「オークション」というシステムがあります。昨今は一般人が自由に出品できるインターネットオークションが幅広く利用されています。
 
元々「オークション」といえば、英国のサザビースのように、決まった日にちに特定の会場で競りをするもので、時折報道で「××の絵が○億円」などとあるのは、殆どがこうした「アートオークション」によるものです。
 
日本でもアートオークションを運営している企業が幾つかあり、現在は愛知のメナード美術館に収まっている光太郎作の木彫「栄螺」は、こうしたアートオークションで70余年ぶりに世の中に出て来ました。
 
さて、日本のアートオークション運営会社の中でも大手のシンワアートオークションさん。去る6月28日(土)にシンワアートミュージアムにて「近代美術 / 近代陶芸 / 近代美術PartIIオークション」を開催しました。
 
こちらに光雲作の木彫「聖観世音菩薩像」が出品され、落札されています。
 
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落札価格は、なんと¥10,500,000=一千とび五十万円。普段、せいぜいカンマ一つの世界でしか生活していませんので、右から「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……」と数えないとパッとわかりませんでした。
 
光雲作の優品であれば、このくらいの値段がついてもおかしくはありません。
 
つい先日も同じことを書きましたが、光雲生前には、作品の値段もそれほどではなかったようです。光太郎の回想によれば、光雲は「1日の手間賃がいくら、この作品は何日かかったからいくら」という計算で価格を決め、それもたいした値段をつけなかったといいます。曰く「俺にゃ、そう高く取る度胸はねえ」と、江戸っ子の職人の気概を終生持ち続けたとのこと。
 
ところが、客との間に入る商人がマージンを高く取ることがあったそうで、光雲歿後にはそうした美術商が何軒かつぶれたという話も残っています。泉下の光雲は苦笑しているのではないでしょうか。
 
もっとも、同時に落札された棟方志功の板画は八千二百万でしたが……。
 
【今日は何の日・光太郎 補遺】 7月4日
 
昭和62年(1987)の今日、八千代出版から石井昌光著『日本近代詩人論 ――高村光太郎から丸山薫まで――』が刊行されました。
 
石井氏は明治44年(1911)のお生まれ。宮城学院女子大002学の学長などを務められた方です。「あとがき」によればこの年に亡くなっています。
 
そういう大先輩に対して失礼かとは存じますが、真面目ないい論考です。
 
扱われているのは光太郎を筆頭に、萩原朔太郎、宮澤賢治、三好達治、丸山薫。それぞれの詩人に対する敬愛の眼差しが伝わってきます。
 
やはり扱う対象に対するリスペクトの念に欠けるものは、読むに耐えません。「対象の批判をするな」というわけではありませんが、その対象が「鼻持ちならない」とか云うなら、「論じるな」と言いたくなります。
 
といって、一面だけを捉えて、我田引水のリスペクトも困りものですが……。自戒のためにも書いておきます。
 
ちなみに右の画像、白っぽいのはパラフィン紙のせい。シミは古書店で購入した時からついていました。