新刊情報です。
目次
◎米国大統領への手紙―市丸利之助中将の生涯
 第一章 米国大統領への二つの手紙
 第二章 予科練の父
 第三章 軍人歌人
 第四章 硫黄島
 第五章 名誉の再会
 付録一 毛厠救命 豊子愷
 付録二 硫黄島から 市丸利之助の歌、折口春洋の歌 佐伯裕子
◎高村光太郎と西洋
 第一章「大和魂」という言葉―北京で『銀の匙』を読む―
 第二章 高村光太郎と西洋
 あとがき
新潮社版へのあとがき
出門堂版へのあとがき
「昭和」を大観した評論―二転三転の精神史 実像をあぶり出す― 中田浩二
鎮魂の紙碑に寄せて 土居健郎
解説 牧野陽子
著作集第7巻に寄せて―市丸家のご遺族―  平川祐弘


平川祐弘氏は、東大名誉教授で比較文学研究者。右派の論客として知られ、「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」メンバーです。版元の勉誠出版さんから、「平川祐弘決定版著作集」全34巻が刊行中で、その第3回配本です。

表題は、太平洋戦争中、硫黄島で戦死した市丸利之助中将が残したルーズベルト宛の手紙から採られています。

もともとは平成8年(1996)に新潮社さんから刊行された『米国大統領への手紙』。絶版です。そちらは「第一部 米国大統領への手紙―市丸利之助中将の生涯―」、「第二部 「大和魂」という言葉―北京で『銀の匙』を読む―」、第三部「高村光太郎と西洋」の三部構成ですが、今回のものでは第二部が何故か第二部に組み込まれているようです。

「あとがき」によれば、「言語や文化を異にする国家と国家の間の軋轢(あつれき)の中で生き、反応し、歌い、そしてその志を文字で述べた人間を扱った」とのこと。

さらに遡れば、第三部「高村光太郎と西洋」は、平成元年(1989)の雑誌『新潮』が初出です。章立ては以下の通り。光太郎に光雲もからめ、西洋受容史の一典型を論じています。

  誠実な人、insincereな人007
  ジャップの憤り
  ロダンの国にて
  彫刻家ガットソン・ボーグラム氏
  高村光太郎と父
  近代日本における父と子
  反動形成としての『智恵子抄』
  訳詩と劇作詩
  童話と実話
  戦前・戦中・戦後
  自己同化性の人
  人生を刻んだ人
  上野の西郷さんと十和田湖畔の裸女
  父としての役割
  楠公銅像


平川氏には『和魂洋才の系譜 内と外からの明治日本』という著作もあり、こちらは主に森鷗外を論じつつ、光太郎にも触れられています。

元版は河出書房新社さんから、昭和51年(1976)に刊行。気付きませんでしたが、昨年、同社から「完本」の二字が加えられて再刊されていました。いずれ全著作集に組み入れられるのではないでしょうか。

完本 和魂洋才の系譜 内と外からの明治日本

平川祐弘著 2016年6月28日 河出書房新社 定価3,800円+税

日本人は西洋という異質の文明と対峙したとき、その衝撃に対してどのように応答したか。明治という過渡期を縦横に考察し、「日本とは何か」を解き明かしてゆく画期的名著。著者代表作。

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併せてご紹介しておきます。


【折々のことば・光太郎】

大きなる自然こそは我が全身の所有なれ しづかに運る天行のごとく われも歩む可し
詩「冬の朝のめざめ」より 大正元年(1912) 光太郎30歳

「運る」は「めぐる」。「自然」崇拝、讃美の光太郎、本領発揮という感があります。