昨日、卒業式に関する話題を載せました。各学校では卒業シーズンでもありますが、来年度入学生の入試シーズンでもありますね。
今月7日に行われた群馬県公立高等学校入試の社会の問題で、光太郎の父・光雲の「老猿」が問題に出されました。


模範解答として提示されている正解は、以下の通り。

(例)とありますので、「西洋の技法」以外でも○となるのでしょう。「写実的な作風」とか。そのあたりは採点者向けのマニュアルに記されているはずです。「写実的な作風」と書いて×になったら、当方は暴れます(笑)。
しかし、中学生には難問かな、という気もします。おそらく、中学校の社会の授業で、ここまで掘り下げて扱うことは稀でしょうから。ただ、鋭い生徒は、大問としての設定「「世界の中の日本」というテーマで調べたことをまとめ……」という部分、そして文明開化に湧いた「明治」という時代などから類推することができたのではないでしょうか。
光雲は、おそらくどの教科書会社でも取り上げていると思います。しかし、ただ、「明治の文化、岡倉天心、横山大観、黒田清輝、高村光雲、夏目漱石、森鷗外、与謝野晶子……暗記しろ」ではなく、それぞれの人物の生き様まで(せめて概略でも)、授業で扱ってほしいものです。
文部科学省で定めている「中学校学習指導要領」の社会編、歴史的分野で掲げている目標を抜粋します。
(2) 国家・社会及び文化の発展や人々の生活の向上に尽くした歴史上の人物と現在に伝わる文化遺産を,その時代や地域との関連において理解させ,尊重する態度を育てる。
(3) 歴史に見られる国際関係や文化交流のあらましを理解させ,我が国と諸外国の歴史や文化が相互に深くかかわっていることを考えさせるとともに,他民族の文化,生活などに関心をもたせ,国際協調の精神を養う。
さらに、それぞれの「解説」。
(2)に関しては、
歴史を具体的に理解させるためには,歴史の展開の中で大きな役割を果たした人物や各時代の特色を表す文化遺産を取り上げることが大切であることを述べている。
人物の学習については,歴史が人間によってつくられてきたものであることを踏まえて,国家・社会及び文化の発展や人々の生活の向上に尽くした歴史上の人物を取り上げ,主体的に社会を変革しかつ歴史の形成に果たした役割について学ぶことが大切である。その際,人物の活動した時代的背景と地域とを関連させながら,その果たした役割や生き方を具体的に理解させる必要がある。
人物の学習については,歴史が人間によってつくられてきたものであることを踏まえて,国家・社会及び文化の発展や人々の生活の向上に尽くした歴史上の人物を取り上げ,主体的に社会を変革しかつ歴史の形成に果たした役割について学ぶことが大切である。その際,人物の活動した時代的背景と地域とを関連させながら,その果たした役割や生き方を具体的に理解させる必要がある。
とあり、(3)の解説は、
「歴史に見られる国際関係や文化交流のあらましを理解させ」る学習については,国際化の進展の著しい社会に生きる生徒に,他民族の文化や生活などに関心をもたせ,我が国と諸外国の歴史や文化が相互に深くかかわっていることを考えさせて,国際協調の精神を育成することが求められる。
となっています。
これらを踏まえると、上記の「老猿」関連の設問、的確な問題ですね。
それにしても、改めて「学習指導要領」を見てみると、かなりいいことが書いてあります。「我が国と諸外国の歴史や文化が相互に深くかかわっていることを考えさせるとともに,他民族の文化,生活などに関心をもたせ,国際協調の精神を養う。」など、まさしくその通りです。
中学校ではありませんが、それと真逆の、「よこしまな考え方を 持った在日韓国人・支那人」などと書かれたヘイト文書を平気で保護者に配布し、「竹島・北方領土を守り、日本を悪者として扱っている中国・ 韓国が心改め、歴史教科書でウソを教えないようお願いいたします!」と、運動会で選手宣誓させている教育機関があるなど、論外ですね。だいたいそういうよこしまな人物に限って「教育勅語」をありがたがる、というのも不思議です(笑)。
【折々のことば・光太郎】
教養主義的温情のいやしさは彼の周囲に満ちる。 息のつまる程ありがたい基督教的唯物主義は 夢みる者なる一日本人(ジヤツプ)を殺さうとする。
詩「白熊」より 大正14年(1925) 光太郎43歳
明治39年(1906)から翌年にかけて、ニューヨークで暮らした体験を下敷きにしています。週給7ドルで、彫刻家ボーグラムの助手を務め、休日に訪れるブロンクス・パークの動物園で目にする、やはり異邦から来た象や白熊に、全ての面で「合理的」な事柄を優先するアメリカ社会になじめない自分を仮託しています。
この詩は、単に「敵国」を非難しているという理由から、後に編まれた翼賛詩集『記録』(昭和19年=1944)に再録されました。