先週日曜の朝にオンエアされたNHKさんの日曜美術館「皇室の秘宝~奇跡の美術プロジェクト~」、今夜、再放送があります。現在、東京上野の東京藝術大学さんで開催中の東京藝術大学創立130周年記念特別展「皇室の彩(いろどり) 百年前の文化プロジェクト」」を取り上げています。

日曜美術館「皇室の秘宝~奇跡の美術プロジェクト~」

NHKEテレ 2017年11月19日(日)  20時00分~20時45分

昭和天皇のご結婚の際に献上された美術品が皇居から初めて持ち出され公開された。一流の工芸家たちが5年の歳月をかけた奇跡のプロジェクトの作品を紹介する。

東京芸術大学の美術館で開催されている展覧会。金のまき絵やらでんが一面に施された飾り棚。天皇と皇后用に1対で献上された豪華な作品である。また48人の工芸家が技法を競った作品が装飾されたびょうぶ。金工、木工、漆、陶芸など日本の伝統工芸がここに集約されている。実はこのプロジェクトには中止に追い込まれそうな危機があった。皇室の秘宝とともにその秘められた物語を紹介する。

出演 井浦新 高橋美鈴 古田亮(東京藝術大学准教授)


冒頭近くで、番組のつかみ的に、光太郎の父・高村光雲の「鹿置物」(大正9年=1920)が、大きく取り上げられました。

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番組進行役の井浦新さん、髙橋美鈴アナも感嘆しきり。


メインで取り上げられた作品は、大正13年(1924)の皇太子ご成婚を奉祝する御飾り棚一対(昭和3年=1928)。その超絶技巧があますところなく解説されていました。

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棚自体は、蒔絵師を中心とした職人達の手になるものですが、この棚を飾る各種工芸品などの中に、光雲の「木彫置物 養蚕天女」(昭和3年=1928)も含まれていました。

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この「養蚕天女」が単体の作でなく、このためのものだったというのは、同展の図録を読んで初めて知りました。ちなみに今回は展示されていませんが、皇室にはこれより一回り大きい「養蚕天女」も奉納されています。

関東大震災による甚大な被害を乗り越え、「こういう時だからこそ」と、自粛ムードをはねのけてこれらを作り上げた人々の思いにも言及されており、美術作品そのものだけでなく、背景のドラマを知ることの重要性も再認識しました。


もう1点、大きく取り上げられたのが、やはり一対の「二曲御屛風」(昭和3年=1928)。

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こちらには、光雲三男にして、家督相続000を放棄した光太郎に代わって髙村家を継いだ、鋳金の人間国宝・髙村豊周の作「石楠花(しゃくなげ)」も張り混ぜられています。

全体としては、48名の作家の扇面型、色紙型の作が配され、制作方法も多種多彩。金工あり、木工あり、七宝や象嵌、蒔絵、漆工芸など、百花繚乱の感があります。

この中では、豊周の「石楠花」は色合い的にも地味な作なので、番組では取り上げられませんでしたが、写るには写りました。

大きく取り上げられたのは、豊周の作の斜め下に配された青山泰石の「木画扇面 松叭々鳥」。これが筆で描いたものでなく、木に木をはめ込んで作られているというのですから驚きです。

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だからといって、豊周の鋳金の方が劣っているということにもなりません。技法がまるで違うもの同士、比べようがありませんから。

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藝大美術館さんでの展覧会(今月26日(日)まで)ともども、ぜひご覧下さい。


【折々のことば・光太郎】

人類はじめてきのこ雲を知り、 みづからの探求は みづからの破滅の算出。 ノアの洪水に生きのこつた人間の末よ、 人類は原子力による自滅を脱し、 むしろ原子力による万物生々に向へ。

詩「新しい天の火」より 昭和29年(1954) 光太郎72歳

この時期、原子力の平和利用ということが、盛んに論じられていました。旧ソ連では世界初の原発が稼働、もう少し後には民間船舶にも原子力機関搭載の原子力船が導入されるようになります。まさに「原子力 明るい未来の エネルギー」的な風潮だったわけです。

しかし、第五福竜丸事件もこの年でした。それから広島、長崎の悲劇を踏まえ、懐疑的な見方を示しつつも、光太郎は基本的に原子力の平和利用推進には肯定的でした。このあたり、昔から社会認識の部分では、周囲に流されて「甘い」見方になってしまうという、一種の光太郎の弱点が露呈されてもいます。

およそ60年後の福島の惨状など、思いもよらなかったのでしょう。一概には責められませんが。

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