注文しておいた新刊書籍が昨日届きました。昨日のうちに一気に読みました。 

映画「高村光太郎」を提案します 映像化のための謎解き評伝

2016/04/30 福井次郎著 言視舎 定価1,800円+税
 
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★今年は没後60年。人間・高村光太郎の数々のドラマを追うには、映画化が一番! 大正・昭和期の映画を徹底して研究してきた著者が、映像化のための企画書を内包した異色の評伝に挑む。
★なぜ智恵子は自殺しようとしたのか? なぜ「戦争協力詩」を書いたのか? 花巻への隠棲とは? 十和田湖「乙女の像」のモデルは? ……数多の謎を解き、光太郎研究に新視点をもたらす。
★『智恵子抄』の新しい読み方も提案。

★目次
 第一章 高村光太郎という迷宮
 第二章 ミステリー『智恵子抄」
 第三章 不可思議なる転向
 第四章 「乙女の像」の謎 ほか


著者の福井氏は、「映画評論家」という肩書きをお持ちの方です。そこで、光太郎の生涯を映画化できないか? という提言のために書かれた光太郎評伝です。このブログでも何度かご紹介した昨年公開の小栗康平監督映画「FOUJITA」にからめ、光太郎の生涯を追えば、もっと面白い作品が作れる、という提言。その通りだと思います。

著者のスタンスは、冒頭の「はじめに」に記されています。赤字の部分は、同書で太ゴシックで組まれている部分です。

本書は詩論や文芸評論の類いの本ではないことを断っておく。また光太郎の彫刻や油絵、書について論じた本でもない。本書の関心はあくまで人間「高村光太郎」にある。人間「高村光太郎」の映画化を提案することによって、彼の実像を明らかにすることを目的としている。

また、「光太郎が取った実際の行動から彼の人間像にアプローチするという方法を取っている」「光太郎が書いたものより周囲の証言に重点を置いている」とのことでした。

本文は4章に分かれ、光太郎の生涯を俯瞰。各章はいくつかの項から成り、それぞれの終末に「映画化のポイント」という稿が付されています。そちらは映画の企画書のような体裁。中々面白い手法だなと思いました。

全体に、光太郎に対する健全なリスペクトの念が感じられます。また、映画化という前提のもとにわかりやすく光太郎の生涯を俯瞰しようとする手法には、感心させられました。時に大きな矛盾を抱え、智恵子を犠牲にしたり、大政翼賛に与したりしながらも、「求道」の生涯を送った光太郎の姿が、鮮やかに描かれています。

エラいセンセイたちが研究機関の紀要等にノルマや〆切に追われて無理矢理書く「詩論」や「文芸評論」(とにかく対象を批判しなければ気が済まない)、在野の「自称研究者」が自己顕示のために書くわけのわからない独断のような「イタさ」は感じません。

資料も豊富に読み込まれています。驚いたのは、前半部分を当方が執筆した『十和田湖乙女の像のものがたり』をだいぶ参考になさって下さっていること。感謝です。

ただ、固有名詞の誤りが少なからずあったり、年号や事実関係にも勘違いが見受けられたりするのが残念ですが、それを差し引いても優れた書籍です。

ぜひお買い求めを。


【折々の歌と句・光太郎】

まよひゆく花野のおくぞきはみなきいづこを果と此身は捨てむ
明治35年(1902) 光太郎20歳

光太郎の生涯、ということに思いを馳せると、この短歌が思い浮かびます。