昨日はテレビ東京系の番組「美の巨人たち」で取り上げられた、17世紀イタリアバロック期の彫刻家、ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ作「アポロンとダフネ」に関して書きました。
 
同番組の中では、2次元の芸術である絵画と、3次元の造型である彫刻、どちらが優れているか、といった話も出て来ました。それは一長一短、単純な比較は出来ないものだと思います。
 
しかし、一ついえることは、2次元だからといって、3次元を感じさせない絵画ではだめなのでしょうし、3次元なのに2次元的な(平板な)彫刻ではもっとだめだということです。
 
ところで、3次元の彫刻には、2次元の絵画にはない特質、というか恐ろしさといった部分があるように思います。
2次元の絵画は、2次元であるが故に、よほど変な角度から見ない限り、その見え方にそれほど差異は生じないと思います。もっとも、遠くから見るか、近くで見るかという問題はありますが。モネの「睡蓮」などはいい例です。
その点、彫刻は360度、どの角度から見るかによって全く見え方が異なるわけです。また、360度だけでなく、上から見下ろすか、自分の目線と同じ高さで見るか、下から見上げるか、そういうことまで考えると、視点の位置は上下左右全方向が存在します。彫刻を中心にした球体の内側に自分がいる、というイメージでしょうか。
 
先日、第57回高村光太郎研究会で、大阪の研究者・西浦氏との雑談中、田辺市立美術館での「詩人たちの絵画」展に話が及びました。氏も見に行かれたそうです。同展には光太郎の有名な彫刻「手」が出品されていました。
 
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そこで、西浦氏曰く「あの『手』は長野の碌山美術館に展示されているものと較べて一回り小さい感じがした」とのこと。ご存じない方のために補足しますが、ブロンズの彫刻は同じ型から鋳造したものが複数存在します。「手」も全国に散らばっています。しかし、サイズの違うものはないはず。そこで即座に否定したのですが、氏はどうも納得いかなかったようで、田辺市立美術館、碌山美術館双方に問い合わせたそうです。結果、やはりサイズは同一。高さ39㌢、幅28.7㌢、奥行き15.2㌢だとのこと。
 
これは、展示方法の相違による視点の違いで、大きさが異なって見えるのだと思われます。碌山美術館では目線とほぼ同じ高さに展示してあり、しかも間近に見られるので、大きく見えます。しかし、田辺では上から見下ろすような角度での展示だったので、やや小さく見えたということなのでしょう。
 
そう考えると、彫刻の展示というのはある意味恐ろしいものがあります。展示の方法によって、視る者の視点を限定してしまうことがありえるからです。それを逆手に取ったのが昨日のブログに書いたベルニーニの「アポロンとダフネ」なのです。
 
ミケランジェロなどもこの手を使っているようです。有名な「ダビデ」。目線と同じ高さで見ると、やけに頭がでかい。しかし、下から見上げると遠近法の魔術で、そう感じられないというのです。逆に言えば正しいサイズで頭を作ったら、下から見上げた時に変に小さく見えてしまうということです。
 
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この「視点」の問題、ロダン彫刻にも存在します。明日は西浦氏からいただいた海外のロダン彫刻の写真にからめて考察してみます。