1/27(日)の「神戸新聞」さんに以下のコラムが載りました。「朝日新聞」で言えば「天声人語」のような欄でしょうか。 

正平調 

武庫川にほど近い西宮市の住宅地で、レモンがいっぱいなっている002。数日前、本紙阪神版に載った写真である。なんてみずみずしい色だろうと目が留まった◆段上町2の安井進治さん宅だ。阪神・淡路大震災で自宅が全壊し、両親が亡くなった。その翌年、更地になった所にレモンの苗木1本を植えた。実を付けるまでレモンは年月がかかるというが、なるほど実が枝をしならせ始めたのは、かれこれ5年ほどたってのこと◆秋になった実は、年の瀬には黄色く変わる。1月になると香りはいっそう強くなって、近くを通るだけで気づくほどになるそうだ。まるであの日の記憶を呼び覚ますように被災地で香りを放つ…と想像がつい膨らんでいく◆高村光太郎の「レモン哀歌」を重ねてしまう。息を引き取る前に愛妻はレモンを口にする。その「数滴の天のものなるレモンの汁」でかすかな笑みが浮かぶ。そんな別れの詩から、あの香りと味には生きる力をかきたてる何かがあると感じる◆大震災といえばヒマワリが象徴だ。少女の命が奪われた神戸市東灘区の民家跡に咲いたのが、この花。見かけた近くの男性が少女の名をとって「はるかのひまわり」と名付けた。やがてその種が、震災の教訓を伝えるシンボルとして全国に広がる◆明るいヒマワリが復興を語る花なら、かぐわしいレモンは復興への香り。そんな想像を膨らませながら、黄色い実を見続ける。2013・1・27
 
西日本で「大震災」といえば18年前の1月に起きた阪神淡路大震災なのですね。いまだ震災の記憶をとどめるものがこのように残っていることで、記憶の風化を防ぐことにもなっているのでしょう。
 
東日本大震災からもうすぐ2年。こちらの傷跡はまだまだいたるところに残っています。この記憶も風化させないようにしていきたいものです。
 
【今日は何の日・光太郎】1月30日

昭和28年(1953)の今日、中央公論社から刊行された『高村光太郎選集』全6巻が完結しました。