に愛飲される酒造りに徹してきた」(津島さん)。そんな取り組みへの評価にもつながるとしたら、今回の栄誉は意義深い。
 津島さんと一緒に味わった受賞酒は、流れる水のようにすっきりとし、程よい甘さと香りが鯛(たい)のカルパッチョと合った。「限定酒とかじゃなかったので、受賞特需にも応じられそうです」。消費税込みで1本1080円の世界一の酒。心意気にも酔いしれた。
=2018/08/21付 西日本新聞朝刊=


奥の松さんの件、調べてみましたところ、先月の福島の地方紙で報道されていましたが、今回の『西日本新聞』さんのように、光太郎智恵子にからめた記事ではなかったので、気づきませんでした。 

奥の松吟醸酒世界一 品評会「IWC」日本酒部門

 世界最大級のワイン品評会「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)2018」の最終審査結果が十日(日本時間十一日)、英国・ロンドンで発表され、日本酒部門の最優秀賞「チャンピオン・サケ」に奥の松酒造(二本松市)の吟醸酒「奥の松 あだたら吟醸」が輝いた。福島県内蔵元の世界一は二〇一五(平成二十七)年のほまれ酒造(喜多方市)に次いで二度目。
  全国新酒鑑評会の金賞受賞銘柄数で六年連続日本一を誇る県産酒の品質の高さを世界に改めて示す受賞となった。
  ロンドンで行われた授賞式で奥の松酒造の遊佐丈治社長(55)が表彰を受けた。「三百年を超す奥の松の歴史の中で最も素晴らしい賞を受け、うれしく思う。福島には(東京電力福島第一原発事故の)風評の影響が残っており、自信につながる」と喜びを語った。「奥の松 あだたら吟醸」(七百二十ミリリットル、税込み千八十円)はフルーティーな香りと膨らみのある味、バランスの良さなどが高く評価された。
  日本酒部門には日本国外を含む四百五十六社が計千六百三十九銘柄を出品。出品社・銘柄数はともに過去最多だった。
  五月に山形市で日本酒部門の審査会が開かれ、純米酒や吟醸酒など九部門別に最高賞に当たる「トロフィー」受賞酒を選出。県内蔵元は吟醸酒の部でトロフィーを得た「奥の松 あだたら吟醸」と、純米酒の部でトロフィーに選ばれた名倉山酒造(会津若松市)の「純米酒 月弓」が最終審査に臨んだ。「チャンピオン・サケ」は九部門でトロフィーを獲得した九銘柄の中から選考した。

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震災からの復興に、はずみをつける快挙ですね。同じ蔵元どうし、泉下の智恵子やその家族も喜んでいることでしょう。


もう1件、福島県内各地で昨年から行われている体験型イベント、「ふくしま ほんとの空プログラム」関連で。 

安達太良山で心育む 二本松「ほんとの空プログラム」

 豊かな自然環境で子どもの好奇心001や探究心を育む活動「ふくしま ほんとの空プログラム」の安達太良山トレッキングは十九日、福島県二本松市の安達太良山で開かれた。
  県内外から四十人とプログラムサポーターのタレント長沢裕さん(伊達市出身)が参加した。安達太良マウンテンガイドネットワークのガイドで、夏の登山を楽しんだ。一行はロープウエーで八合目の山頂駅に移動し、薬師岳を通り山頂を目指した。登山道ではさまざまな木々や草花、青い空と雄大な安達太良連峰の景色を楽しんだ。山頂では猪苗代湖や磐梯山を望みながら、おにぎりやお弁当を食べた。
  田村市の本田匠君(10)は「初めての登山だったけど、みんなで頂上を目指して楽しかった」と達成感に浸っていた。
  プログラムは福島民報社の主催、オーデン、花王、常磐興産、大王製紙、テーブルマーク、日本シビックコンサルタント、日本ファイナンシャル・プランナーズ協会の協賛。


同プログラム、今後、鮫川村での宿泊体験、西会津町での探検プログラム、来年2月には郡山での「雪まみれキャンプ」などが計画されています。


「ほんとの空」を合い言葉に、福島がどんどん元気になっていって欲しいものです。


【折々のことば・光太郎】

詩は如何なる生活の片隅にもなければならぬ。決して謂ふところの詩らしい章句の中にのみあるのではない。粗雑であつてはならないが、詩がわれわれの日常生活の中から直接に出て来るのも亦たのしい事である。

散文「雑誌『新女苑』応募詩選評」より 昭和14年(1939) 光太郎57歳

たしかに何げない日常生活の中に「詩」を見つけ続けた光太郎らしい言です。