光太郎の父・高村光雲がらみの企画展です。
会 場 : 東京藝術大学大学美術館 東京都台東区上野公園12-8
時 間 : 午前9時30分~午後5時00分  会期中の金・土曜日は午後 8 時まで開館
料 金 : 一般1300円(1100円) 高・大学生800円(600円) 中学生以下無料
         ( )内は20名以上の団体料金
休館日 : 月曜日

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およそ 100 年前。大正から昭和最初期の頃に、皇室の方々の御成婚や御即位などの御祝いのために、当代選りすぐりの美術工芸家たちが技術の粋を尽くして献上品を制作しました。中には、大勢の作家たちが関わった国家規模の文化プロジェクトがありましたが、今日ではそれを知る者がほとんどいなくなっています。いったん献上されたそれら美術工芸品は、宮殿などに飾り置かれていたために、一般の人々の目に触れる機会が極めて限られてきたからです。
古くから皇室は、日本の文化を育み、伝えてきましたが、近代になってからは、さまざまな展覧会への行幸啓や作品の御買上げ、宮殿の室内装飾作品の依頼などによって文化振興に寄与してきました。皇室の御慶事に際しての献上品の制作は、制作者にとって最高の栄誉となり、伝統技術の継承と発展につながる文化政策の一面を担っていました。大正期には、東京美術学校(現、東京藝術大学。以下美術学校)5代校長・正木直彦(1862 ~ 1940)の指揮下で全国の各分野を代表する作家も含めて展開された作品がこの時代の美の最高峰として制作されました。本展では、宮内庁に現存する作品とともに、その制作にまつわる作品や資料を紹介いたします。
また本展は、東京美術学校を継承する東京藝術大学の創立130周年を記念して、東京美術学校にゆかりある皇室に関わる名作の数々も合わせて展示いたします。皇室献上後、皇居外で初めて公開される作品を中心に、100年前の皇室が支えた文化プロジェクトの精華をお楽しみください。


002光雲作品としては、宮内庁三の丸尚三館さん所蔵の「松樹鷹置物」(大正13年=1924)が展示されます。光雲木彫の最高峰の一つです。

大正13年(1924)の皇太子(のちの昭和天皇)ご成婚に際し、大正天皇、貞明皇后から皇太子に贈られました。東宮御所の玄関を飾る置物として作られたとの伝来があります。

像高1㍍ほどある大きな物ですが、さらに1㍍を超す漆塗りの台に据えられていたようです。

光雲は、この作の制作に当たって、帝室博物館(現・東京国立博物館)から鷹の剥製を借用し、参考にしたとのこと。

今にも獲物めがけて飛びかからんばかりの鷹の躍動感と、樹皮のひび割れまで忠実に写生された松の老樹(彫刻材は楠)の表情がみごとです。


同じ上野公園の国立西洋美術館さんでは、過日ご紹介した「《地獄の門》への道―ロダン素描集『アルバム・フナイユ』」が開催されます。それから、東京国立博物館さんでは、常設展示「近代の美術」で、11月12日(日)まで、光太郎の木彫「鯰」とブロンズの「老人の首」が出ています。

併せてご覧下さい。

追記・「松樹鷹」以外にも、光雲の作は複数展示されています。「鹿置物」(大正9年=1920)、「猿置物」(大正12年=1923)、「木彫置物 養蚕天女」(昭和3年=1928)。さらに光雲と他の作家の合作、光太郎の実弟・高村豊周の作も出ています。

【折々のことば・光太郎】

文化は高いほどいいので まさにカンチエンジユンカたるべきです むしろ地上を離れて 成層圏に入るべきです

詩「Rilke Japonica etc.」より 昭和24年(1949) 光太郎67歳

「カンチエンジユンカ」は、ヒマラヤ山脈のカンチェンジュンガ。世界3位の標高で、8,586㍍です。

この時点では世界最高峰・エベレストの標高も正確にはわかっておらず、エベレストが最高峰だろうというのは推定でしかなく、それより高い山も存在するのでは、という説もあったようです。エベレスト、カンチェンジュンガ、さらに第2位のK2すべて、まだ登頂されていません。「ほぼ世界最高峰」という意味で、カンチェンジュンガが持ち出されているのでしょう。

全体としては、十五年戦争により停滞、さらには逆行してしまった日本文化の低さを嘆くとともに、文化行政への批判も含んだ詩です。