まずは12月1日(水)の『読売新聞』さん夕刊。一面コラムです。

よみうり寸評

高村光太郎は冬という季節に格別の感情を抱いていたらしい。詩を読んで思う。◆たとえば〈冬よ/僕に来い、僕に来い/僕は冬の力、冬は僕の餌食だ〉(『冬が来た』)。あるいは、〈冬の寒さに肌をさらせ/冬は未来を包み、未来をはぐくむ/冬よ、冬よ/躍れ、叫べ、とどろかせ〉(『冬の詩』)◆凡俗の身には同じく縁遠いと思わせる言葉に、「歳寒(さいかん)の松柏(しょうはく)」がある。どんな苦境にも節操を失わないさまをいうが、由来は松などの常緑樹が厳寒にも色を変えないことにある◆田中修著『植物のすさまじい生存競争』によれば、常緑樹でも夏の葉をそのまま低温下に置くと凍って枯れる。そうならぬよう葉は冬に向けて糖分などを蓄え、凍るのを防ぐという。12月、気象庁の季節区分でいえば冬がその幕を開けた◆餌食にするのは無理にしても、葉っぱに倣い、やり過ごせるだけの体力気力を秋の名残のあるうちに養っておきたい。原油高に新しい変異株ときて、降雪量多しの予報もある。この冬、結構な難物かもしれない。

おおむね毎年、この時期になると、各紙の一面コラムなどで光太郎の冬の詩からの引用が為されますが、今年もお約束で。寒さに弱い身としては、冬の寒さは暗鬱な気分にさせられるのですが……(笑)。

同じく一面コラムで、『山陰中央新報』さん。昨日の掲載分です。昨日も同様の件をご紹介した、太平洋戦争開戦の12月8日にからめてですね。

明窓・日米開戦から80年

早朝の臨時ニュースに続いて、午後に戦況が伝えられると、国民の多くが狂喜したという。当時、大学生だった作家の故阿川弘之さんは、下宿でラジオを聞いて「涙がポロポロ出て来て困った」と振り返っている。この日、開会中だった島根県議会も議長の発声で万歳の後、「県民の覚悟の決議」を満場一致で採択したそうだ▼1941年12月8日、日米開戦の口火となる真珠湾攻撃当日の出来事だ。日中戦争のこう着状態が続く中、経済制裁の影響も重なり、国民の反米感情は高まっていた。2日後には当時の松江市公会堂で、日露戦争開始以来となる「必勝祈願県民大会」が開かれた▼緒戦勝利の感激は当時の作家たちも同じ。阿川さんによると、志賀直哉、武者小路実篤、谷崎潤一郎、吉川英治、高村光太郎らも、その感激を文章や詩歌にしたという。街中には「屠(ほふ)れ米英我等の敵だ 進め一億火の玉だ」の言葉があふれた▼一方で、庶民の暮らしには既に大きな影響が出ていた。生活必需品の配給制に加え、金属製品の供出が始まり、バスの燃料も木炭や薪(まき)に。「産めよ殖やせよ」の国策に沿い島根県が、男子25歳、女子19歳の「結婚適齢者登録」を始めた、との記事も残る▼日米開戦から80年。スローガンで敵視された「米英」も「贅沢(ぜいたく)(は敵だ)」も、今では敵ではなくなった。時代の流れとはいえ、変わり身の早さに複雑な思いがする。

「綸言汗の如し(りんげんあせのごとし)」という格言があります。元々は中国原産で「皇帝が一旦発した言葉(綸言)は取り消したり訂正したりすることができないという」意味ですが、皇帝に限らず、特に社会的地位のある人の発言には、そういう面がつきまといます。80年経っても、光太郎の翼賛詩がやり玉に挙がるのも仕方がないでしょう。逆に現代において「これぞ皇国臣民の鑑」と、大音量で軍歌を流す街宣車よろしく、SNS上にアップして悦ぶのは愚の骨頂ですが。

ちなみに阿川弘之が挙げたという光太郎以外の4人の文学者の中に、光太郎同様、翼賛作品を大量に発表しながら、後に刊行された『全集』に、そうした作品が一切載せられていない人物がいます。「あれは無かったことにしよう」という意図がありありと見え、呆れます。『選集』ならともかく、それを『全集』と称していいのでしょうか? それが本人の意志なのか、取り巻きの「忖度」なのか、そこまでは存じませんが、「綸言汗の如し」の言葉を贈りたいと思います(笑)。同様に「誤解を与えたとすれば訂正し、取り消します」とのうのうと発言する現代の政治屋にも、ですが(笑)。

「負」の部分で、もう1件。『東奥日報』さんから。

店舗撤去、明け渡しを/十和田湖畔・休屋/国が景観改善へ提訴

 青森県十和田市の十和田湖畔・休屋地区の国有地にある休廃業施設が景観を損ねている問題で、国が、同地区で休憩所などを営業していた会社に対し建物の撤去と土地の明け渡しを求め、青森地裁十和田支部に提訴したことが3日分かった。国による同様の訴訟は4件目。第1回口頭弁論は来年2月25日。
 明け渡しを求められたのは、十和田湖畔で「ひめます商店」「ギャラリーぶなの森」を経営していた「有限会社えびすや」。訴状によると、2019年6月に破産手続き開始の決定を受けていた。
 えびすやの旧店舗は国が管理する十和田八幡平国立公園内にある。
 国は訴状で、えびすやが今年3月末までに土地の使用許可を更新しなかったため、現在は権限もないのに国有地を占有していると主張している。
 環境省十和田八幡平国立公園管理事務所の深谷雪雄所長は取材に、「旧店舗は十和田神社や乙女の像に近い場所にあるため、観光を盛り上げるためにも景観改善に優先的に着手した」と述べた。
 休屋地区を含む十和田八幡平国立公園は、国の「国立公園満喫プロジェクト」のモデル対象。同地区では休廃業施設が廃れた印象を与えかねないとの懸念があり、景観向上に向けた対策実施を掲げていた。

現在、「カミのすむ山 十和田湖 FeStA LuCe 2021-2022 第2章 光の冬物語」が開催されている、十和田湖畔休屋地区。バブルがはじけた頃から空き店舗等が目立つようになり、やがてシャッター街、さらに廃墟となってゴーストタウンに近くなっている区画もあります。それを「経営努力が足りない」と叱責するつもりもありませんが、果たすべき責任はきちんと果たして欲しいものですね。

暗い話題で終わるのも何ですので、もう1件。『福島民報』さんから。

一色采子さん、朗読劇「智恵子抄」アピール 12日に福島県二本松市で 

008  女優の一色采子さんは8日、福島民報社の取材に応じ、12日に福島県二本松市で出演する朗読劇「智恵子抄」に向け「感動を味わっていただきたい」と意気込みを語った。
 高村光太郎と智恵子の夫婦愛を描く作品。「演技もあり、朗読が立体的に伝わると思う。来て良かったと思っていただけるようにしたい」と話した。
 二本松市の安斎文彦にほんまつ観光協会長、国田屋醸造代表の大松佳子さんが同席した。
 一色さんは同日、福島県庁に内堀雅雄知事も訪ねた。
 朗読劇「智恵子抄」は12日午後2時からと午後4時30分からの2回、安達文化ホールで開かれる。松竹の主催、市教委の共催。前売り券は3000円、当日券は3500円(全席指定)。午後2時からの回は完売した。問い合わせは二本松市教委文化課へ。

12月12日(日)に開催される「朗読劇 智恵子抄」二本松公演に関してです。先週行われた銀座公演とは異なり、ネットや電話等でチケットが購入できないとのことで、「販売に苦労しているらしい」と、一色さんがこぼしてらっしゃいましたが、午後2時からの部は完売だそうで、喜ばしく存じます。午後4時からの部も満席となって欲しいものですね。

お近くの方、ぜひどうそ。

【折々のことば・光太郎】

午后小憩、「文化の諸様式」をよむ、「源氏」をよむ、


昭和26年(1951)7月31日の日記より 光太郎69歳

午前中は洗濯にいそしみ、午後は読書。「文化の諸様式」は、アメリカの人類学者ルース・ベネディクトの評論、「源氏」は谷崎潤一郎訳の「源氏物語」で、共に中央公論社から、この年に再刊されました。

70近くになって、こういった書物を愛読していた光太郎。教養人の鑑ですね。